※環ラスとは
2005/12/24 <19> ▼再認識した“これからの地球環境は中国が最重要のカギを握る”という事実▼
3回目のワークショップは参加人員も討議内
容も向上したという評価では一致した
=2005年11月26日、上海・華東政法学院の
大講堂で

開会式の後、全出席者が揃って集合写真を
撮るのが中国式?
=2005年11月26日、上海・華東政法学院の
中庭で

11月下旬、上海で開かれた「環境被害救済(環境紛争処理)日中(韓)国際ワークショップ」に参加した。日本、中国に韓国が加わって環境問題や環境法の研究者、法律家、弁護士、NGOなどが一堂に会し、研究成果や現状分析などを発表し合う場で、2001年の北京、2003年の熊本に次いで、今回は3回目であったが、「これからの地球環境」を考えさせられるワークショップであった。

今回、ワークショップに与えた最大のインパクトが吉林省の石油化学工場で起った爆発事故(2005年11月13日)によって、ベンゼンやニトロベンゼンなど有害化学物質が松花江へ流出した事件。この報道が伝わり始めた矢先に、追い討ちをかけるように、こんどは黒竜江省七台河市の炭鉱で大規模な爆発事故が起き160人を越す犠牲者が出た(11月27日)ことを宿泊中のホテルでインターネットやNHKのBS放送で知った。

もちろん、ワークショップでも話題になり、中国側の発表の中にも急遽織り込まれたが出席予定だった環境保護総局の幹部が現地に赴いているため欠席だったこともあり、残念ながら中国にいても情報公開が十分でないだけに、隔靴掻痒の感は免れなかった。また“国際会議のエチケット”なのか、ズバリ「あれはどうなった?」と聞きずらいという雰囲気もあった………。

会議日程を終了し、日本に戻って、日本のマスコミにより事故が予想以上の深刻な影響をもたらしていること。中国側が事故発生の事実を伏せ、10日も公表しなかったこと。事故によってベンゼンなど有害(猛毒)化学物質が松花江に流れ出たこと。それに対して直ちに警報が発せられなかったために漁業従事者が被曝したことが考えられること。松花江はやがてアムール川に合流するためロシア側にも何らかの影響を与えかねず、ひいては(アムール川は日本海に流れるので)日本海の環境汚染にも結びつきかねないこと……等々、次々と深刻な事態が明らかになった。現にロシア側の報道によると、事故発生から40日目の12月22日、有害物質はハバロフスク市に到着したという。付け加えれば、12月7日にも河北省唐山市の炭鉱でも爆発事故が起き、50人以上の犠牲者が出ている。

6つの報告に対し、フロアーから活発に質問が
出された
=2005年12月16日、東京・青山の環境EPOで

上海から戻って2週間あまりたった2005年12月16日、東京で「日中環境問題研究会」なる勉強会が開かれた。今回のテーマは「中国環境協力を考える」であったが、上海ワークショップの概要報告も行われた。上海で実感し、この勉強会で再確認した事がある。誤解を恐れず申し上げる。

「中国はどこまで本気で環境問題に本腰を入れて取り組むのだろうか?」ということだ。

中国側にはそう考えられても仕方がない“実績”がある。2年前の新型肺炎SARSの事例はまだ記憶に生々しい。あれだけ世界から顰蹙を買った苦い経験をしているのに、今回の事故を起った日に確認しているのに10日も伏せていた事実は、依然として情報公開に対する認識が浅薄、もっと言えば甘いと言わざるを得ない。なぜなら、この情報はひとり吉林省だけの問題でなく、有害化学物質は工場→松花江→アムール川→日本海へと流れ込むのだ。にもかかわらず、報道によると、黒龍江省の張左己長官は伏せたのは市民のパニックなどを恐れた「善意の嘘だった」と大いなる思い違いのコメントを発している。

断わっておくが、弊“環ラス”は嫌中派でも反中派でもない。靖国問題にしても中国側の主張は十分に理解しているつもりである。しかし、こと環境問題になると、どうしても中国の中央政府、地方政府、行政ともどこに視点があるのか分りかねる。

そういう中で、上海ワークショップに参加していた王燦発・中国政法大学教授と人民日報の趙永新記者が「緑色中国年度人物」に選ばれたことが伝わってきた。これは、環境保護に寄与した人5人に与えられる賞で、今回がはじめてという。せっかくの第1号受賞にケチをつけるつもりは毛頭ないが、近頃、お二人の声が大きくなってきたので、栄誉を与えることで少し静かにしろというつもりでは? などとあらぬ疑いを持ってしまう………。

▼上海ワークショップ関係から初の「緑色中国年度人物」が2人も選ばれた▼
公害被害者救済に先べんをつけた王燦発さん(中央)。日本から参加した被害者に囲まれて 心臓バイパス手術のため参加できなかった宇井純さんを来日時に見舞った趙永新さん(左)
=2005年11月27日、上海・華東政法学院で =2005年12月9日、東京西新橋の慈恵医大病院で

この点について、上海ワークショップの中国側代表を務めた張梓太・華東政法学院教授に最近来日した機会にぶつけてみた。首を大きく横に振って、「その見方は正しくない。彼らは本当に厳しい状況の中で環境保護にそれぞれの立場から寄与してきたのです」と言い切った。

未経験の要素も多分にあるが
中央も地方も行政は全力で問
題解決に取り組んでいる、とカ
バーする張教授

=2005年12月22日、東京・パ
レスホテルで

以上のようなここ1ヵ月の経過を踏まえて、この年の暮れに改めて思ったことは、「中国という国はこれからの我が地球の環境問題の行く末を握っている大変な国になったな」ということである。敢えて申し上げる。環境問題はいまや政治や経済や文化のレベルとは異なる最上級の問題だ。それだけに、中国の動向をウォッチする必要が十分にある。ここでいうウォッチとは単に監視するとかチェックするというケチな発想ではない。仮に、今回のような事故、環境破壊事件が発生した場合、即座に事実を明らかにし、必要であれば率直に支援を求めるべきである。間もなく迎える2006年の重要課題の一つと言って過言ではない。

さて、今回申し上げたい「中国はどこまで本気で環境問題に本腰を入れて取り組むのだろうか?」ということについても張教授にぶつけた。

即座に、「中央政府は今回の事故を極めて重要視している。環境保護総局長を罷免した。責任追求の第一歩だ。5年前には考えられない措置だ。従来から政府のやり方を指摘して来た我々研究者も一定評価している。環境問題に本気で対応していく中国を信じて欲しい」との言葉が返ってきた。当面は信用し、とにかく動向を見極めるしかない。

【予告】 上海ワークショップのレポートは新年にアップロードの予定。

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