俺が宝瓶宮に行ったのは夕焼けが空を染めるころだった。

                       「ああ、ミロ。 老師は先ほど天秤宮にお帰りになられて………」
                       俺はその言葉を最後まで云わせることをしなかった。
                       右手をつかんで引き寄せると、すぐに唇を重ねたのだ。
                       三週間ぶりの柔らかい感触が俺の心をくすぐり、甘い髪の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
                       しばらく楽しんだあと、そのまま半ば抱きかかえて寝室まで連れて行く。
                       「ミロ………お前……」
                       「いいから黙ってて…」
                       灯りをつけぬままに身体を重ね、俺の重さと肌の熱さを思い出させる。
                       軽く両手を抑えてあらがいを封じると、首筋に、肩に口付けて耳に息を吹き込み、俺との感覚を
                       忘れていないか確かめた。
                       「ミロ………」
                       カミュの声が甘さを帯び、潤んだ瞳が俺を見つめ始める。
                       紅い唇が俺を求め、手を自由にしてやると、少しためらいながらも自分から俺の身体を引き
                       寄せた。
                       「カミュ………もしかして、俺のこと忘れてた………?」
                       少し責める口調で問いかけながら、手で唇でカミュの反応を確かめてゆくと、
                       「そんなことは…………あ……ミロ……やめて……」
                       ささやくような声で答えつつ、恥らって頬を赤らめるのがいとおしい。
                       「やめてもいいの?ほんとに?」
                       わかっていながら、わざと手を止めてやった。
                       「……あ………いや……」
                       身体を浮かせて思わず本音を漏らしたカミュが、自分の発した言葉に気付いて唇を噛んだ。
                       「いいんだよ……恥らうことはなにもない………もっと本心を聞かせて……」
                       俺を求めて身を揉み込むようにすがりつくカミュは、もはや情動の虜になっている。
                       「俺を三週間もほうっておいた罰だ………
                        お前がはっきり言わなければ、俺は何もしない………どうする?」
                       「ミロ……ああ…ミロ…………そんな……」
                       「早く云って…カミュ………俺だって早くお前を愛したいから………カミュ……」
                       その言葉に、意を決したらしいカミュが俺の耳元に口を寄せ、消え入るように懇願したものだ。
                       それは俺の待っていた通りの言葉で、俺の自尊心を十分にくすぐった。

                       勝利者の笑みを浮べた俺を見上げるカミュが、唇を震わせてそれを待ち望んでいるのが手に
                       取るようにわかる。
                       「いいぜ、そういうことならお前の望む通りにしてやろう。
                        二度と俺のことを忘れられないように………俺から離れられないように……」
                       やさしくカミュをかきいだいた俺は、もう一度唇を重ねていった。