島国キューバは、かつては栄養面でラテンアメリカ第二位のランクにあった。だが、今、食料危機に苦しめられている。ほとんどのラテンアメリカでは都市の方が農村よりも暮らしが良いのだが、キューバはそれとは明瞭なコントラストをなしている。都市住民が頼る食品店には基礎的な栄養を満たす商品が不足しているのに、キューバの小農たちは、基礎的な穀物や主食を手に入れているのだ。
私は、1998年の5月と10月にハバナを訪れ、商店に行ってみた。だが、棚はほとんど空っぽだった。ハバナ郊外の農民市場では産物が手に入れることはできたが、キューバ国内通貨に依存している人たちは「値段が高すぎる」と不平不満を口にしていた。外貨を入手できる幸運な人だけが、食事に余禄をつける余裕があるのだ。
革命以前は、キューバは食料の大半を米国から輸入していた。1959年の革命後は、輸入食料の低下と国内農業生産の落ち込みのため食料不足が確実となった。だが、キューバの新政権は、全人民に食を約束し、1961年には廉価で一定価格の食料配給制度を設けたのだった。米国との関係が壊れた後も、キューバはソ連ときわめて好条件の貿易を享受できた。1987年では、全輸入食料の63%、海外貿易の80%以上がソ連圏とのものだった。
だが、1989年にひとたびソ連圏が崩壊すると深刻な経済危機が現れる。農業生産に不可欠な輸入品の落ち込みが第一の理由だが、国内食料生産は40%まで低下した。食料配給は減らされ、蛋白質の摂取量も低下した。小麦やその他の穀物生産も50%も低下し、以前はラテンアメリカ諸国内でもキューバはその社会指標でリーダー格であったのに、カロリー摂取量ではラテンアメリカ平均値よりも25%以下、蛋白質の摂取量では平均値より16%も落ちたのだった。
だが、キューバの危機は革新的な対応を呼び起こした。機械やスペアー・パーツ、石油を基礎とした化学肥料や農薬は、手に入らないか、価格が高騰し、多くの農業協働組合が、有機農業を採用するようになったのだ。1990年以後、農村であれ都市であれ、家族やコミュニティによる有機農業で根菜類や野菜生産増加にむけた努力が加速化していく。生鮮野菜の有機栽培(オルガノポニコとして知られる)
がハバナ全域で広まっており、2万8000以上の家族が都市野菜菜園から恩恵を受けている。
コミュニティは、有機農業で食料生産を多様化しようと努力したが、これに対し、キューバ市民社会は活発に貢献した。家族有機農家やコミュニティ菜園の数が増え、食料需要を補完し、持続可能な農業の実践効果を示している。そして、キューバでは投入物資や資材は外貨で入手できるだけなので、国際援助は、有機農業や菜園への動機づけとしてかかせないものとなっている。
オクスファムのプログラムは、コミュニティ菜園から国際貿易にまで及んでいる。持続可能な農業や食料確保を推進するNGOの取り組みを強化するため、オクスファム・アメリカは、有機農業で食料生産に取り組むグループの活動を支援している。1996年には、オクスファム・アメリカは、ヒルベルト・レオン(Gilberto Leon)協同組合農場に、初めて支援を行ったが、農場の115人の組合員たちは、いま年間6,500トンの野菜を生産している。この協同組合は、20万人以上の小規模農家からなる全国組織、ANAPの最有力メンバーのひとつである。ANAPの会員は、国内農地の約20%を所有し、国内で生産・消費される食料の30%を生産している。
オックスファムからの援助資金で、ヒルベルト・レオン組合は布覆を購入し、2ヘクタールの温室を設置でき、それは組合員自身の消費や地方の農民市場で販売するための生鮮果実、ハーブ、野菜の生産を高めることに役立った。
オクスファム・アメリカは、首都総合開発グループ(GDIC)も支援している。このグループは、コミュニティを動機づけたり、食料生産にエコロジー的なアプローチを用いることで、都市の再生や発展を進めている。
首都総合開発グループ(GDIC)は、5人の専門家からなり、9地区で転換のためのワークショップ確立を支援している。ワークショップは、ハバナ内で経済的に衰弱し、荒廃した地区で、メンバーが自分たちの暮らしを改善するために働く、独立したコミュニティ組織である。G首都総合開発グループからの援助によって、ワークショップは、地場消費用の有機果樹や野菜を生産するコミュニティ菜園を作り出したが、それは、食料危機を軽減し、エコロジー敵に持続可能な食料生産を促進するだけではなく、地元経済を強化し、コミュニティ意識を高める助けになっている。オックスファム・アメリカの援助は、ハバナ郊外の3地域で、このワークショップ菜園が、種子、農具、潅漑設備を整えるために使われている。そして、都市菜園の開発や経験をわかちあうためのニュースレターの配付や毎年の会議開催も支援している。
オクスファム・アメリカのキューバでの仕事は、新局面を開拓しつつある。米国の長年にわたるキューバの経済封鎖ために、キューバに対する金銭的援助であれ、人道主義的な商品の寄付であれ、そのほとんどは、米国政府の公認と認可を受けなければならない。オクスファム・アメリカは、コミュニティに根差した努力に対し、長期的な発展を促進するための米国では第一の組織のひとつであり、また、人道主義的な商品よりもむしろ金銭を送ることで、キューバが投入資材を購入できるようにしている数少ない団体である。こうした方法によって、オクスファムの援助は、組織のコストを節約し、地元経済に貢献できているのだ。
米国の政策が、キューバの食料危機に与える影響は大きい。米国の経済封鎖は、米国から食料や農業投入資材を輸入する商業販売を妨害している。外貨利用や船舶に制限を加え、その他の意欲を失わせることで、他の諸国からの輸入も邪魔している。オクスファムは、現在の米国の政策が、キューバの危機を悪化させているとの信念の下に、経済封鎖から食料や医薬品の販売を除外するよう活発に法制化を進めている。下院で提案されたキューバ民主化貿易法と上院のキューバの女性児童法が、キューバに対する米国の食料や医薬品の販売の禁止を緩めるための二つ努力である。
キューバは、エコロジカルで持続可能な食料生産の実験によって、世界のどこでも適用できるオルターナティブなモデルを提供している。コミュニティの実践を支援し、米国の政策を変えるべく圧力をかけることで、オクスファムは、将来的にはなくなるであろう今のキューバの危機に対応することを望んでいるのだ。
ベルニース・ロメロ(Bernice Romero)氏は、オクスファム・アメリカのアドボカシー・コーディネーターである。
|