◆ 第十六章  遊園地


遊園地といえばなんといってもジェットコースターだ。
できるものなら富士急ハイランドの 『 ドドンパ 』 とか 『 FUJIYAMA 』 とか 『 ええじゃないか 』 あたりに乗ってみたいのだが、かなり遠いのでこれからではいかがなものか。 あそこには去年の夏に行く予定を立てていたのだが台風のせいで計画倒れに終わっているのだ。
そうでなかったら手近の東京ドームシティアトラクションズだろうか、以前は後楽園遊園地といってたやつだ。 あそこのアトラクションも土地が狭いわりにはなかなかいいのが揃ってる。 タワーハッカーは地上80メートルの高さから真下に急速度で落下するやつでなんとも迫力があり、気に入った俺は三回続けて乗って、そのあとベンチで15分ほど休んでいたくらいだ。 一緒に乗ったカミュは落下速度とか加速とか考えていたらしくて、「 ちょっと驚いた。」 しか言わなかったのを覚えてる。
「遊園地ってどこにあるの? 遠いの?」
「ここから東京駅に出て京葉線の快速に乗ったら13分で着くよ。」

   ………え、それって、もしかして……

「ジョアンはディズニーって知ってるかな? 東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの二つの遊園地を合わせて東京ディズニーリゾートといって、その頭文字をとってTDRという名前で呼んでいるのだけれど、とても立派で楽しい遊園地だよ。」
俺と手をつないで正門まで歩きながらカミュがにっこり笑う。

   ディズニー!
   この俺が連れて行ってもらうのはディズニーか?!
   あそこが 「 遊園地 」 だったなんて、今日初めて知ったぜ!

俺の認識するところではディズニーはディズニーであって、あれを遊園地と呼ぶ人間には今まで会ったことがない。 豊島園や富士急とは一線を画していると思うのだ。 それにしても五歳の子供にまで几帳面にTDRの語句解説をするところはいかにもカミュらしい。
「ディズニーって、ちょっぴり知ってる! ええと、ミッキーマウスとかプーさんとか♪」
ジョアンは初めて日本に来たのだからディズニーに行ったことはないという設定だ。 ミロに預けられたばかりなのだからまだろくに日本のことは知らないに決まってる。
ディズニーの園内にはおなじみのキャラクターがあふれており、アトラクションはすべて子供を対象にしているのであまり迫力はない。 筋金入りのディズニー好きも数多く、日本人だけでなくアジアからもかなりの客を集めている。
たしかにドドンパやFUJIYAMAクラスのこれでもかというようなジェットコースターこそないけれど、小さいジョアンにとっては怖い乗り物があるだろうからカミュに抱きついて慰めてもらえるし……♪

   あれ?待てよ?
   遊園地って、たしか乗り物によっては年齢制限とか身長制限があるんじゃないのか?
   果たしてこの身長でビッグサンダーやスプラッシュに乗れるのか?
   お子様向けのディズニーの中でもかろうじて少しは迫力のあるジェットコースター系に乗れなかったらどうする?
   ………まさかまさか、幼児向けのダンボやピノキオにしか乗れないんじゃないだろうなっ??
   だいたい、俺の身長は何センチなんだ??

今すぐにネットをひらいて年齢制限や身長制限を確認したかったが、今はどうすることもできはしない。
正門が見えてきた。

「よう!待ってたぜ!」
「こんにちは、ジョアン、また会ったね!」

   ……あれ?

デスマスクだけかと思ったらアイオリアとそれからシャイナと魔鈴もいるではないか、そんな話は聞いていない!
「ジョアンく〜ん、こんにちは!」
「お姉さん達がディズニーに連れてってあげるわね♪」

   いらんっ、余計な世話はされたくない!
   俺の後見人にはカミュを選定させてもらうっ!

俺は恥ずかしそうな振りをしてカミュの後ろに隠れると、ちょっとだけ顔を出して 「 こんにちは。」 と言った。 親類の子の愛想がないとミロの立場がないし、かといってむやみにニコニコすれば 「お姉さんが手をつないであげる♪」 などと言われかねないからだ。
「きゃぁ、可愛い〜、照れてるぅ〜!」
「ねえねえ、髪の毛にさわらせて!」
せっかくカミュの身体を盾にしていたのに女どもが俺を囲んでやたらと頭をなではじめたのには驚いた。 いったいなにを考えてるっ!
「ふふふっ、この金髪、いいわねぇ〜、ほんとにミロさんみたい♪」
「やっぱりこんな感じにサラサラなのかしらねぇ、ああ、一度でいからさわってみたい!」
「青い目もほんっとにきれいねぇ、吸い込まれそう♪」
「こんな目でミロさんに見つめられたら、あたし死んじゃうかも。 金髪碧眼って夢よねぇ………」
「ミロさんも一緒だったら嬉しいのにぃ〜」

    お………お、お前らの狙いはカミュじゃないのかっ???
    よせっ、俺にさわるな!
    俺の好きなのはカミュだけだっ!!

このままでは抱きしめられるんじゃないかと思って必死になって身を固くしているとデスマスクがにやにやしながら寄ってきた。
「ミロがいないからジョアンを遊園地に連れて行くんだぜ、ここにミロがいるわけはないだろう。 まったく女ってやつはしかたがないな。 」
「だってぇ〜。」
「ミロは女には興味がないんだよ、あいつは勉強一筋だそうだ。 」
「ところで、どうして彼女達を?」
女どもの手をなんとか振りほどいてぎゅっとしがみついた俺の背をなでながらカミュが言う。
「だって、俺とお前とジョアンで遊園地に行くんじゃちょっとな。 それに遊園地には奇数で行くもんじゃない。 お前がジョアンと歩いて、俺とアイオリアが彼女達と組めば人数がちょうどいいじゃないか。」
さらっと言ったデスマスクはさっさとシャイナに合図して一緒に歩き始めた。
「アイオリアは魔鈴と歩けよ。」
「ああ、そうする。」

   はぁ? なんだ、この展開は?
   これってもしかして、俺をだしにした合同デートとか??
   「金髪が♪」 って騒ぐわりには、すぐに並んで歩き出すっていうのはどういう了見だ?

それはまあ、遊園地には大勢で行ったほうが賑やかでいいのは事実だ。 とくに奇数は避けるべきで、アトラクションで二人並んで座ったときの残りの一人なんて最悪で、人生論とか哲学を考える羽目になる。
それにこのカップルの組み合わせは俺にとっても好都合だ。カミュ限定っていうのは嬉しいじゃないか。
デスって、なかなかいいやつかもしれない。 俺はおおにこにこでカミュと手をつないで駅に向った。