2000年3月

■はじめに

　私は、ウエルト・グァナバーナ(huerto Guanabana)で、新しく作付けする場所から石ころを取り払っていた。私はホルヘやシエラ氏といった人々とともに働いた。彼らとは1996年にハバナで三カ月をともに過ごしたが、その他何万ものハバナっ子たちは、スペシャル・ピリオドの必要性から、新しい職業、つまり、菜園をやることを強いられたわけだ。

　1990年代の初め以前には、都市菜園はほとんど希で、事実、市はそのほとんどすべての食料を他の地方に依存していた。だが、今や状況は異なり、州の土地の41％が農業に使われ、何万もの市場向け菜園、アロットメントや小さな農地が、熱心な住民たちによって耕作されている。そして、そのすべてが有機農業でなされているのだ。

■その歴史

　キューバではエコロジカル農業は、1970年代以降、ごく少数の科学者たちが研究してきた。だが、スペシャル・ピリオドによって、彼らは農政上、重要な地位を占めることになる。彼らが、有機農業システムを開発し、それが1993～94年の深刻な飢餓からキューバを救うことになった。バイオ農薬、バイオ肥料と土壌接種物といった多くの形式を生み出したキューバの科学者たちの支援もあいまって、伝統的な農法と近代的な有機農業が強化されたのだ。牛がトラクターの代わりとなり、堆肥が化学肥料の代わりとなり、益虫と微生物が有毒な農薬の代わりとなった。この巨大な改革の詳細は、本(The Greening of the Revolution (published by Ocean Press, Melbourne 1994)でも公表されている。

　こうした改革が農場で進められるとともに、同じく大きな改革がハバナでも起きていた。州政府は、人々が菜園(huertos)として使えるよう、遊休地を手に入れるようにしたのだ。政府は、市場向け菜園(organoponicos)や職場菜園(autoconsumos)の建設を促進し、種子と農具を供給する店舗も設置した。州の農業省は、こうした様々なグループを支援するため都市農業局も設立する。

■ハバナ市内の都市農業

　園芸クラブ、個々の菜園の健全なネットワーク、農業省内の支援部局、そして、化学農業を疑問視し、有機農業の価値を実証できるとの一般的な楽観論。それが1996年に私が見出したものだった。四年たった後もそれは継続的に発展していた。数多くの家庭菜園者たちはさほど変化していなかったが、商業用に耕作される土地は、着実に増え続け、支援機構は大きく発展していた。

「都市農業局はいったい何をしているんですか」

　私は尋ねてみた。戻ってきた答えはこうだった。

「それは、もはや存在しない。農業省全体がエコロジー農業のメッセージを掲げたために、それはハバナにある農業省に機構改革されたのだ」

　ウエルトス、オルガノポニコ、アウトコンスモス、そして、店舗を所管する部局は今、省内で別組織となっている。1996年に目標となっていたのは、ハバナ市内の15地区各々にひとつの店舗を設置するというものだった。だが、四年後の2000年には15ではなく23軒の店舗があり、種子や農具を提供すると同時に、ガーデニング/農業アドバイスセンターとしての役割も果たしていた。

　スペシャル・ピリオドの以前にはハバナでの食料生産は無視できるものだったが、1995年には40,000トン、1996年に80,000トン、そして、1998年には115,000トンとなった。これはすべて有機で、州では農薬使用が認められていない。

　ウエルト・グァナバーナを耕作しているのは、四年前と同じ人たちで、ブロックの六人の居住者と、時折それを助ける友達がいた。彼らは、ほとんど耕作中の土地を手にしており、ほとんどが自給や医薬用のハーブだが、余剰農産物を売っていた。

　アバナ・ビエハ(Havana Vieja)では、最初のキューバのパーマカルチャー・コースの受講生の一人である、フェルナンディーニ(Fernandini)氏が、菜園の規模を二倍にして、彼自身でガーデニングを教え始めていた。サンタ・スアレス(Santa Suarez)では、フスト(Justo)氏とカルメン(Carmen)さんがパティオ・ガーデニングを進めており、地元の学校菜園や新しい菜園を発展させていた。カルメンさんは自然と人間の財団(La Fundacion de Antonio Nuñez Jiminez de la Naturaleza y Hombre)で働いている。

■自然と人間の財団

　ヒメネスは、フィデルの革命集団の一人だった。探検家、作家、科学者。ヒメネスはキューバ革命の偉大な文化人のひとりだった。ヒメネスは、自分の巨大な蔵書館、原稿や芸術と加工品のコレクションや自分や科学者仲間たちの仕事を公表し、環境に関する研究を行うため、財団を設立したのだ。そして、オーストラリアが支援するパーマカルチャー・プロジェクトのパートナー組織になった時、財団は有機農業運動と関わるようになった。

　これが、財団が海外団体から援助資金を受けたり、持続可能な都市菜園運動やそれと関連する活動を支援する多くのプロジェクトを実行することにつながった。

　私が訪ねた２つのプロジェクトは、結びついていたが、コミュニティでのリサイクル計画と学校菜園と教育プロジェクトだった。家庭や公共の場からリサイクル・バケットを、バイクとトレーラーを持った二人の収集人が集め、施設に運ばれる。原料はホテルからも来る。そして、金属とガラスは分別され、有機資源が堆肥化される。完成した堆肥は、学校菜園で使われる。計画には五つの学校が加わっている。すべてのクラス、首都公園では、公園の機関が環境問題の授業を担当しているのだが、その中心部にある特殊学校も定期的に参加している。

　財団が実施しているそれ以外のプロジェクトは、パーマカルチャー・コース、都市のあらゆる場所でのデモンストレーション菜園の開発、コミュニティ堆肥とパティオと屋上菜園である。

■食料保存プロジェクト

　暑さ湿気で夏の数か月は新鮮な食物を得ることが、多くの場合、困難だ。栽培されるのは、ほとんどが季節作物である。この食物保存プロジェクト(Proyecto Communitario: Conservación de Alimentos)は、ビルダ(Vilda)とペペ(Pepe)夫妻が産みだしたものだ。ビルダさんはイギリスのアバディーン(Aberdeen)にあるRowett研究所で農業を研究した経歴を持つ。過去数年、夫妻は、冷しく乾燥した冬の数か月の間に育てられた様々な果物や野菜をどう保存するかを人々に教えてきた。マリアナオ(Marianao)にある夫妻のセンターで、夫妻は、ジャーやボトルの中で100を越す様々な保存物やピクルス、日光で乾燥させた野菜とハーブのディスプレイを行っている。

　ビルダとペペ夫妻は毎週テレビ番組に出演しており、定期的に他州も訪れ、1999年にはセンターを月に20以上の団体、40もの様々な諸国から2500人が訪問した。

　夫妻はセンターの道路の反対側にある保育園でも菜園を作り、それは1999年に乾燥食物、香辛料とハーブ500㎏を生産した。これはちょうどそこの保育園の子どもたちやスタッフ、そして道を下った別の保育園の需要を満たすのに十分だ。220人の子どもやスタッフが必要とするハーブ、香辛料と薬用植物のすべてと、いくらかの食物も同じく提供されたのだ。

　夫妻が働いているまた別のプロジェクトは、ハバナの大再植林計画の一部だ。目標とするのは、1800万本の植林で、うち250万本が果樹となるだろう。それには、マリアナオ内の道路や通りに沿って果樹を植えることも含まれている。夫妻は、キューバの気候風土にふさわしい樹木を選び、珍しい外国種の実験や果樹の普及・栽培を行っている植物園の労働者グループとも協働している。

■将来

　ハバナの都市農業の実験はユニークなものではない。昔のリーダたちは、英国のビクトリー・ガーデンを想起することだろう。それ以外の都市でも最近は、そうした運動によって危機に対応している。キューバが違うのは、経済危機が去った後も、運動が衰えていないということだ。より正確に言えば、それは発展と繁栄を続けている。経済危機は、持続可能な食料生産を主張する者たちが、彼らのアイデアの価値を実証するための十分な時間と余地をもたらした。かつ、積極的にそれを支援するよう、町中や政治権力の中心で人々を説得するゆとりもあった。1996年には、化学資材に基づく農業が主流へと戻り、事態がいつ、どのように標準化されるのかという、変革の実用的な性質についての多くの話題もあった。だが、今は、それがないことは極めて確かに思える。

■農業

　農村でも同じ物語が見いだせる。例えば、1959年にはキューバでは約30万頭の牛が使われていた。機械化により、1990年には、これは10万頭以下まで減っていた。だが、10年後、その数は30万頭以上に回復し、いまだに増え続けている。家畜がトラクターよりもメリットがあることは、多くの状況下でも実証されている。「将来へ後退」というのが、一人のキューバの農学者がしたコメントだった。

　有機農業への支援の高まりは、持続可能なエネルギー、適正技術とコミュニティ開発といった関連領域への関心も広めた。デモンストレーションや実験センターが、キューバのいたる所で開かれ、移動図書館と普及スクールも設立されている。

　1999年には、キューバ有機農業グループは、有機農業を発展した功績として、ライト・ライブリーフッド賞(オルターナティブ・ノーベル賞とも呼ばれる)を受賞したが、それは有機農業が史上最も深刻な食料危機を克服する一助となり、有機農業が環境上の持続可能性と食料確保の双方の鍵であることを示したからだ。審査員たちは、キューバの食料システムの中心に有機農業をもたらした草の根のコミットメントと専門的な農業知識の典型的な組み合わせが有機農業グループの中にあることを認めている。

■キューバ有機支援グループ

　キューバの緑の革命とイギリスとの結びつきは、1990年代の中頃に始まった。ＨＤＲАは英国最大の有機菜園組織だが、彼らは、1996年前半にハバナの都市農業局のためにコンサルタントを行ったのだ。私のようなＨＤＲАの個人会員もそれに含まれるようになった。私は1996年の冬から春にかけ、オーストラリアのパーマカルチャー・プロジェクトとともに仕事をした。1997年にはＨＤＲАがエコツアーを組織する。その後、参加者やその他の関心を持った各個人が、キューバの取り組みを発表し、実践的な方法で彼らを支援する資金を調達する目的で、キューバ有機農業支援グループ(ＣＯＳＧ=Cuba Organic Support Group)を結成したのだ。

　以来、グループはキューバの様々なプロジェクトに道具と役に立つ文献を送っている。二回目のエコツアーが、1998年にキューバ有機農業支援グループのメンバーによって組織され、その後2000年の1月に、ガーデニング・ブリゲードがハバナへと出発した。参加者は様々なプロジェクトで働いたが、最も重要なのは、プラザ・デ・ラ・レボルシオン(Plaza de la Revolucion)近くの保育園用に新しく菜園を創設することだった。私は数週間後にその場所を訪れ、イギリスの菜園家たちが奇跡を起こすとの評判を獲得していることを見出した。以前のごみ溜めが、今は整然として生産地となっている。行われたことにインスパイアーされ、学校の子どもたち、教師、そして地元住民は菜園を発展させ続けている。