黒髪の乱れも知らずうち伏せば まづかきやりし人ぞ恋しき

                                               和泉式部

               【歌の大意】    黒髪の乱れたままに伏している私
                           その乱れた髪をかきやってくれた人が今は恋しくてならないのです


どうすればいいのだろう…………

昨日の夜………初めてミロと過ごして……
何もかもが驚きと困惑の連続で……口もきけずにいた私をミロはどう思ったことだろう
とても恥ずかしくて…ほんのすこし怖くて……たしか涙が出たように思う……
……黄金の私が泣いたのか?
最強の凍気を誇る、このアクエリアスのカミュが?
大気を凝結させ 極北の氷壁を撃ち砕き 四海をも凍結させ得るこの私が?

そんなことがあろうはずはない!
神話の時代より輝きを誇る黄金聖衣をこの身にまとい、アテナとともにこの地上を守る私が?
きっとそれは、情にほだされ、ほんのいっとき気弱になっただけなのだ、そうに違いない、きっと…………。

ミロはいつだってやさしくて、明るくて……
昨夜も今まで以上にやさしくて……………誠意と情熱があふれていたように思う
なにを言われたか、あまりよく覚えていないが、ともかくやさしかったように思うのだ
でも……今日からどんな顔をしてミロに会えばいい?
誰かに会うのが怖くて、ただでさえこの宝瓶宮から一歩も出られぬというのに、
もしも外でミロと行き会ってしまったら?

今までのようには話せない
顔もまともに見られない
誰かがミロの名を出しただけで、心臓が跳ね上がり血が逆流するかもしれぬ
これでは黄金の務めを果せない

私はどうすればよい……?
こんなとき 人は誰かに相談するのかもしれぬのに、私が相談できるのはミロだけで……
そのミロは私に………

じきに夕刻になる
あたりが暗くなればミロがやってくるだろう
明け方 別れ際に 「一人で帰すにはしのびない。今夜は俺が行ってもいいか?」 と訊いてくれたから。
きっと、あまりにも私が……消極的だったので………歩いて帰ることも無理そうに思えたのだろう
そこまで気弱くはないけれど……でも誰かに会うかもしれぬと思うと………
ミロはやさしいから 私のことを気づかって、私が宝瓶宮から出なくてもいいようにしてくれたのだ

ミロが来たら どんな顔をして迎えればよい?
笑えない 泣けない 怒れない……でも とても普通ではいられない
なんの話をすればいいのかわからない 
そして……また触れられたらどうすればよい?
ミロ ミロ………私をこんなに戸惑わせたのはいったい誰だと思っている?

思い悩むままに伏せていると 身に添う髪も乱れているのに気付かされた
昨夜はこの髪をミロがかきやっていたかと思うと 一人赤面せずにはいられない
ミロ………私はどうすればよい?
黄金としての自信を失いかけている私を知ったら、ミロはなんと思うだろう?
そんな気弱な私だと知ったら、ミロは離れていってしまうだろうか?
そして もしも……もしも今夜来てくれなかったら………?

ミロを前にすると口がきけなくて………自分からはなにもできなくて………
それでも……それでもミロに逢いたい そしてミロの言葉を聞きたい
ミロの腕の中にいても 私のすべてをゆだねていても
これからも変わりがないのだと 今まで通りでいられるのだと
そう 私に確信させてほしいのだ
だから 
ミロ……ミロ……早く来て

私は畏れをいだきながら お前を待ち焦がれている

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                           恋愛歌人 和泉式部。
                           この人が来ると、古典読本は一気に花開きます♪

                           カミュ様、いまだに性格は変わりませんね、
                           ほんと、こんなことになったらとても平静ではいられません。
                           ミロ様と普通に話ができるようになるには、長い時間が必要です。
                           双方の努力の上に、今現在のお二人があるのでした。