ミロ法師 その9
「これは実に驚き入りました。なんと珍しい人でありましょう!」
「着物も小さくてまるで雛の人形のような気がするが、いやいや、確かに人には違いない!」
二人はしきりに感心する。こころみにシャカが掌を差し出すと、大臣に促されたミロがぴょんとたなごころに乗ってきた。
「屋敷の者はミロ法師と呼んでいる。剣の腕も達者だ。」
「ほう!」
掌の上のミロ法師をためつすがめつ見ていたシャカが、
「して、このミロ法師を宮中に連れて来たのは、いかなるわけでありましょうや?まさか私たちに会わせるためではございますまい?」
と聞いてきた。
わざわざ自慢しに来たはずはない
このような珍しい人がいると知れれば帝はかならず欲しがるはずだ
せっかく屋敷に舞い込んできた宝を手放すような大臣ではあるまい
それともミロ法師を献上して機嫌をとりむすぶおつもりか?
そんなことをしなくても、ロス大臣なら出世は約束されているのだが
しかし、シャカの疑念に対するロス大臣の答えは予想外だった。
「ミロ法師を百鬼夜行の退治に同道させてもらえませぬかな。」
「えっ?」
これにはシャカだけでなくミロ法師も驚いた。
「この小さい人が百鬼夜行退治に?」
シャカもムウもロス大臣の言葉に驚いた。ミロ法師に至っては開いた口が塞がらぬとばかりに小さな口を開けてロス大臣を見上げているのが何とも可愛らしくて、
ロス大臣は思わず相好を崩しそうになったが慌てて表情を引き締めた。
「左様、ミロ法師ならば百鬼夜行退治にはうってつけかと思われる。」
ロス大臣の言葉が心に浸透したものか、驚いていたミロ法師はすぐさまキリリッと眦を上げると頬を興奮で林檎のように紅潮させた。
「わたくしをそのように頼りにして下さっていたとは!このミロ、身命に掛けて陰陽師殿の助けとなり、見事
百鬼夜行を退治してみせましょうぞ!」
小さいながらも片膝をつき宣言するのが頼もしい。
「そうか、そうか!ミロ法師、頼りにしておるぞ!頑張ってまいれ。 だがくれぐれも怪我には気をつけるのだぞ。」
「はい!ご案じなさいますな。陰陽師殿、このミロ法師がついておれば百人力!百鬼夜行など一蹴してくれまする。きっとお力になりましょう!」
「そ、それは忝ない。」
ミロ法師の頼もしくも可愛らしい姿に、陰陽師とその親友はどうしようと顔を見合わせる。
「さて、いかがしたものか?いかに大臣の仰せとはいえ、この小ささであやかしのものに太刀打ちできるものか?」
首をかしげるシャカにムウが言う。
「いや、それはやってみなければわかりませんね。小さいがゆえに相手の懐深く潜り込み不意打ちをくれるということもありますから。」
「ふむ、それも道理。」
頷いたシャカが一つの提案をした。
「しからば、この場でミロ法師の腕前を試すがよろしいか?百鬼夜行には恐ろしい妖怪も紛れております。かくも珍しき人を化け物に一呑みにされてはあまりに不憫。むろん
われらでは大き すぎて相手にはなれぬゆえ、同等の相手を用意しますが。」
「それは望むところ!ぜひにお願いいたします。」
都に来てより、いささか身体がなまったと感じているミロ法師にとっては願ってもない提案だ。 それならと懐から懐紙と鋏を取り出したシャカは、器用に鋏を動かしてミロ法師と同じくらいの背丈の人形(ひとがた)を切り出した。それにこよりの剣を持たせてミロ法師と闘 わせようとの考えなのだ。
シャカが印を結び真言を唱えると白い懐紙のはずの人形がゆらりと立ち上がって剣を構えた。
む…!
紙が相手とは些か不足だが、見た目で相手を見くびるのは愚か者がすることだ
直ぐに気を取り直したミロ法師は、軽く足を開き何時でも抜刀出来るようにと軽く愛刀蠍火に手をかける形で紙人形を睨みつけた。
「そちらから掛かって来るが良い!このミロ法師がお相手致す。」
もとより信頼してくれている大臣に恥をかかせるつもりなど毛頭無いミロ法師だが、久方ぶりに感じる闘いの緊迫した空気に身の引き締まるような心地よさを感じ、思わずニヤ
リとしてしまう。
三人の殿上人の見守る中でミロ法師の闘いが始まった
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