「今日は俺の誕生日だからプレゼントをねだってもいいかな?」
「むろんかまわぬが、いったいなにがよいのだ?」
「夜。」
「え?」
「お前との素敵な一夜が欲しい。」
「それならいつも…」
「だからいつもと違う特別な夜が欲しいんだよ、いい?」
誕生日なのだからそれは当然だろうと私は考えた。
「わかった。 お前の誕生日だ。 好きなようにすればよい。」
こうして私は自らの運命をそれと知らずにミロに委ねたのだった。

「カミュ、これを…」
シャンパンを一口含んだミロが口付けてきた。 こうして口移しで飲まされることもよくあることで、そんなに驚くほどのことでもない。 恋の儀式の決まりごとのように交されるそのキスをいつも通りに受け入れたとき、シャンパン以外のものが口中に流れ込んできた。

   え?

「いいから飲み込んで………俺からの贈り物だから。」
「ん………」
いくぶん大き目のそれを気をつけて飲み込んだ。
「ミロ………今のは?」
「ふふふ、ペパーミントキャンディー。」
「……え?」
「シャンパンとの相乗効果でよく効くぜ。 そろそろどうかな?」
「まさかそんなことは………あっ…」
ミロが手を伸ばしてきた。

今夜の天蠍宮の寝室はラズベリーピンクのファブリックでまとめられていて、一目見たとたんに唖然としたものだ。
「ミロ、これはまた……!」
絶句していると、
「たまにはいいだろ? 気分転換だよ、気分転換。 ロゼのシャンパンに似合うじゃないか。」
くすくす笑いながらシャンパンをついだミロは私を抱きしめながら何度もキスをしてきて、その何回目かに私は直接にシャンパンを飲まされたのだ。 ペパーミントキャンディー入りのロゼが私の喉を流れ落ち、ミロの目がきらりと光る。
「あ………いや……」
気がついたときにはベッドの横に立ったままでミロに全身をまさぐられていた。 後ろから私をかかえるようにしたミロが服の上から絶妙なタッチで私に触れ始め、だんだん身体が熱くなる。 こんな姿勢でいるのがつらくなり、寝かせてくれとせがんでみてもミロは聞いてもくれぬのだ。
「ミロ………頼むから……これではつらくて…」
途切れ途切れに言ううちにもいつの間にかミロの手に身体を押し付けている自分に気付く。 もっと刺激してくれ、と言っているようなもので恥ずかしいことなのだが、もう自分でも止められないのだ。
「どうした?………もっとして欲しいの?」
「あ…」
そんなことを聞かないでくれたらよいのに、ミロはわざわざ口に出す。 恥ずかしくて身の置き所がなくて、私はますます身をよじるのだ。
「そんなことされちゃったら、俺も感じちゃうんだけどな♪」
耳元で溜め息混じりのささやきが聞こえ、ミロが身体を押し付けてきた。
「あ……そんな………」
「俺をこんなにしたのは自分だってわかってる? お前だって………ほら。」

   ああっ‥

もう耐えられなくてその場に崩れ落ちるところをようやくミロに支えられた。
「そろそろベッドで可愛がってやりたいんだけど、それには邪魔なものがある。」
「………邪魔…って?」
少しでも早くベッドで抱いて欲しかったのに、邪魔なものとはいったいなんだろう? 早く、早く、抱いて欲しいのに!
「お前、、まだ服を着てるだろ? ………脱いでくれる?」
「え……!」
いつもはミロにいつの間にか脱がされているのだ。 自分から脱いだことなど一度もない。

   そ………そんな恥ずかしいこと!
   ミロの前で脱ぐなんて……!

「脱いでくれなきゃ愛せない。 俺に可愛がられなくてもいいの?」
そう言ったミロがほんとにかすかに私に触れた。 思わず びくりと震えてしまう。
もっともっとさわってほしいのに、たったのひと撫でで終わってしまうのがつらくて悔しくて、
「ミロ………もっと……」
私は思わずそんなことを口走っていた。
「もっと俺にして欲しかったら、
脱・い・で・♪
今夜のミロは意地悪い。 その言葉に全身が熱くなる。 そんな恥ずかしいこと、この私にできる訳はないのに!
でも………でも、脱がなければなにもしてもらえない! ミロの誕生日だから二人で楽しい夜を過ごす筈なのに!
そのとき頭を掠めたのは、さっきのペパーミントキャンディーのことだ。

   ………そうだ! たしか、あれは媚薬の筈だ………だとすると………
   媚薬は人に一時的な催淫効果をもたらすのだ
   私が今だけ淫らなことをしても、それは媚薬がさせたことであって、私のせいではない
   みんな媚薬がいけないのだから………

「脱いだら………ほんとに可愛がってくれる?」
「………え?……もちろんだ、お前の好きなようにしてやるよ。」
ミロの吐息が首筋に熱くかかり、それがますます私を大胆にさせた。 どうせ媚薬が効いているのだ、なにも恐れることはない。 私が乱れるのは………こんなに淫らなのは媚薬のせいなのだ。
ゆっくりとボタンに手を掛けた。ちらっとミロを見るといくぶん頬を赤らめながらこっちを見てる。
背を向けてシャツを脱ぐ。 床に脱ぎ落としてミロの方に向きを変え、手を取って胸に触れさせた。
「ここも………可愛がってくれるか?」
ミロが黙って唇を寄せ、やわらかく含みながら
「もちろんだ。」
と言ってくれた。 とても嬉しくてゾクゾクしてくる。
急いで残りの服も脱ぎ捨てた。
「………ここも? ………ここも可愛がってくれるか?」
思い切ってミロの手を引き寄せた。 暖かい手がそっとあてがわれ、私は震えてしまう。
どうせ媚薬がさせているのだ、なにも遠慮することはない。 今夜の私は、私であって私ではないのだ。
「ああ、ここも可愛がってやるさ。お前が、 もうやめてくれって泣いてすがってくるまで思う存分愉しませてやるよ。」

   嬉しい! 嬉しい……!

私はミロの手に身体をすり寄せ身悶える。
「ミロも………私みたいに早く脱いで…」
誘う言葉も淫らな動きも、もう私のせいではないのだ。
その夜 私は、一粒のペパーミントキャンディーで思う存分愉しんだ。




         カミュ様って、こんなふうに考えてたのでした。
           生真面目なので、どこまでも筋を通さないといけないと思ってるんです、この方は。
           そのかわり論理の裏付けさえあればどんな方向でもOKかも♪

           では、次のページにお進みくださいませ。