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コラム
 ”さよならにっぽん、文学の 旅。”
第1回
谷譲次「めりけんじゃっぷシリーズ」

今回から不定期で、自分の文学遍歴をすこしずつ書いていこうと思う。
最初はアメリカ文学に限定しようかと思ったのだが、限定できるほど極めてもいない愚鈍な私なので、やはりここは自分の読んできた文学の脈絡を自分で掴み直 す意味も込めて好きに書いていくことにした。
第1回は谷譲次の「めりけんじゃっぷ」もの。
 1920〜30年代に一世を風靡した作家のようで、本名は長谷川海太郎。この人はペンネームを三つ持っていたらしい。一つは泣く子もさらに泣く、丹下左 膳シリーズを書いた林不忘。もう一つは婦人雑誌に書き熱狂的奥様ファンを獲得した牧逸馬。そして三つ目の名前、それが「めりけんじゃっぷ」シリーズを書い たハ イブリッド作家、谷譲次である。
 どうやら当時一番人気があったのは流行作家的だった牧逸馬らしい。林不忘のほうは丹下左膳の映画原作として売れているわけで、谷譲次が一番知名度が低い の だろうと思う。
 しかしこの「めりけんじゃっぷ」すごいの一言だ。
 それでは語れなくなってしまうので、もうちょっと。
 牧逸馬というのは読んでいないが、林不忘は読んでみた。しかし余りのブアツさに辟易してしまった。おもしろいはおもしろいのだけども、私は元来長編も のを一気に読みとおすのが苦手。少し止まるともう手が出なくなる。だが、「めりけんじゃっぷ」は短編の連作ものといった風潮。そして何よりもその語り口。 これ がおもしろい。
 ハイブリッド文学という表現がなされていたが、うまい言いかただと思った。つまり日本語と英語が入り混じっているのだ。まぁ、五分ではない。それではと ても読めない。だいたいが日本語で所々にアクセント的に英語が使われていて、それが文章のリズムをシャッフルする。合間に擬音やこちらへの問いかけが入 る。と言った感じだ。all right?
 舞台はアメリカ。禁酒法時代。移民達の溢れる街。ハレムは混沌としていて。主人公のジヨウヂ青年はアルバイトをしながら転々としている。いろいろあるが こ こには書けない。
そのアメリカの人々のいろいろな逸話がリズミカルに描かれている。
これだけでも読みたくなる設定。ain't not?
 そして日本語が当然旧仮名遣いなのだ。そこに英語が入る。なんともモダンな文章だ。と短絡的に私は思ってしまう。今は、みすず書房の《大人の本棚》シ リー ズにまとめられている。私が読んだのもそれ。
 3つのペンネームを使い分け、ものすごい勢いで10年間作品を書き、あっという間に35歳であの世へjump over! という具合。
 「めりけんじゃっぷ」もの以外では、谷名義で翻訳もの、岩波文庫にある「踊る地平線」という紀行ものが私の知っているところだ。翻訳は読んでいない。そ し て 「踊る地平線」は上下巻の長編。思いきって読んでみた。そういうわけで、あとは言わなくても・・えいんね?
(hayasi keiji,06/4/28)
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