※ この話は、「 ミニミニ文学館 」 の 『 8月27日・宮沢賢治の誕生日 』 のパラレルになっています。
  そちらを読んだかたのみ以下にお進みください。



「 注文の多い料理店 その後 」



そのときです、大きな音とともにドアが引き開けられ聖衣を身につけたミロが部屋に飛び込んできました。
「俺のカミュになにをするっっ!!貴様、許さんっ!!」
さしもの教皇も油断していたので聖衣を身につけたミロの敵ではありません。
リストリクションをかけられた上、続けざまにスカーレットニードルを撃ち込まれてその場に倒れ伏して消えてしまいました。
「カミュ!大丈夫かっ?!」
ベッドの上に倒れているカミュをかきいだくと、それはそれは美しい瞳がミロを見上げました。
「ミロ………どうしてここが……?」
「お前のことをわからぬ俺ではない。 どんなときでもお前を守ってやるよ。」
気が付けば、そこはスターヒルのふもとの森のはずれなのです。
カミュの植物採集道具や服が近くの木の枝にかかっているのが銀色の月の光で見えました。
「あれは………幻だったのか?」
「さあな………俺にはよくわからん。 それにしても、カミュ………お前、ずいぶんいい匂いがするが?」
「あ………」
頬を染めたカミュは立ち上がろうとしましたが、やはり身体が思うように動きません。
「あの………力が入らなくて動けない……」
「抱いて帰りたいところだが、人に見つかってもまずかろう。 回復するまでここで月でも見ているか。」
「ん………それがよい…」

冴え冴えとした月の光が木々の葉からこぼれて二人を照らしています。
カミュは自分がバスローブ一枚を羽織っただけなのが気になるのですが、まだ手足が思うように動いてくれないので服を着ることができません。 隣りにいるミロの視線が気になり、そっと手を伸ばすと襟元を合わせたり乱れそうな裾を直したりしています。
「カミュ………どうしてあの時に俺が助けに来たかわかる?」
「え………どうしてって……」
「お前の声が聞こえたからだ………俺の名を呼んで助けを求めてた……違うか?」
「あ………あの……私は………そういえばそうかも…」
「それも普通の声ではなかった………もっと悲痛な……絶望にとらわれた叫びで………」
「あれは………あのときは……もうだめかと思って…」
密室で教皇にのしかかられた恐怖が蘇り、カミュは唇を震わせるのです。
そのときミロの手がカミュの肩に回されて、今までにそんな経験のなかったカミュをどきりとさせました。
「泣かないで……カミュ………ほかの黄金でなくて、俺の名を呼んだのはなぜ………?」
「………それは……あの…………あ………ミロ!………なにを…!」
驚くのも当然でした。 それまではやさしいだけだったミロにぐいっと向きを変えさせられて、美しい青い目と向かい合うことになったのでしたから。
「お前が好きだ……もう自分の気持ちを止められないし、止める気もない………カミュ………」
「あ……そんな…………そんなこと…」
ミロの手がバスローブにかかり、雪をもあざむく白い肌が露わにされていきます。
「お前が教皇にあんなことをされて……そんな光景を見せられて…………俺は………俺は…」
「……ミロ………」
「お前に………アクエリアスのカミュのこの肌に触れていいのは俺だけだ……出会ったときからそう決めてある……ほら…こんなふうに…」
「あ……いや…………ミロ……………ミ…ロ…」
ミロの唇が薄く色づいていた胸の蕾にやわらかく触れて、初めて知る不思議な感覚に襲われたカミュが思わず洩らした声はどこまでも甘いのです。波打つ金髪がさらさらと揺れ、まだ誰一人として触れたことのなかったカミュの肌をくすぐってゆきます。
「素敵だ、カミュ………もっと…もっと声を聞かせて………心が震えるようだ……」
夢中になったミロが舌の先で蕾をくすぐるように愛玩してやると、精一杯に背をそらしたカミュが息も絶え絶えに喘ぎ始めました。 そのしなやかな背中を支えてやりながらそっと横たえてゆくと、しどけなく着崩れたバスローブから覗く雪の肌がミロの目を奪います。
もう後戻りはできません。
「今夜から俺のものになって………そして俺の全てをお前にやろう………カミュ………こんなにこんなに愛してる……」
「ミロ………ああ………ミロ…」
「俺と二人であの月を眺めて………月に眺められて夜を過ごそう………」
「いや…………そんな……そんなこと………」
いとしいカミュに拒絶されたと思ったミロがどきりとしたのは当然です。
「あの………こんなことして……俺のこと、嫌いになった?」
「そうではなくて………私は………」
ミロは聞き耳を立てました。 カミュは何を言おうとしているのでしょう。
「月にも………見られたくないから………誰にも見られずに…ミロに……愛されたいから…」
まあ、カミュはなんと可愛らしいことをいったではありませんか。
「では月にも見せない………大事なお前を見るのは俺だけだ………ねぇ、カミュ………俺のこと、好いてくれる?」
「ミロ………」
月の光に照らされた柔肌が淡く染まり、覆うもののない我が身を恥じらったカミュが顔をそむけて目を閉じました。
「朝まで愛しても……いいか…?」
耳元でささやかれたカミュの白い手がミロの背にそっとまわされて、抑えようもない甘い溜め息がミロの耳を快くくすぐっていきました。





               誰しも気になる 「注文の多い料理店」 、この話はこんなふうに展開します。
               童話の口調はやさしさがあふれていて、いかにもほのぼのと。
               このタイプは二つしか書いてないので貴重かもしれません。