「 評価 」


「俺って、『 うまい 』 と思う?」
「なにがだ?」
「だからさ……言いにくいな………え〜と……ほら、あれのこと。」
「あれ、ではわからぬ。 私は、花いちもんめをやっているわけではない。」
「しかたないな………耳を貸せよ………………のことだ。」
「……な、なにぃっっ!そ、そんなことを私に訊かれてもっ……」
「だって、ほかに誰に聞くんだ?お前のほかに判断できる奴がいないのは、わかっているだろう?」
「し、しかし…」 (←絶句)
「判断基準はお前だ。で、どうなの?」
「………どうしても言わねばだめか?」
「うんっ、聞きたい。」

ここでカミュは考えた。 目の前のミロは目を輝かせて待っており、返答を避ければ、「 わからないなら、もう一度考える機会をやるよ。」 となるのは目に見えている。 カミュは大きく息を吸った。
「つまり……お前の求めているのは評価だと考えられる。」
「ああ、その通りだ。」
「評価には通常、絶対評価、相対評価、個人内評価の三種類がある。 そして、評価とは、一定の集団内で他者と比較したときに自分がその集団内でどこに位置するかということだ。」
「あ?……ああ、そうだな。」
「では、具体的に考察する。」
「うむ、聞かせてもらおう!」

「絶対評価とは、あらかじめ設定された目標に対する達成の度合いをみるものだ。 ここでは、お前の示唆した件を便宜上 『 技術 』 という語句で表現したいと思うが、異存ないか?」
「あ?ああ、かまわんさ、きわめて適切だと思うぜ。」
「この場合の目標は私が設定したものではなく、お前の個人的見解で設定したものだと思われる。」
「うん、確かにそうだ。」
「で、その目標とはなんだ?」
「なにって………ええっと、お前を最高に満足させることだな。」
「『 最高 』 の数値は?」
「えっ??そんなもの、あるわけないだろう?」
「最高の数値が確定できぬ以上、個々の事例の満足度を数値化することも不可能だ。よって、この件においては、絶対評価の適用はこれを除外する。」
「あ……そう…」

「次に相対評価だ。」
「こんどは期待したいね。」
「相対評価とは、一定の集団内においてどの位置を占めるか、ということだ。 さきほどの絶対評価は、設定された目標に対する到達度を考察したが、今度は他者との比較になる。 つまりお前の有する 『 技術 』 が特定の集団内においてどの位置にあるかを調べればよい。」
「うん、 面白そうじゃないか!」
「はたして、そうか? お前が先ほど言った言葉を借りて、お前が 『 技術 』 を行使する目的を、私の得る 『 満足 』 とする。 この場合、一定の集団内でのお前の 『 技術 』 の位置を知るにはどのような手段が考えられる?」
「ん……?ええっと…」
「では考えやすくするために、一定の集団を、お前の属性でもっとも顕著であるところの黄金聖闘士の集合と仮定しよう。」
「ああ、それがいいな。」
「つまり、集団内の全ての対象が私に 『 技術 』 を行使し、それから得られた私の  『 満足度 』 を数値化すれば結果が出る。」
「え?……なっ、なにぃ〜〜〜〜っっっ!!!!!カミュっ、お前、な、なにを言っているのか、わかってるのかっっ??」
「しかし、先ほども述べたように満足度は数値化できぬし、私もこの検証方法は好まない。 よって、相対評価もその適用を除外する。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……お、お前、冷静すぎないか?心臓が止まるかと思ったぜ!」
                 (↑ つい、巷で噂になることの多い特定個人 S との情景を想像してしまったらしい )

「最後に個人内評価だ。」
「もう、好きにしてくれ………聞いた俺が悪かった……」
「個人内評価は、他者との比較ではない。 あくまで、その一個人の中での評価であり、わかりやすく言うと、過去と比較して現在がどうであるか、ということになる。 だから………その……」
「………え?」
「評価の対象は一個人に限定されるので……比較検討は容易であり……」
「…うん、それで?」
「……… 『 満足度 』 という曖昧な評価項目についても結果が得られやすい……と思う…」
「ふうん…そうなんだ。で、お前の評価は?」
「あの…それは………」
「これだけ長く講義したんだから、有用な結果を広く世間に公表すべきだと思うぜ。 どうなの?」
「ミロ………」
「言って………早く…」
「あ……」
「言いにくければ、俺だけに聞こえるようにささやいてくれればいいさ……俺が寛容だって知ってた?」
「ん………」
覚悟を決めたカミュが頬を染めながらそっとささやき、それはミロをいたく満足させた。
「大好きだ、カミュ………これから、現時点における俺の有する技術の最終確認をしてもらえるかな?」
「ん……」

この最終確認はかなりの時間を必要とし、その結果にミロはたいそう満足を得たと伝えられている。


                             



            唐突に出た硬派黄表紙。
               きっかけは、うちのミロ様は………がうまい、と或る方から褒められた(?)ことです。
               つまり、房事のことですが。
 
               「え…?」 
               そ、そうなのかしら???

               「ふうん……」 と思ってそのお返事に話を書き始めたら、とんでもない長さに!
               愉快だったので、黄表紙に昇格です。