酸ヶ湯温泉 (すかゆおんせん)             〜温泉占いの場合〜

「変わった名前だな。」
「酸性硫黄泉なので、酸っぱい匂いがするのかもしれぬ。」
「ちょっと寒くないか?」
「ここは海抜900mの高地にあり、紫外線やオゾンの多い清浄な空気が身体によいとされる。昔からよく知られており、自炊しながら長期滞在して湯治する人々でいつも賑わうのだ。そのため昔ながらの特徴を色濃く残しており…」
「あれっ、千人風呂があるぜ!ちょっと行ってくるからな♪」
「あっ、ミロっ!」

「あ、あれはなんだっ!とても信じられん……」
「話を最後まで聞かぬほうが悪いのだ。ここは混浴が昔からの習慣で、午前と午後に女性専用の時間が1時間ずつあるだけなのだぞ。」
「俺は男性専用の時間が欲しい……」
「……え?」
「年配の女性客に穴の開くほど見られた………」
「………」

「酸ヶ湯って、変わった名前だな。」
「ここの湯は酸性硫黄泉なので強い硫黄臭がある。 そのためにこのような名前がついたのだろう。」
「かなり寒いんじゃないか?」
「住居表示は青森市だが、八甲田山の中腹にあり海抜は900mだ。 ちなみにこの山は 『 八甲田山 死の彷徨 』 で有名だ。」
「………なんだ? その八甲田山 死の彷徨ってのは?」
「明治35年1月23日に日本陸軍第8師団青森歩兵第5連隊と弘前の第31連隊が同時に八甲田山の両側から雪中行軍に出発し、弘前連隊は無事帰還したが、青森連隊は山中で道に迷い、210名のうち199名の死者を出した。 軍隊史上稀に見る大惨事だ。」
「すごいな………どうして同じ山に登って、片方は生還し、もう一つのほうはそんなに被害を出したんだ?」
「指揮系統の乱れ・危機管理意識の無責任さが、のちの研究者により指摘されている。また行軍当日は観測史上最低の気温を記録しており、その意味でも運が悪かったのだ。遭難現場には慰霊碑が建っており当時の有様を今に伝えている。」
「ふうん…………」
「すまぬ……お前が湯に入るのを楽しみにしているのに、知らなくてもよいことを言った。」
「いや、そんなことはない。歴史に目をつぶるのはいいことじゃないからな。 湯に浸かりながら先人の苦労に思いを馳せることにするさ。」

温泉につく前に周囲の散策をしていると、なにやら看板が立っていて、二人の観光客が細道を入っていくのに出会った。
「あっちになにかあるのかな?行ってみようぜ♪」
あたりには硫黄の匂いが立ち込め、あちこちの地面からは湯気が立ち昇っているといういかにも温泉地を思わせる山道を数分歩いていくと、柱と屋根だけの木造の小さい建物があり、木の板を置いただけの2mほどの腰掛が2つ置いてある。 先ほどの観光客はそこにまたがって座っていて、そのあたりにも湯気が立ち込めていた。
「ん? なんだ?」
二人が戸惑っていると、こちらを見た二人が、どうぞ、というようににっこり笑ってちょっと場所を空けてくれた。
「どうする?」
「ともかく座ってみよう。 紅葉が見事ゆえ絶好の観光ポイントなのかもしれぬ。」
ちょっと会釈して腰掛けてみた二人は思わず顔を見合わせた。
「あ……」
「おいっ、あったかいぜ!」
木の板の隙間からはっきりとは見えないが湯気が昇り、なんとも言えず温かいのだ。
二人にはわからぬことであったが、ここは 『 まんじゅうふかし 』 といい、古来から有名なのだ。すでに明治の頃にはあったようで、下半身を暖めることから 『 ふかし湯 』  『 子宝の湯 』 などと呼ばれ、子宝に恵まれるとされているのだった。
「ほぅ…!」
「これって、かなり気持ちよくないか♪」
「この板の下をかなり高温の湯が流れているに違いない。血行が盛んになり健康によさそうだ。」
「ふふふ……寒い冬にはとくにいいと思うぜ♪」
あたりの紅葉も目に美しく、二人の聖闘士はこの 『 まんじゅうふかし 』 が相当に気にいったようである。
「今夜まで、このあったかさが持つかな?」
「……え?」
顔を赤らめるカミュが可愛いと、こっそり思うミロなのだ。

「ああ、ここが酸ヶ湯温泉だ、かなり大きいな!」
「ここは観光地にある普通の温泉とは異なり、自炊しながら長期滞在して療養する目的で来る人々が多い。 そのため昔ながらの雰囲気を色濃く残しており、もっとも特徴的なのが総ヒバ造りの80坪の大浴場だ。 五つの浴槽があり、『 千人風呂 』 と呼ばれている。 ただし、」
「なにっ、千人風呂! ちょっと行ってくる、ここで待っててくれ♪」
「あっっ!! ミロっ!」

やがてミロが出てきた。
「カミュ……あれはいったいなんだ……どうして教えてくれなかった…!」
「人の話を最後まで聞かぬほうが悪いのだ。 ここは昔ながらの混浴の習慣を残す温泉として有名で、午前と午後に1時間ずつの女性専用時間枠があるだけで、あとは混浴なのだ。 入浴する者はそれを承知で入っている。」
「そういう時は、フリージングコフィンでもかまわんっ、どんな手をつかってでも俺を引き止めるのが人としての道じゃないないのか?ええ?」
「え?なにも、そこまでして…」
「お前は知らんのだっ! 年配の女性客に穴の開くほど見られた………」
「…え!」
「俺は男性専用の時間が欲しい…」
「………」

                           ←秘密

       

               青森は母の出身地なので力が入りました。
               まんじゅうふかしも小学生のころ座った記憶があります。
               ほんとにじわっとあったかさが滲みてきて、それはそれはいい気持ち!
               昔は、子供に恵まれなかった女の人が藁にもすがる思いでやってきたといいますから、
               笑い事ではありません。

               え?
               ミロ様と一緒の浴槽に入りたかった??
               う〜ん………ばちが当らないでしょうか?
               「 年配の女性客 = 田舎のおばあちゃん 」 ということですから許されますけど、
               私たちには当たると思いますよ、ばちが……。