この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日 |
俵 万智 「サラダ記念日」
より
「ねえ、ミロ、いいこと考えたんだ!今日がなんの日か知ってる?」
カミュが訓練のあとで駆け寄ってきた。
まだ冷たい風の中でちょっぴり頬を赤くして、ほんとに可愛いったらありゃしない。
「え? 今日って・・・・・3月6日だろ? なにかあったっけ??」
はてな? いったいなんだろう?
どうにも思いつかないのが悔しいけど、カミュの方が物知りなのはいつものことだし・・・・・。
「あのねぇ、教えてあげる! 3月6日は 『 ミロの日 』 なんだよ、今日、決めたんだからね!」
はにかみながらそう言うと、カミュは一散に走っていってしまった。
「『ミロの日』ってなんだよ、それ?!」
あ〜あ、行っちゃった・・・・ちぇっ、もっとしゃべりたかったのに!
でも、「ミロの日」か・・・・・・・・うん、それ、いいな! カミュでも語呂合わせなんかやるんだ ♪
ふ〜ん、『カミュ』で、何かできないかな? ・・・・・・・・無理みたい・・・・残念だなぁ。
喜ばせたいのに、何か買おうと思っても、このへんにはお店なんかないし。
・・・・・・・・そうだ、いいこと思いついたっ!!!
歌を作って贈ればきっとカミュ、喜んでくれるな! そういうの、好きそうだし。
うん、そうしよう ♪♪
あれこれ考えながら登る天蝎宮までの長い石段が、今日はとても近く思えた。
◆◆◆
「ミロ、お前、今日がなんの日だか覚えているか?」
夕食を終えたあとで、カミュが突然尋ねてきた。
「え?」
そういえば、今日のワインは絶品だったし、クロスもキャンドルも凝ってるな・・・・・・・・
覚えているかって、なにかのメモリアルデーだったかな?
まてよ、3月6日って・・・・・・
「あ・・・・・・・・」
ミロの顔が輝いた。 カミュはちゃんと覚えていてくれたのだ。
「忘れちゃいないぜ、なんといってもあの歌は俺が作ったんだからな!」
『この語呂がいいねとカミュが言ったから 3月6日はミロの記念日』
胸のうちで繰り返しているうちに、遠い日の記憶が蘇ってきた。 くすりと笑ったミロが席を立ち、カミュに優しくキスをする。
「それとも、こんなのはどうだ?
『この味がいいねと俺が言ったから 3月6日はカミュ記念日』。」
「・・・・・・・・それほどいい出来ではないな。」
顔を赤らめたカミュに、ミロが笑いかけた。
「いや、最上の味だ。俺が保証する。」
ミロの唇が、もう一度、カミュのそれを柔らかく包んでいった。