時代考証   番外編「昭王迎二十歳賀」


「時代考証が遅れ気味だが、今日は『番外編』について行なう。」
「ちょっと待て、カミュ!その前に一つだけ注文がある!!」
「わかっている、ミロ。あの件については一切触れぬから安心するがいい。」
「そうか、それならいいんだが・・・・・・・・。」
「それについては、すでに話し合ったではないか?まだ気にしているのか?」
「いや、大丈夫だ、もういい。」

あれは話し合ったというよりは一種のBody languageじゃないのか?なにしろあの夜は・・・・・・などと思いながら席についたミロは、
カミュに見咎められないうちに急いで表情を引き締めた。

「今回は注釈をつける語句が多く、ヴィジュアルな画像も用意してある。まず
御衣(おんぞ)について。
 御衣とは衣服の敬称のことだ。
 この場合の「御」は、神仏・天皇・貴人の所有物・行為などを現わす名詞について尊敬の意を添えるものだ。」

そうするとサガやシャカの聖衣は、「御」がついて「御黄金聖衣」ってわけか?
なにしろ二人ともほとんど神扱いのキャッチコピーがついてまわるからな。

加冠、これを調べるのには苦労した。なにしろ古語辞典を引くと、『かかん』ではなくて『かくゎん』として載っているのだからな。
 加冠とは男子が元服して初めて冠をつけることだ。それによって成年と認められるのだろう。画像を見て見よう。
 昭王の場合は、この礼冠より1800年以上昔のことだが、一方、この冠は諸臣の使用したものなので最高の品というわけでもなかろう。
 これに準ずるものを想像するしかあるまい。」

ほう、これで諸臣なら、最高の地位にあるものはどんなに豪華なものを身につけたことか!
しかし、昭王の加冠も華やかだったろうが、俺の記憶にあるカミュの加冠も素晴らしかった!!!!
まだ小さかったというのに、教皇がマスクを載せた瞬間、あたりが光り輝いたような気がしたからな。
思わず涙が出たのを、俺は今も忘れん!!!!

中黄(ちゅうき)、これは白味がかった黄色だ。萌黄(もえぎ)は、やや黄色味を帯びた緑色。青磁色は柔らかい青緑色だ。
 これに瑠璃色を合わせるというのが太后の色彩の好みということだ。」

俺自身は、真紅みたいなはっきりした色が好みだが、言われてみればこれもいいかもしれん。
案外、カミュ好みなんじゃないか?うん、似合いそうな気がする。
来月の誕生日にはこの線で考えてみるか!青磁なんて、いかにもカミュの肌に合いそうだ。

「何を笑っている?続けるぞ。
紗綾形(さやがた)、卍の形をくずして連続させた模様になっている。このページの背景がそれだ。
 『紗綾』とは、平織りの地に綾織で模様を織り出した光沢のある絹織物だ。つまり、昭王のこの衣裳そのものだと思われる。
 
鬱金(うこん)色、これは鮮やかで濃い黄色だ。鬱金というショウガ科の植物の根茎からとった黄色い染料で染める。
 お前好みの色ではないのか?」

ふふ、さすがはカミュ、俺の好みをよくわかってるじゃないか。
真紅と鮮黄といえば昭王の竜旗の色じゃなかったか?やはりつながりがあるとしか思えんな。
しかし、同時代に生まれていたら、どちらがカミュを我が物にしたんだ?
カミュがどっちを選ぶかも問題だな。
・・・・・・・・・我ながら恐い発想だ、考えんほうがいいだろう。

禁色(きんじき)、衣服に使用することを禁じられた色の意だ。天皇・皇族の衣服の色に紛らわしいため臣下の着用を禁じたらしい。
 日本では、くちなし色、黄丹、青、深赤、深紫、緋赤、深蘇芳(ふかすおう)の七色のことをいう。」

ふうん、赤だの青だのは普通にそこらへんにある色だろうに、そんなのまで禁じられたら不便じゃないのか?
しかし、昭王しか使わない色を定めるっていうのもすごい話だな、それをいうなら、俺はカミュにこそ禁色を定めたいね。
カミュのあの白い肌にふさわしい色は、というと・・・・・・・・・、今夜ゆっくり検討するとしよう ♪

繻子(しゅす)、光沢があって肌触りがよい織物だ。」

ほほう、それこそカミュの・・・・・・・今夜だ、今夜♪

笄(こうがい)、髪飾りの一種で髷(まげ)などに挿すものだ。金銀・鼈甲・水晶・瑪瑙(めのう)などで作る。
 画像
では様々な意匠があるようだ。」

常々思っているんだが、実は俺はカミュの髪をちょいとばかり結い上げてみたい!
あれほど艶やかで豊かな髪を、こうふわっと持ち上げてだな、
神話に出てくる女神みたいに頭の上で結い上げたらどんなに素晴らしいか、やってみたいのだ。
しかし、どんなに考えてみても、とても実行不可能だ・・・・。
そんなことを言い出そうものなら一週間は禁足をくらうんじゃないか?
禁色はいいが、禁足はまっぴらご免だぜ。
あ………よく考えてみたら 「禁色」 も面白くないっ!

挿頭(かざし)、頭髪・冠などに花の枝、もしくは造花などを挿すこと。遊宴・儀式の際に飾るものは、その種類や官位によって花が異なった。
 初めは信仰的な意味を持っていたがのちには単なる装飾となった、とある。解説つきの画像だ。なかなか精巧な造りだな。」

ほう、俺はますますカミュの頭に飾りたくなってきたね。
ううむ、昭王の加冠もいいが、カミュの加冠も見たくなってきたぞ。
どう考えても、自分の加冠よりカミュの加冠のほうが美しいに決まっている!
ほとんど世界遺産に匹敵するのではないのか?
昭王をほうっておいて、この態度は問題かもしれんが、事実だから仕方がないな。

佩玉(はいぎょく)、玉佩ともいうようだが、
 歩くたびに音を立てるのであれば、貴人の接近をあらかじめ周囲に知らせ、無礼のないように気をつけさせる、という目的もあるのかもしれぬ。
 小さい画像 ・ しか用意できなかった。」

加冠の儀ではいいかもしれんが、普段からこんなものをさげるわけにはいかんな。
お忍びでカミュの部屋に近づくことができんではないか、迷惑この上ない!
「衣擦れの音高く」というのも考えれば大問題だ!
昭王は絹しか着ないだろうから、少し動いても衣擦れの音がするんじゃないのか?
そんなことでは、密かに行動することが不可能になる。
本当に不便な時代だな、その点、現代は実にありがたい。

「これで最後の言葉になる。
薫球(くんきゅう)、金属等の開閉できる球の中で香をくゆらせるもので、腰からさげて使用したらしい。
 画像では大きさがわからないが、直径5、6cmといったところではないのか。」

優雅なものだな。カミュがさげるとしたらなんの香りがよかろう?
柑橘系が好みなのかな? カミュは香水の類を使わんからわからんな。
なんにしてもムスク系だけはいかん!俺の大事なカミュに余計な虫がつくっっ!!!!!!



今回はかなり長かったのでカミュもかなり疲れたとみえ、資料を脇に置くと、ほっとしたように目を閉じている。
「カミュ、疲れたのか?」
カミュはうっすらと目を開けた。
「それほどでもないが、はやくまとめようと、昨夜は徹夜だったのでな。」
「そんなにいそがなくても・・・・・・、第一、身体に悪いぞ。」
「いや、今回は専門用語が多い。早く解説をせぬと、昭王の盛儀の有様を詳しく知らしめることができぬのが残念でならなかったのだ。
 せっかくのお前の・・・・・・いや・・・昭王の晴れ姿だからな。」
そう言うとカミュは再び目を閉じた。
ミロはちょっと迷ったが、静かに立ち上がるとカミュの席の後ろに回り、カミュの両肩に手を置くと、かがみこんでささやいた。
「カミュ・・・・・・、今夜も徹夜じゃ嫌か?」
一瞬、艶やかな髪が揺れた。
返事はなかったが、その白い頬に少し赤みがさしたようだ。
ミロは匂いやかな髪を一房とると、そっと唇を押し当てていった。