Scene・0


  私の目の前に座るのは、鳴海孝之君。
  今日は何故か正装している。
  これから遙とデートでは無かったのかな?
  遙まで鳴海君の横に座っている。
  それよりも、何故家族が全員、この場に同席しているのだ?
  茜は私の左隣に、ママは私の横でお茶を入れている。
「 はい、どうぞ、孝之さん。……遙は? 」
「 あ、うん、……頂戴。 」
「 あ、私にも入れて! 」
「 ふふ、はいはい。……お父さん、はい、お茶。 」
「 ……うむ……。 」
  妻は、その場を立ち、娘達の茶碗を取りに行ったようだ。
  しかし、先ほどから目の前の鳴海君は、落ち着かない。
  何がそんなに…………。
「 はい、お待たせ。 」
  妻が戻ってきた。
  再び、急須を手に持ち、茶碗にお茶を注ぐ。
「 はい、遙。……それから茜、受け取って。 」
  私の目の前を茶托に乗った茶碗が横切った。

  全てが重い空気を醸し出している。
  鳴海君の正装もそうだが、姿勢もそれを色づけている。
  お客様用の綺麗な座布団に正座して座る彼。
  何故、今日に限ってリビングではなく居間なのだろう。
  そして、普段見た事の無い茶碗が茶托に乗っている。
  
  正座して俯いている鳴海君。
  かれこれもう30分もこうしている。
  私もいつしか苛立ちを覚え、タバコに火を点けようとする。
  しかし、妻に咳払いをされる。
  私は、少し戸惑い、やがてタバコを口から離す。
  名残惜しそうにタバコを見やった。
  
  横の茜は、なにやらそわそわしている。
  妻も少々落ち着きが無い。
  遙と鳴海君は、俯いたまま動きが無い。
  それでも、呼吸を整える音が聞こえた。
  次のひとコマで、雰囲気が変わる事を私は察知していた。


君が望む永遠SS
娘が嫁ぐ日
もう一つのWedding BELL


    Scene・1


  遙が初めて彼を連れてきた日の事を覚えている。
  積極的な性格では無い娘の彼氏に、私は喜びを覚えた。
  まぁ、彼氏と言うより異性の友達と言った方が良いのだろう。
  初めて会う鳴海君は、いきなり招待されたディナーに戸惑っていた。
  それでも娘との関係を見ているだけで、私は嬉しくなり、
  ついついアルコールを取りすぎてしまった。
  そのおかげで、彼には親しみを持てた事も事実だろう。
  女性だけの家族の団欒に、
  男の子が混ざっている事がこんなに楽しい事とは思いもしなかった。
  それはこれから幾らでも体験できるものだと思っていた。
  そんな体験だった。
  その幸せも、彼からの電話で一変した。

  私は大学でゼミの学生と談笑している時に、
  その不吉な呼び出しがあった。
  家からのものだったが、気が動転しているのか、
  要領を得ない内容だった。
  早く家に帰ってくれと言うことだけは解った。

  事情を一通り聞き、茜と妻を車に乗せ、急いで病院へ向かう。
  落ち着かない二人を見ているだけで、自分を保っていられる気がした。
  こんな時こそ、私がしっかりしなくては!
  そう思いながらも、自然と車はスピードを増す。
  一分でも一秒でも早く駆けつけたい。
  そんな衝動に駆られていた。

  病院の駐車場に車を止め、受付で遙の所在を聞き、
  長い廊下を走りぬけた先に、鳴海君が居た。
  焦点の合っていないうつろな目、それ程の体験をしてしまったのだろう。
  私も気が廻らない。なんと声を掛ければ良いか……。
  そんな時、突然彼の姿が視界から消えた。
  いや、視界の下へ移動したのだった。
  頭をこすり付ける位床に平伏す彼を見ると、胸にこみ上げるものがあった。
  しかし、その感情に流されてはいけない。
  大人としての私が自分を叱咤する。
「 君の所為じゃない。顔を上げてくれ。 」
  という事が精一杯だった。
  
  彼はこの場所で何を考えていたのだろう?
  どれだけ不安な気持ちで待ち続けているのだろう?
  もしや、自分を責めているのではないか?
  彼の言動を心に留めて、手術中のランプが消えるまで、椅子に腰掛ける。
  やがて、彼の友人と速瀬君が来た。
  再び彼が泣き崩れる。
  そんな声を聞いているだけで、彼を責める事など出来ない事を知った。
  事情がどうあれ、彼も辛いのだ。
  それ程遙の事を真剣に気に掛けている証だった。

  ランプが消え、遙がベッドで運ばれていく。
  あちこちに生々しい包帯が巻かれている。
  妻と茜は遙に付き添うようにベッドと一緒に移動した。
  私は医師の説明を聞いてから、速瀬君達に声を掛けた。
「 彼の事を頼みます。ここ数日は、家族以外面会できませんから。 」
  とだけ伝えて、遙の元へ向かった。
  その後、鳴海君は彼らと一緒に帰途に付いたのだろう。
  その日は、もう他の事など気にする余裕など無かった。




    Scene・2


  遙が手術を終えて一週間がたつ。
  娘は一向に目を覚まさない。
  しかし、あちらこちらで見えていた包帯が、少しづつ減っていく。
  そんな所を見るだけで、娘の怪我が治っていく事を喜んだ。
  しかし、手放しで喜んでいるばかりではない。
  手術が無事終了したのに、目を開けない事が気がかりだった。
  妻もその不安があるようで、医師に説明を求めた。
  目を覚まさないという症例はいくらかあるらしい。
  そんなに、難しく考えないで見守ってくれとだけ言われた。
  とりあえず、先生を信じるしかなかった。
  鳴海君は今日も来ている。
  毎日顔を出してくれる。
  いつでも病室の外の長いすに座って、部屋の入り口を見つめている。
  しかし、未だ面会を許せる状態ではないので、
  現在の報告だけは伝える事にしている。

  彼は、いつでも面会時間が終わるまで帰ろうとはしなかった。
  いつでも、娘の側に居てくれる、そんな心遣いが正直嬉しかった。
  そんな彼の為に出来る事があるだろうか?
  もう少し、包帯が取れた時には、担当医に許しを貰おう、そう決めた。

  面会謝絶の札が取られた。
  鳴海君は真っ先に遙の元へ向かい、娘の手を取ってくれた。
  彼は部屋に居る間中、娘の手を握っていてくれた。
  もう、学校も始まっているのだろうが、
  そんなことなど気にする素振りも無かった。
  嬉しい反面、少々気が咎めた。
  しかし、「 遙が彼に応えてくれるかもしれない。 」
  そんな親心から、彼の事情は考えずに彼を迎え入れた。
  事故に遭ってから2週間を過ぎる頃だった。

  事故から一ヶ月。
  遙の容体は変わりが無かった。
  鳴海君も少しは落ち着いたようで、
  私から切り出す前に学校へ通い始めたようだ。
  その際、妻には随分と頭を下げていったようだ。
  そんな心遣いが、正直、重くも感じられる。
  
  私には、娘の事を心配する他に、家族を守らねばならなかった。
  本音は仕事をほっぽらかしてでも、遙の側に居てやりたかった。
  それが出来ないのが、私の立場だ。
  私は聖人君子ではない。
  正直、この現実から逃げたいと思ったこともある。
  特にあの晩はそうだった。
 
  妻が担当医から聞いてきた内容を聞かされた時には、酒に逃げた。
  仕事で疲れているのにも関わらず、寝付けない。
  仕方なく、リビングにあるサイドボードの中の酒に手を付けた。
  そんな時の酒ほど、酔える物ではない。
  どんなにアルコール度が高くても、ストレートで呑んでも効きはしない。
  私はいつしか酔っても居ないのに、独り言をこぼしていた。
  その事に気が付いたのは、私の後ろで物音を感じたからだ。
  我に返り、その場を片付けてベッドに潜り込んだ。
  妻はその横で、気が付きもせずに寝ていた。

  いつしか風は冷たくなっていた。
  年の瀬も押し迫った冬の晩、久しぶりに鳴海君を見かけた。
  遙の病室から出て行く鳴海君は、俯いて肩を落としていた。
  妻から鳴海君の事は聞いている。
  毎日必ず顔を見せる事。
  病室で娘の手を取り話しかけて行くこと。
  彼を好きになった遙は幸せだ。
  彼ほどしっかりした青年はいないとさえ思ったほどだった。
  その時、私にはそう思えた。
  彼の苦悩は感じなかった……。




    Scene・3


  茜は毎日病院に顔を出しながらも、高校に合格していた。
  そんなある日、鳴海君が受験を諦めた事を聞いた。
  今後も、遙の見舞いには来てくれるという。
  彼は、アルバイトを始めたらしい。
  そんな彼の心遣いが、重く感じていく。
 
  同じ時期、速瀬君の実業団行きが駄目になっていた事も聞いた。
  直接関係があったかどうか定かではないが、
  遙の事故がこんな所にも影響している。
  遙の友達で、いつも自慢だった友人にまで
  影響を与えた事を娘はどの様に思うだろう。
 
  茜の合格を素直に祝う事は出来なかった。
  遙が目覚めた時には、その分も盛大に祝おうと考えている。
  しかし、遙が本当に目覚めるのか、最近それが不安の種になっている。
  

  以前、食卓の中心は私だった。
  私から娘達に話しかけて、会話を楽しみながら食事した。
  遙が倒れてからもそうだったが、私の口数が減っていった。
  その分、今度は茜が中心となり会話が進むようになった。
  茜は無理やりでも笑顔を作っていた。
  負担がそれぞれに圧し掛かっていく。
  それでも家族が協力しあえば何とか成るだろうと思っていた。




  そして、一年が経とうとしていた。
  鳴海君は夜のコンビニのアルバイトに就いていた。
  妻から聞いた話では、最近の鳴海君は少々口数が減っていた。
  黙って病室に入ってきたり、いつも俯いていたりと明るさが
  無くなっていく様に見えるらしい。
  遙の症状には変化は無い。
  鳴海君はもしかしたら、思いつめているのではないだろうか?
  少々心配になってきたので、直接会う事を試みる事にした。

  大学をいつもより少し早めに出て、
  10分早く遙の病室へ向かう。
  鳴海君はあと5分は病室に居るはずだ。
  そんなわずかな時間でも、彼の表情が伺えるならそれで良い。
  部屋の前で扉に手を掛けようとした時だった。
  鳴海君のすすり泣く声が聞こえてくる。
「 遙!はるかー!目を覚ましてくれよ!もう、もうきついんだよ。
  俺が遙に何も出来ない事が辛いんだよ。
  あの日、俺が約束の場所へ時間通りに着いていたら、
  お前をこんな目に合わせなかったんだ。
  何で、俺はあの時、……なんかに時間を割いてしまったんだ。
  俺の彼女は遙だったのに………! 」

  …………彼は自分を責めていた。
  遙が生きているだけでは、彼は納得しなかった。
  もし、遙が事故に遭った時、私が彼を責めていたら、
  もう少し彼の負担は減っていたのかもしれない。
  時にはそうする事が、負担を柔らげる事ができる。
  それさえも、思いつかないほど、私には余裕が無かった。
  …………いや、これは言い訳でしかない…………。

  私は扉を開ける事をせず、物陰に隠れた。
  すぐ後に彼は部屋から出てきた。
  がっくりとうなだれた背中が、見ていて辛いほどだった。
  私は彼を高く評価しすぎていたようだ。
  それは、私の責任である。
  彼は未だ18歳と言う年齢なのだから……。
  経験が足りないのは、彼が生きてきた全ての時間を持ち出しても、
  カヴァー出来るほど、小さな問題では無かったのだ。
  もっと、私がフォローをすべきだったのだ。
  今になって気が付いた。
  でも、まだ間に合うかもしれない。
  そう考えながら、病室へ娘の表情を伺いに行った。

  その晩、私は久しぶりに酒に溺れた。
  鳴海君の負担を減らす方法を考えながらも、酒に手を出していた。
  呑みだしてから、数時間後に後ろで物音がした。
  その事に気が付いて、我を取り戻した。
  危うく酒に逃げる所だった。
  まだ、彼への対応を見出せた訳ではない。
  そこで、酒を止めて解決策を練った。
  考えをまとめ、スケジュールを考えて
  数日後に彼と話す事を決めた。

  しかし、その事を後回しにしてしまった事が裏目に出た。
  後日、面会時間が終わった後に、彼は遙を連れ出そうと試みた。
  医師や看護婦達の力でそれを止める事は出来たようだが……。
  
  その連絡は、自宅で聞いた。
  私は妻と一緒に病院へ向かった。
  車中、妻に『 遙の友人の速瀬さん 』へ連絡を取るように頼んだ。
  私が彼にしようと思った事は、この時には手遅れとなっていた。
  『 こんなに彼が自分を追い詰めていたなんて…… 』
  このような事態になってしまったからには、
  彼には遙から離れてもらうしかないと思った。
  それは、娘を守ることを優先したのではなく、
  彼を守ることを考えての決断だ……。

  


    Scene・4


「 ―――――いままで、本当にありがとうございました。
  でも、もう、ここにはいらっしゃらないでください。
  遙の事は……忘れてください。 」
  彼は、とても悔しそうな表情を私に見せ、崩れ落ちていった。
  私は彼に背を向け、何事も無かったように遙の病室へ戻っていった。
  その場に香月先生を残して……。

  病室への帰り際、速瀬君の姿を確認した。
  彼女とは、先ほど話をしていた。
  彼女も色々と、彼の事を心配していたようだ。
  これで、少しでも彼の負担が減れば、彼が自分を取り戻してくれたなら……。
  これからは、私たち家族の戦いになる。
  もう、誰も巻き込む事をしてはいけない。
  そう、決めた……。

  所が、その時の決断が、間違いだった事を知った。
  良かれと思った事が、裏目に裏目に回っていく。
  『 後悔 』と言う言葉が私を支配していく…………。
 
  妻が病室に居る時に、遙のクラスメイトだった子達が訪れた。
  その時に、彼女達は速瀬君の事を話していったと言う。
  妻は何気ない、日常会話の一つとして私に話した。
  その事を聞いて、私は愕然とした。
  彼女も…、速瀬君も、遙の事故で、
  自分を責めていた一人だった…………。
  そんな彼女に、私はなんて事を頼んでしまったのだろう。
  彼女の人生まで狂わせてしまった。
  たとえ私が直接関与したことでは無くても、
  彼女への配慮が足りなかったとしか、言い様がない。
  安易な道を選んでしまった事を悔やんだ。

  それでも私は決めた事を取り消す事はしなかった。
  彼らはまだ若い。
  きっと、前を向いて歩いてくれると考えたからだ。
  たとえ幾許の時間を傷の舐め合いで過ごしたとしても、
  遠くない未来、明るい笑顔で歩いている事を信じた。
  
  しかし私は、悔やむ事を忘れることが出来なかった。
  自分を責めることで、私のした事を正当化しようとしていた。
  自分を正当化しておかないと、自分が潰れてしまうようで……、
  忘れてしまうのは、私の間違いを放棄する気がして、
  そうできなかった。

  そんな私をずっと見てきた人がいた。




    Scene・5


  鳴海君の事を決断してから数ヶ月がたった。
  やっと家族の戦いに慣れて来たところに、再び最悪の事態が訪れた。
  妻が倒れてしまった。
  いつも笑顔で振舞っていたが、相当無理をしていたようだ。
  私は講義を途中で抜け出し、妻の下へ急いだ。
  
  病院で倒れたので、直ぐに対応してもらったのが幸いだったが、
  数日間の入院生活を余儀なくされた。
  回復後、目立った後遺症は無いだろうが、無理は禁物とも言い渡された。
  妻のベッドの横で、私は彼女の寝顔を見守った。

  ここ数日、必ず大学は早めに引き上げた。
  娘の見舞いと妻の見舞い、そして家庭の雑務をこなす事を考えての事だ。
  流石にこれらを一人でこなすのは大変だ。
  事に寄っては手を抜いて帳尻を合わせている。
  茜に負担を掛けないようにと思っていても、自然と負担を背負わせている。
  しかし、その事に茜は不満も言わず、さらりと事を運んでいる。
  私とは違い、その辺が素晴らしく器用だ。
  
  仕事と家の雑務に慣れてきた頃、妻の病室でふと気を抜いてしまい、
  傍らでうたた寝をしてしまった。
  気が付いたときには、とっくに面会時間を終えていた。
  慌てて病室を去ろうとした私を、妻が呼び止めた。

「 何をそんなに慌てているのですか? 」
「 え、……ああ、起きていたのか。
  ……いや、うっかり寝てしまって、面会時間を過ぎてしまったよ……。 」
「 大丈夫ですよ。茜一人でも自分の事は出来ますから。 」
「 ……ああ、そうだな。 」
「 それより、少し話しませんか? 」
「 …………大丈夫なのか? 」
「 ええ、少しなら……。 」
「 そうか。 」
  私は、再び椅子に腰を掛けた。
「 すまない、無理をさせてしまっていたようだね? 」
「 いいえ、。……私も家族の一員ですから……。 」
「 ………… 」
「 それより、あなたこそ無理をなさっているのではないですか? 」
「 ……そんな事は無い。 」
「 ……そうですか?最近、
  何かご自分を責めていらっしゃるように見えたのですけど……。 」 
「 ……!?…… 」
「 鳴海さんの事を気になさってたのですか? 」
「 ……いや…… 」
「 一人で抱え込まないでください、私も居ますから。 」
「 ………… 」
「 私はあなたの取った行動は正しかったと思いますよ。
  遙もわかってくれます。 」
「 …………そうだろうか……? 」
「 ええ、だって苦しんでいる人の事を思っての事ですから。 」
「 ………… 」
「 大丈夫です。私はあなたの決めた事を信じています。
  夫婦なのですから、一緒に歩きましょう。
  喜びも悲しみも苦しみも……。 」

  ふっと肩が軽くなったような気がした。
  私は何を一人で抱え込んでいたのだろう。
  私には家族が居た。
  それは、間違い無く私の側に居た。
  それを忘れていたわけではない。
  ただ、気を使ってしまっていたのだ。
  気遣いの必要の無い家族に対して気を使うなんて……。
  
  私は結局、一人で背負い込もうとしていたのだ。
  その傲慢さが、妻に無理をさせ、負担を掛けてしまった。
  その上、この事を病身の妻に気付かされるなんて……
  しかし妻は、その事を責めるでなく、ひとことだけ言った。
「 間違いは、これから正せば良いのですよ。
  これから先、同じ間違いをしなければ良いのです。
  気が付いた時が始まりなんです。 」




    Scene・6


  妻も回復に向かい、私も茜と一緒に家事や見舞いを続ける日々。
  それでも、以前に比べて精神的に楽になった。
  食卓も段々と明るさを取り戻し始めた。
  そして………………



  茜から職場へ電話があった。
  遙に変化が現れた。
  事故から3年近く経っていた。

  今まで、遙はベッド上でずっと同じ姿勢をとり続けていた。
  自分から寝返りをうつ事も無かった。
  所が茜が見舞いに訪れた時に、腕がベッドからはみ出していた。
  茜はその腕を布団の中へ戻そうとしただけだった。
  しかし、その手は、指先はかすかに震えていた。
  思わずナースコールを掛け、そのまま立ち尽くしていたらしい。
  しばらくして、香月医師や看護婦達に囲まれた。
  結果を聞いた茜は真っ先に私の連絡先に電話を入れた。

  妻も現在は家事に復帰していた。
  以前ほど無理は利かないが、それでも少しずつ慣らしている時だった。
  その為その知らせは、私が自宅に着いた時に初めて聴かされた。
  着の身着のまま二人で病院へ向かった。
  そして改めて、香月医師に状況説明を受けた。
  喜ばしい出来事の前兆。
  段々と変化を見せる病身の遙。
  わずか数日の出来事、その日をどんなに待ち焦がれたか……。
  
  遙が目を覚ます。
  私たち家族に喜びをもたらす。
  が、その時間もわずかだった。
  時間の経過が理解できないでいる遙。
  記憶の混濁が見られる。
  さっきまで話していた事さえ覚えていない。
  実に不安定な症状。
  しかし、遙はしきりに鳴海君に会いたがっていた。
  その言葉は紛れも無い心からの願いである事は伝わってくる。
  私は妻と共に香月医師に相談をした。
  
  正直、私は悩んだ。
  確かに娘の事を考えれば、会わせてやりたい。
  まして、その事が良い影響になってくれる可能性もある。
  彼も、遙の事をかなり気にしていた。
  だからこの事を知れば、自分を追い詰めていた事も報われるだろう。
  彼が自分を取り戻したと言う事は聞いている。
  しかし、今の遙が普通ではない事を知れば……。
  こればかりは私達の意思で決めるわけにはいかなかった。
  遙の事だけを思えば簡単だが、
  鳴海君を最後に見たときの事を思えば、
  例え時間が経っていようと、物事を簡単に決断して良い事ではなかった。
  
  香月医師の考えは決まっていた。
  先に香月医師が会い、鳴海君の様子を判断する。
  大丈夫なら、そのまま遙の部屋まで案内してくれるとの事だった。
  その時に、遙の症状もきちんと説明しておく事も約束してくれた。
  幸い、遙の病室は遙が目覚めた時に部屋を移動していた。
  時間の経過を理解出来ないでいる遙への刺激を少なくする為の配慮だ。
  その為、今の部屋は病院の玄関よりかなり離れている。
  鳴海君が病院へ訪れた時に、
  ナースステーションに寄る事の予測は簡単だった。
  看護士達とも事前に打ち合わせておく事さえも手回ししてくれる。
  後は、私が恥を掻けば良いだけだ。
  3年前に彼に伝えた言葉を取り消すだけの事だった。
  私は病院の電話の受話器に向かって話し始めた。
  しかし、言葉が出ない、声が震えそうだ。
  そんな私に寄り添うように妻が側に立ってくれた。
「 あっ……涼宮です。大変ご無沙汰しておりました。
  その後、お元気だったでしょうか。……………… 」




    Scene・7


「 彼を連れて来ました。 」
  私達は視線を入り口に向けた。
  私は少しばかり安心した。
  鳴海君は大分自分を取り戻したと判断された事に。
  香月医師の言葉と一緒に、鳴海君が姿を現した。
  最後に見た時の面影は無い、それ程回復していた。
  彼の視線は私たちを通り抜け、遙を探していた。
  二人の再会の時、私達は部屋を去る事にした。

  少しして、香月医師と鳴海君が病室から出てきた。
  彼の反応はやはり納得していないようだった。
  しかし、遙にとっては大変嬉しい出来事に違いない。
  私は香月医師の説明を早く求めたかったのを抑えて、
  鳴海君に感謝の挨拶をすることにした。
「 鳴海さん…… 」
「 あ…… 」
「 ……ご無沙汰しておりました。 」
  私は深々と頭を下げた。
  彼は困ったような戸惑った顔をしていた。

  正直、この事は私たちの我侭だ。
  彼はそれに応えてくれた。
  それだけで十分なはずなのに、それ以上のものを求めてしまう。
  それはやはり、私が遙の父親である証だと思った。
  彼の事を考えた事が無いわけではない。
  一番に考えたつもりだった時もある。
  しかしやはり父親としては、自分の子供の事を第一に考えてしまうのは
  当たり前の事で、彼の事は彼のご両親達が考えるのが当前だと思った。
  そうする事が、それぞれを平等な扱いをする事になる訳で、
  そんな考えから、私はまず遙の事を優先する事にした。
  それがたとえ他人から『 傲慢 』と言われようと、
  私は涼宮家の『 父親 』であるのだから。
  だから、求めてはいけない事でさえ娘の為に求める事さえ厭わない。
  ただ、一応妻の先走る言動は止めておく。
  幾ら私が傲慢であろうと、彼の意思だけは尊重する事を忘れないように。
「 明日も来ます。……だめ……ですか? 」
  そう、彼の反応が嬉しかった。
  そして、その好意に甘える事を何の戸惑いも無く受け入れる。
「 今しばらくの間、どうかよろしくお願いします。 」
「 はい。 」

  これで、彼が今後どのような決断をしていっても、
  私は彼を責める事をしないと決めた。
  それは彼を信頼する事。
  例えその結果が娘にとって、苦しむ事だとしても
  それは私たちが受けとめるべき事となった。
  もとよりその覚悟は私も妻もしている。
  その事は、今後の遙の回復に寄って左右される事だけは事実だった。




  鳴海君は、相変わらず落ち着かない。
  でも、そろそろ意を決したのだろう。
  遙も傍らで鳴海君の手を握っているように思われる。
  そのあたりを遙は見つめている。
  鳴海君の左手がかすかに動いた。
  そして、顔を上げ私を見据えた。




  遙の見舞いに来た鳴海君と会ったのは、その後2回だけだった。
  どうも、時間がずれている様で、その後は退院まで会う事は無かった。

  彼等の会話を聞いてしまった時だった。
  鳴海君は、遙にどうしても言えない事があった。
  本当は、私たちが伝えねばならない事。
  しかし、それを伝えるには今の私には出来なかった。
  つい先日まで眠っていた遙。
  目が覚めて、鳴海君に会えるようになって喜ぶ遙の笑顔。
  たとえそれが幻だとしても、子供の笑顔を望まない親はいない。




    Scene・8


  鳴海君が速瀬君と付き合っている事は知っている。
  しかし、今回の事で色々と揉め事も起きているだろうと推測はできる。
  それは私たちが巻いた種だという事もわかる。
  責任は私にあるのだろう。
  しかし、これは彼らが通らねばならない道では無いかとも思う。
  無責任な言い方だが、いつかはその様な事に出くわす。
  これはただ単に、先に出会うか後に出会うかの違いだけじゃないだろうか?
  たまたま、私がそのきっかけを作ったのだ。

  なるほど、自分を正当化している。
  そんな事さえも理解している。
  でもね、私は遙の父親なんだ。
  娘の笑顔が見られるなら、私の魂を悪魔に譲っても構わない。
  たとえ鬼と言われようとも、それだけはもう譲れないんだ。
  もう、私には判ってしまった。
  私は鳴海君の親では無い。
  速瀬君の親でもない。
  …………ただ…………。

  それでも私は、大人として言える事を彼に助言した。
「 君は自分を強く持たなければならない。
  自分を第一に、自分の人生を自分の為に使わなければならない。 」
  そして、私の醜い一面を彼に示した。
  彼らはこれから大人に変わっていく。
  しかし、こんな一面を持たなくても良いのだ。
  だからこそ見せた一面。
  これは反面教師として、彼に提示したのだ。
  
  彼は真っ正直で純粋だ。
  それ故に以前は自分を追い込んでしまったのだ。
  でも、流石に今の彼は違っていた。
  確かに自分を責めている部分もある。
  しかし、人の言葉も理解できる冷静さを持てるようになっていた。
  彼の心に私の言葉が届いている。
  それでも迷いの森は抜け出せていない。
  いや、今はまだ抜け出せていないだけなのだ。
  少ししたら突き破っている事だろう。
  だから、彼を信じる。
  君たちの未来が笑顔であるように……。

  それから時間が流れた。
  彼は遙の側にいる事を望んでくれた。
  そこに私は感謝する。
  しかし、その裏にもう一つの別れがあったことも事実だろう。
  私はその事に罪悪感を感じながらも、娘の父親として喜んでいる。
  
  これまで、私の犯してきた間違いの数々。
  全てを正す事は出来ない。
  でも、二度と同じ間違いを繰り返さなければ良いと思った……。




    Scene・9


  鳴海君は私を見据えている。
  私も彼の口元を見ている。
  茜は相変わらず落ち着かない。
  妻はそれぞれのお茶を気にしている。
  ふっ、と鳴海君は息を吸ったと思うと、すぐさま話始めた。

「 ……お……お嬢……お嬢さんを……遙さんを僕にください! 」

  私は彼の目を見直し、そして遙を見た。
  遙は、俯いてただじっとしていた。
  再び鳴海君の顔を見て、
  静かに目を閉じた。
 
  とうとう彼はその言葉を発した。
  この言葉を待っていたのは、一番は遙だろう。
  そして、妻もこの事は望んでいるだろう。
  茜はもとより彼等の味方だ。
  一時期、色々とあったようだが、それはもう成りを潜めている。
  私も反対する事は何も無い。
  しかし、此処で速瀬君の事を思い出していた。

  遙の退院以来、音沙汰も無くなっていた彼女。
  しかし、ここ数年、再び彼女からの電話が鳴る。
  高校の頃に比べれば回数は減ったようだが、
  それでも週に一度は必ず入る。
  私はその事を深く受け止めた。
  彼らは私が原因で離れてしまった関係を修復したのだった。
  この事を私は素直に嬉しく思う。
  しかし、だからと言って私のしてきた間違いは許される物ではない。
  それでも、私の中では『 ホッ 』とする出来事であった。

  私は再び目を開けた。
  まず鳴海君を見て、横の遙を見た。
  遙は私が黙っているのを気にしたのだろう。
  不安そうな表情をしている。
  そして、妻を見て……妻は落ち着いた物だ。
  じっとお茶を啜りながら、此方を見ていた。
  茜を見ると、茜はじっと此方を見ていた。
  それまで落ち着きが無かった態度は、一変して石の様に微動だにしない。
  そんな茜の態度をおかしくも思う。
  私は苦笑する気持ちを抑えて、再び鳴海君を見た。

「 …………娘を…………よろしくお願いします。 」

  私は言葉の一つ一つを丁寧に彼に伝えながら、頭を下げた。
  その瞬間に、遙の顔が崩れる。
  目に一杯の涙を蓄えて…………。


  その後、すぐさま茜が大声で喜びを表した。
  鳴海君は持ち合わせていたハンカチを遙に渡した。
  妻は、私の気持ちを察してか、肩が触れるくらい側まで寄っていた。
  私は妻の顔を見て、手元にあったお茶を一口啜った。
  
  皆が一息を付いた頃には、茜と妻がその為に用意していた料理を運んできた。
  遙も手伝うといったが、流石に主賓にそれをさせなかった。
  私と鳴海君にはビールが注がれた。
  それでも彼は緊張が解けていないようで、正座を崩さなかった。
  「 乾杯! 」で、グラスを交わして、それまでの空気が一変する。
  和やかな中、会話が弾み、外も暗くなった頃、鳴海君は帰っていった。
  一緒に遙も出て行った。
  
  後に残された空の器たち。
  その光景をじっと見ながら、未だにビールを飲んでいる。
  横の茜は、私の事をずっと見つめている。
  グラスが空になり、手酌で注ごうとしたら、茜がビールを注いでくれた。
  そして、何気にしゃべり始めた。

「 お父さん、……やっぱり寂しい? 」
「 …………うーん、そうだね。でも、喜びも沢山感じているよ。 」
「 私の時も、そうなのかな? 」
「 どうだろうね……。相手に寄っては追い返すかもしれないね。 」
「 えーーーー!それは困るーーー。 」
「 ははは、まぁ、その前に相手を見つけなくちゃね。 」
「 ………… 」
「 大丈夫。茜の時はもっと寂しがるよ。 」
「 ………… 」
  茜は満足したような、でもやはり寂しそうな表情をしていた。




    Scene・10


  あっという間に時間が過ぎ、明日は結婚式だという。
  鳴海君は中々ロマンティストで、わざわざ避暑地の教会を式場に選んだ。
  そんな物だから、殆どの参列者は近場に一泊する事となった。
  私たちも例外では無い。
  教会近くのホテルに部屋を割り当てられた。
  鳴海君の気配りか、我々家族は4人一室で泊まる事となった。
  考えてみれば、このような事は娘達が中学生に上がってからは初めてだ。
  家族旅行すら、もう何年もしていない。
  十数年ぶりの体験だった。

  翌日が式という事で、早めに床に付いた。
  それでも、家族でゆっくりとする時間は取れたわけで、楽しい一時を過ごした。
  しかし、興奮しているのか、それぞれが寝付けないでいる。
  それでも、皆が寝静まった頃、私一人は部屋のベランダで外を眺めていた。
  夜の山は静かだ。
  程よい風を感じながら、ウィスキーグラスを回している。
  そこへ声が届いた。

「 お父さん? 」
「 ……ん?……遙か。 」
「 うん。……眠れないの? 」
「 ……ああ、……まだ、寝たくないんだ……。 」
「 ……そう……。 」
「 遙は明日大変なんだから、眠れなくっても横になっていた方が良い。 」
「 うん、……っわかっている……。だけど、もう少しだけ……。 」
「 ………ん、……横に来るかい? 」
「 ……うん……。 」
  遙は、パジャマ姿にカーディガンを羽織って、私の横に立った。
「 もう、すっかり良くなったんだね? 」
「 んもう、何年経ったと思っているの?大丈夫よ。 」
「 もう、すっかり一人前になってしまったんだね? 」
「 ………うん……… 」
「 …………不安……なのかい? 」
「 ううん、それは無いの………。
  ただ、……お父さんの子供で無くなってしまう事が残念なの……。 」
  私は遙の頭に手を伸ばし、近くに引き寄せた。
「 何を言っているんだい?君はいつまででも私の娘だよ。 」
「 ………… 」
  返事の変わりに遙は私の肩に頭を乗せてきた。
「 鳴海君は幸せものだ。私の自慢の娘を手に入れるのだからな。 」
「 ……うん……ありがとう、お父さん。 」
「 ………… 」
  私はグラスを少し傾けた。
「 さぁ、もう寝なさい。私もこれを飲んだら寝付くから……。 」
「 ………うん。………おやすみなさい、お父さん。 」
「 ああ…………。 」
  遙が部屋へ戻ったのを確認してから、夜の山を眺めながら、グラスを空けた。



  式当日、私達は遙と一緒に教会へ向かった。
  遙は別室で着付けをする事になっている。
  私たちも直ぐに着替えを済ませ、待合室で待つこととなった。
  妻は自分の着替えが住むと、遙の方へさっさと行ってしまった。
  残されたのは茜と私だった。
  どうにも落ち着かない。
  外へ出てタバコを吸う事にした。

  避暑地とあって、観光客が教会を覗きに来る。
  まして、これから結婚式が執り行われるものだから、
  偶然この場に出くわした人は、興味深く覗いていく。
  式場は、もうすっかり準備万端だった。
  招待者はごく数名だというのに、それ以上の人たちが教会の前庭に集まっていた。
  もちろん、礼服を着ていない人も多い。
  たまたま、通りかかった人が、祝福の席に参列してくれる。
  避暑地の小さな教会での結婚式、
  質素な式を想像していたのだが、
  案外派手な模様だ。
  私はタバコを吸い終えて、再び待合室に戻った。

  そこには着飾った遙と、友人の速瀬君、平君が談笑していた。
  二人の友人は、直ぐにその場を離れ、
  私に一礼とお祝いの言葉を交わした後退室した。
  残されたのは家族4人だった。
  私は娘の姿に見とれていた。
  言葉が出なかった。
  そのまま、ソファーに腰を掛け、時間を待つ事にした。
  茜は遙と話をしているようだが、何を話しているのか……。

  やがて、鳴海君が両親と共に訪れた。
  鳴海君のご両親には昨日初めて会った。
  色々と忙しい仕事をしているようだ。
  あちらも礼儀正しい物だから、挨拶の応酬になってしまった。
  
  やがて、彼らもこの部屋から去り、会場への移動が促された。
  私と妻は遙に向かい立っている。
  遙は少し躊躇いながら、それでも決心したように私を見上げた。
  私の横に並んだ妻は、顔を上げた遙を見て再び駆け寄った。
  目に一杯の涙を湛えて、それでも視線をそらさずに言葉を紡ぎだした。

  

  『 ……私、……たかゆきくんと……幸せになります。 』

  その表情に、私の胸も一杯に膨れ上がる。
  目頭が熱くなる。
  今までこの娘と歩んできた日々が、頭の中を過ぎって行く。
  それこそ色々な感情が、心の中を支配していく。
  それでも、最後には歓びが溢れ出した。
  だからこそ、こんな言葉にし表現できなかった。

  『 ……ああ、……心配は……していないよ…………。 』

  言葉があふれ出した途端に目頭が堰を切って頬に伝わる。
  娘のそれは、母親の手に寄って拭われていく。
  しかし、それでもなんとも言えない笑顔に変わっていく。
  それにつられ、私の顔も緩んでいく。
  涙を拭う事を忘れて…………。




    Last Scene


  教会の扉の前で二人腕を組んで並ぶ。
  娘と腕を組む事なんて、殆ど考えられなかった。
  また違った緊張に襲われる。
  横を見ると、遙はベールを下ろし、少し俯いている。
  少しだけ腕にすがるように重みを掛け、少し顔を上げて悪戯っぽく笑った。
  私もその笑顔を見ただけで、緊張が解けた。

  教会の中からオルガンの音が聞こえて、
  やがて賛美歌が始まる。
  ほんのわずかな間を置き、扉が開かれる。
  赤い絨毯が、祭壇の前まで続いている。
  その途中で、正装した鳴海君が此方を向いて見つめている。
  私は横の遙を少しだけ見た。
「 いいかな? 」
  私の言葉に少しだけうなづいて見せた。
  
  二人ではじめの一歩を踏み出す。
  これは、私たちが歩いてきた人生。
  私の娘として生まれた遙の人生。
  まだ途中だ。
  鳴海君が居る場所が現在なのだ。
  その先は、鳴海君と歩く事になる。

  一歩、一歩、歩みを進ませる。
  少しずつ近づいてくる鳴海君。
  願わくは、このままいつまでも歩いていたい。
  しかし、私の我侭もここまでだ。
  鳴海君に遙の腕を渡す。
  彼らは二人、お互いに見詰め合う。
  そして、祭壇を見つめ、
  目を逸らす事無く歩いてゆく。
  後ろを振り向く事も無い。
  
  私は、
  並んで歩いてい行く二人を私は見送り続けた…………





            『 もう一つのWedding BELL 』END
                                04.04.23


    後書き

FLY AGAIN(オコジョの儚き夢の部屋に掲載)に続く長さになってしまいました。
何の気もなしに書いた『 Wedding BELL 』の別視点の話だったのですが、
如何でしたでしょうか?
事実、納得していない部分が多々あります。
が、現時点ではこれが精一杯という事で、
一旦発表させていただきます。
出来れば此方の掲示板に感想をお願いします。

本日は、長々とお付き合いありがとうございました。
     

掲示板へ

君のぞのページへ戻る

TOPへ戻る