2003.12.16より



NO.13:JUN SKY WALKER(S) 『ひとつ抱きしめて』
        
1.明日が来なくても             7.カステラ   
2.ひとつ抱きしめて           8.BAD MORNING
3.夢に向かって             9.あきらめたくない
4.声がなくなるまで           10.ガラスの街
5.すてきな夜空             11.望み  
6.いつも二人で             12.傾いた世界
   13.ななしの詩  
 “ジュンスカ”の音楽を語る際、そのジャンルは何かと聞かれると「パンクを基調としたビート・バンド」ということになります。そう、彼らはパンクバンド。“ジュンスカ”の音楽に関する本を読んでいて、まさにピタリとはまる考えを得たんですね。元々パンク自体はイギリスの閉鎖的社会に絶望した若者達の「現状否定」の爆発的なエネルギーを中心とする音楽、しかしながらイギリスとは違ってこの日本には声高に否定しなくてはならない現状なんて、何一つ無いとあるのです。正確に言えば、リアリティを感じさせる明確な社会制度の縦列化、差別や貧富といったものが目に見えては存在しないからです。したがって、70年代後期から80年代初頭に日本で台頭してきたパンク・ムーブメントに乗って作られたパンクバンドの殆どは、そういった「リアルじゃない現状否定」を繰り返してきました。現在に至るまで語り継がれているパンクバンドやミュージシャンが数多くはいないのは、そのことが原因でしょう。否定すべき社会や敵がいない、では日本のパンクはどうすればいいのであろうか、“シュンスカ”が考え出したのはおおらかな「現状肯定」なんですね。世界のパンク・ムーブメントには社会、つまりその中心に位置する大人を敵とする攻撃衝動を抱えながらも、その内に自分たち、つまりは未熟な子供たちの青春を認め前面に出す、という部分がありましたが、“ジュンスカ”や他の多くの80年代後期に勃興してきたビートバンドたちはその点を明確にし、バンドにおける曲作りの中心としたのですな。若さを認め、その未熟を認めた上で賛美する。こうした音楽性は“ブルーハーツ”などが中心でしょうね。大槻ケンヂが言ってましたが、ロックはバンドブーム以後、急速に「大人たちの商品」と化してゆき、そこに込められていたメッセージや意味は空回りし、商売上の一単位として扱われることになっていきます。80年代後半のある時期、ロックがそうなる前に未熟ながらも声高に自分たちの青春や日常を歌い上げる、そうしたミュージシャン、というか音楽好きな少年少女たちが確かに存在して、その音楽がまた多くの少年少女たちの支持を得ていたと言うのは紛れも無い事実であり、そして“ジュンスカ”もまた、その中心にいて大きな声で叫んでいたのです。
 この作品は彼らのセカンド、実質的にはファーストの『全部このままで(ここからも彼らの現状肯定が見えてくる)』がミニアルバムといった状態だったので、このアルバムが初のフル・アルバムといったところでしょう。後々のライブに至るまで演奏される彼らの代表曲が数多く収められています。スローテンポが切ない「声がなくなるまで」、アップテンポな「すてきな夜空」といったところは外せません。僕のカラオケ18番、といくまでは歌ってはいませんが。「BAD MORNING」はインディーズ時代からの持ち歌、先に紹介した『J(S)W』にも収録されていますが、新禄バージョンのこちらはよりタテノリにチューンアップされて、ライブの定番になっていました。ギターの森純太がボーカルを取る「あきらめたくない」、「そろそろ羽が生えそろう、学歴の羽が 君が捨てた夢の欠片、僕が受け取ろう」のセリフが胸に来る「望み」、のんストップで迫る「傾いた世界」、宮田和也と森純太のツイン・ボーカルで一気に歌い上げる「ななしの詩」など、この辺りは一曲も外せない出来です。まさしくビートパンク。「バンド内でやれることを試してみみる」という空気が伝わってきて、実に楽しげな音楽を聞かせてくれます。
 そうです、この「楽しさ」というファクターが重いパンクの世界を脱却したかった日本のバンドマン達の一致した思いなんじゃないでしょうか。少なくとも、90年代の時期までは。自分が楽しいと思うことを精一杯やりたい。誰だって思うことですけど、そのことだけ実現するのは難しい。「楽しいこと」をやるために、それ以上の多さの「楽しくないこと」をやらなければいけない。そうしていくうちに、主客は転倒してどちらをやるはずだったのか、どちらを求めていたのか、そもそも自分がそのことをやりたくてやっているのか、と言う部分までわからなくなってしまうことがあります。そう言うときは、ちょっと立ち止まって自分の周りを見回して、思い出しましょう、自分が大切にしていたものをひとつ抱きしめて。とこのアルバムタイトルの曲にも入っています。現在では殆ど廃盤で手に入りにくいですが中古屋を覗けば、結構置いてあるかもしれません。もしくはレンタル落ちを探すとか。大人になる前に、一度は聴いてみて欲しいアルバルです。


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