カミュはギリシャの夏が苦手だ。
小さいときはそうでもなかったのに、シベリアで弟子の育成に明け暮れた年月を過ごして以来、暑い夏が苦手になった。
アテネの7、8月の平均気温は33℃、雨は一滴も降らず、聖域に戻ってからというもの、カミュには夏は鬼門だ。
ところがここ登別に来てからは、夏のカミュはすこぶる調子がいい。
なにしろ北海道の夏が暑いのは7月下旬の一週間だけで、あとは高原の爽やかさである。
アテナからのお呼びがないのをいいことにのんびりと休暇を楽しんでいるのは俺も同じだが、内心ではカミュは暑いギリシャに帰りたくないのではないかと俺は睨んでいる。
「帰ったら宝瓶宮にエアコンを入れたらどうなんだ? 他の宮ではかなり使ってるぜ。」
「不要不急の電力を消費すべきではない。 地球環境を守るためにも、無駄は省かねばならぬ。」
「つまり、抱いて欲しいってことね。」
「なんでそうなるっっ?!」
「だって、夜に無駄な電気をつけたら余計な電力を使い、炭酸ガスが増加して地球の温暖化が進むじゃないか!
それなら日没とともに消灯するのが理想的だ。 特に、ここ北海道では俺たちは食事が終わったらなにもすることがないんだから、寝るしかなかろう?
それが地球環境を守ることにもつながるんだから結構なことだと思うぜ。」
「あっ……ミロ!」
「いいから、いいから♪」
私はセロリが苦手だ。
初めて聖域に来たころはそうでもなかったのに、シベリアでの弟子の育成を終えて聖域に帰ったころにはセロリが嫌いになっていた。
「セロリを食べないのか?」
「好きになれない。 おそらく、シベリアでは入手できなかったため、何年間も食べなかったことが原因だと思う。
筋が多くて香りもきつすぎる。」
「俺はセロリが好きだぜ、食物繊維も多いし健康にいいのにもったいないな。」
「しかたあるまい、 嫌いなものは嫌いなのだから。」
「じゃあ、それ、かして。」
「えっ?」
私の前からビーフシチューの皿をひょいっと取ったミロは3つばかり残っているセロリの切れ端をパクッと食べてしまった。
「あ…」
「はい、これで完璧!だめだぜ、好き嫌いは。 そんなことで、よく氷河たちを指導できたな?」
「う………し、しかし、シベリアではセロリは手に入らなかったのだから、なんの問題もない。」
「あ〜、それがわかっていたらシベリア訪問のときにセロリもどっさり持っていってサラダを作ってやったのに、惜しいことをした!」
「余計なお世話だ、なぜそんなことをしなければならぬ?」
「だって、お前ときたら、ちっとも俺の気持ちに気がついてくれなかったじゃないか! 悔しいから、少しはいじめてみたかったんだよ、でもあの時はいい方法を思いつかなかった。 そうか、セロリを持っていけばよかったのか。」
「いじめるって……そんな子供っぽいことを考えていたとは知らなかった。」
「あれ? いじめるっていうのは子供だけの専売特許じゃないんだぜ、知らなきゃ今夜にでもよぉ〜っく教えてやるよ。
楽しみにしてくれていいぜ。」
食事処で私を赤面させたミロが、くすくす笑いながらビーフシチューのおかわりを頼むために手を挙げた。
「お前のはセロリ抜きで、って頼もうか?」
まるでワサビ抜きの寿司を頼む子供のようだが、嫌いなものは嫌いなのだ。
「好きにしてくれ…」
「うん、今夜は俺の好きにする。」
満面に笑みを浮かべたミロにウインクされた。
ほんとにミロには敵わないのだ。
SMAPが歌っている 「 セロリ 」。
実は山崎まさよしの作った歌で、最近になって初めてCDで歌詞を真面目に聞きました。
それまでは内容など一切気にしてませんでした、イメージだけで聴いていたのです。
ん?
育った環境が違う? 夏がだめ?
「 カミュ様でしょう! 」 ( ← 断言 )
ちなみに私はセロリが苦手です。
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