院生の独り言

ある いんせい
あなたの水俣病申請、親戚は知っている?!………    <2005/03/06>

●2005年2月26日(土)

出水市の漁港:それぞれの漁法に応じた時間に舟が出入りする

漁師の命・網:安価に押さえるためにパーツごとに購入し組み立てる、工夫の産物
 現在、水俣病の申請をしている鹿児島県出水市の元漁師夫婦に聞き取りを行った。ご夫妻とは、以前少しお話をしたことがあったが、今回は改めて、ということで、米ノ津港のご自宅へ伺った。私が今まで聞き取りをした水俣病申請者は、その多くが自分の過去の申請に関する書類を保存しておらず、いつ頃、何回申請をしたのか、正確には分からないことが多い。今回のご夫婦は、行政不服を行って得た資料をきちんと保存していた。しかし、夫妻はそれらを全然読んだことがない、と言っていた。

 異議申立書・弁明書・反論書とそれらに添付された疫学調書や検診資料などの、おきまりの書類の束を丁寧に見ていくと、ご夫妻が既に記憶していない様々ことが分かった。ご夫妻は過去に2度申請して棄却されていること、平成7年の解決策でご主人は保健手帳を取得していること、ご主人の父親は保留中に亡くなったこと、等々、聞き取る側が声に出す内容を聞いたご夫妻は、「なるほど、そうだったのか」と他人の話を聞くように感心していた。そんなにたくさんの情報がつまったものとは思っていなかったそうだ。

 中でも奥さんが「まあ、なんちゅうことだろか〜。」と驚いたのは、ご主人の妹さんが医療手帳を取得していたこと。不知火海沿岸の住民にとって、地域の中で水俣病を話題に出来るのは、ごく一部の人であることは周知のことである。このご夫妻もその例にもれず、親戚同士で誰が申請したかといった話題を未だに出来ないそうである。ずっと水俣病の申請を嫌っていたはずの親戚が医療手帳を持っていることに、ご夫妻とも「へえー。」「まあー。」と、最期まで驚きが冷めやらず・・・。「あんなにプライドの高い人やのに」、「ずっと申請したの?なんて聞けんやったもんね〜」。今年一番の収穫情報だったようだ。

 問題の書類は、「家族の認定申請処分状況」という1枚の紙きれ。申請者本人の疫学的情報として家族の処分結果のみが記入されている。その「家族」の範囲はけして広範囲ではないものの、既に別世帯となってそれぞれの家庭を持った兄弟姉妹の情報。親戚や近隣に隠して申請した人もいるだろう。申請を隠さなければならない地域社会の是非はともかく、隠したい人、隠していると思っている申請者も、意外なところから(しかも、プライバシー保護を謳い、患者に有利で行政に不利な情報を一切流さない行政から)情報が流れていることは、未だ気がついていないだろう。今回の波紋がこの家庭・親戚にどんな影響となるのか、非常に気がかりだ。

 ちなみに、ご主人の検診結果についての“権威様”の見解は、「水俣病でないということを否定するものではない」だそうだ。どうやら申請者には、「水俣病でないということを否定するものである症状」を持つことが要求されているらしい。「けっ!」



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