1998年11月16日

キューバのミミズ農法

  ホルヘ・ラモン・クエバス(Jorge Ramon Cuevas)氏は、教授がやれるほどの実力のある研究者だが、1985年からミミズで有機廃棄物を肥料に転換する技術開発の研究を行っている。クエバス氏はこう語る。

「私がこの研究をやり始めたときは、人々は私が狂ったと思ったと言ったものです」

 だが、1989年以降、キューバが史上最悪の経済危機に突入すると、氏や他の科学者たちが持続可能な農業を研究していることや開発してきた課題が、キューバが直面するすさまじい逆境を生き残る努力の最前線として表に出るようになったのだ。

 この経済危機は、スペシャル・ピリオドとして知られているが、旧ソ連やその他東欧諸国からの援助や貿易を激減させることになる。化学肥料、農薬、家畜飼料と石油製品の輸入が80%も減ったのだ。さらに、キューバに対する米国の経済封鎖の強化が重なった。結果として、キューバでは食料が不足し、一人あたりのカロリー摂取量は、1989年から3分の1も低下してしまう。この食料不足に応じて、多くのキューバ人が自宅の菜園で作物を栽培しはじめた。いま、ハバナには3万ものコミュニティ菜園がある。

 だが、キューバのミミズ男は陽気で楽観的だ。いくつかの作物で彼は、ミミズ堆肥で投入肥料の70%まで代替できることを発見した。化学肥料がヘクタールあたり45トンの牛糞で代替できる作物では、うまくいくと、ヘクタールあたり4トンのミミズ堆肥で代替でき、生産も31%向上することを見つけだしたのだ。ミミズ堆肥で、肥料の総量を減らせることは、輸送コストを引き下げる付加価値もある。ミミズ排出物は2%の窒素、1.5%のリン、1.5%のカリ、65%の有機物を含み、排出物は比較的安定していて、土壌中で5年間は持ちこたえる。

 クエバス氏は、フィリピンから導入したPheretima種やメキシコから手に入れたLumbricusrubellusやL. terrestrisを含め、数種類のミミズで堆肥化の実験をしている。氏は今、研究上2種を重視している。この2種がキューバの条件下で最も有効であると感じているからだ。そして、Eisenia foetida andreiは、Eisenia foetida foetidaの亜種とアフリカン・レッド・ウォームと呼ばれるEudriluseugeniaeよりも、湿潤で亜熱帯のキューバの気候下ではずっと耐性があることがわかった。Eudrilus eugeniaeは、E. foetidaほどはうまくはいっていない。耐性が弱く、条件がよくないと、逃げ出しがちになるからだ。だが、Eudrilus eugeniaeはE. foetidaよりも多くの蛋白質を産みだすし、家畜飼料の添加剤としてとくに役立つ。

 私は、ピナル・デル・リオ州にあるミミズ堆肥生産センターを訪れてみた。全国にはミミズ堆肥生産センターが172ヶ所もあり、1993年には総量7万トンのミミズ堆肥を生産したが、私が訪ねたセンターは、その中でも最大のものだ。

 そこは、1980年代にクエバス氏から二つの小さなミミズの箱を受け取ったことから出発したが、1993年には1万トンものミミズ堆肥を生産した。手に入る時は、鶏糞がミミズの餌として、牛糞と半々に混ぜて使われている。クエバス氏はサトウキビ加工廃棄物や豚糞でも実験をしている。ハバナ市では毎秒5立法メートルもの人糞が海に流されているが、キューバはこの貴重な資源を活用する準備がまだできていない。

 クエバス氏は、家庭生ゴミを処理するため、氏が「ゴミ箱」と呼ぶ、二つの箱のミミズ堆肥システムを開発している。氏は現在、二つのレストラン、エコツーリズムのホテル、そして169世帯からなるコミュニティでパイロット・プロジェクトを進めている。

 ゴミ箱(60×40×高50cm)は、約1500匹のミミズから始め、箱あたり約2万匹までもって行く。ミミズは一番目の箱が一杯になるまで、台所からの残飯と紙ゴミで育てられる。二番目の箱は、底がスダレ状になっているのだが、最初の箱の上に置かれ、餌が与えられる。ミミズはスダレを通り抜けて餌がある場所に移動する。この方法で、ミミズはできたミミズ堆肥から自分たちを分けるのだ。

 ハバナのミミズ男は、このところよく知られた顔になっている。氏が出演するキューバの動植物と環境について週間テレビ番組エントルノ(Entorno)は、国内でも最も有名な番組の一つだ。氏の研究プログラムは、主にハバナ近くのプラヤにある土壌肥料研究所で行なわれている。

 キューバは他の国々にミミズ技術を輸出もしている。1992年には、クエバス氏はペルーで2ユニットを設置することを支援したが、そこは1200トンのミミズ堆肥を生産している。1998年は、スーパー・マーケットからの廃棄物を利用したミミズ堆肥プロジェクトを進めるために、ベネズエラに出かける予定だ。

 Werner氏は、交流と毎月スタディ・ツアーを組織化しているサンフランシスコのグローバル・イクスチェンジのグループの一員として、キューバを旅した。

(米国のインターナショナル・ウォーム・ニュースからの記事)
  Matthew Werner,The Worm Man of Havana,1998.サイト消滅

Cuba organic agriculture HomePage 2006 (C) All right reserved Taro Yoshida