2000年3月15日


 世界で最も偉大なる有機農業の実験が、今まさに進行中だ。食べ物を口にするものであれば、誰もがそれを知るべきである。キューバは、ラジカルな農業・経済革命を進めている。有機農法を用いて、その食料生産を劇的に増加させることを追求している。

 ソ連からの化学合成農薬、化学肥料、農業機材に依存してきたキューバの農業は、ごく最近までは、ラテンアメリカのスター選手だった。化学肥料で養分をまかなう大規模なモノカルチャー、中部カリフォルニア式の農業だった。だが、工業化された資本集約型の農業は、1989年にソ連が崩壊したときに悲鳴をあげて休止することになる。キューバは、石油を含め、食料や農業輸入物と、その外国との貿易量の85%を失った。すでに米国の経済封鎖で不自由を強いられていたキューバは、経済的に破壊され、食料供給が最大の打撃となったのだ。

 キューバが対応したのは、輸入に依存せず、慣行の化学農業よりもはるかに低コストのオルターナティブな有機農業を行うことだった。政府は食料生産を優先するように方向転換し、科学者たちの集団は有機の実践に専念しだし、市民たちは都市農業に動員された。食料にとって生命線となる資源だったからだ。

 アマンダ・リエックス(Amanda Rieux)さんは、サンフランシスコの都市菜園者同盟、スラグ(San Francisco League of Urban Gardeners)(注)のインストラクターで、堆肥づくりプログラムの教育者だが、フード・ファーストが行ったキューバへの持続可能な農業派遣団のの旅からちょうど戻ったところだ。リエックスさんにとっては、国家規模で有機農業がなされていることを目にする機会であり、誰にとっても意味あることにふれる機会でもあった。

「米国で私がやっている仕事は、ほんの片隅のことですし、いまだに有機農業は普通ではなく、標準とはかけ離れたものだとの認識がされています。政府全体が持続可能な農業を支援する努力をしている地にいることはエキサイティングなことでした」。

 ちなみに、持続的農業とは、自然生態系の循環の中で、天然資源だけを用いて、菜園者によって行われる総合的なシステムのことをいう。

 小規模な都市農場が高い生産力を持ち、持続可能でかつ、所得源にもなるという考えは、元気がでる。キューバは、それが可能で、それが起こりうることを実証しているのだ。

 農村部から食料を輸送・冷蔵・貯蔵する燃料が限られる中、農産物が都市へと運ばれたが、いま、キューバには、世界でも最も成功した都市農業プログラムがある。政府は駆け出しの都市農民たちに未利用地が手に入るようにし、何千もの空き地が有機のオアシスへと転換している。

 ハバナだけで8,000もの有機菜園があり、年間100万トンもの生産をあげている。菜園の大きさは、数平方メートル四方から数ヘクタールに及び、都市農業では、レタス、パクチョイ、ブロッコリ、タマネギ、チャード、ダイコン、トマト、キャベツ、ブロッコリーが優先的に栽培されている。菜園の大きさに応じて、一人から七十名が働き、ありとあらゆる社会的階層から参加しているのだ。

「私が訪れたある菜園では、建設労働者と技術者と数学者がいました。こうした人々がすべて都市菜園で働いているのです。今では、電気技術者であるよりも、有機農家であるほうが、お金を稼げるのです」。そう、リエックスさんは語る。

 大学では、土壌の健全化や肥沃化を含めて、持続可能な有機農業の実践のために広範な研究が行われており、それを通じて、国は新しく都市菜園者となった人々を支援している。

 キューバの科学者集団も、天然の有機物や昆虫を用いた新機軸のバイオ肥料や農薬を開発中である。フード・ファーストの代表ピーター・ロゼット(Peter Rosset)氏によれば、キューバ国内には200以上のバイテクセンターがあり、地域の小規組織をベースに、最先端の無毒のバイオ肥料や農薬を生産、配布している。天然農薬やBT剤のようなバイオ的な病害虫管理は、米国でも行われているが、ロゼット氏は、この分野での研究資源の多さに着目し、キューバはそれ以外のどの国もかけ離していると語る。

 ハバナには、こうした新技術を導入し、新規の都市菜園者たちに教育し、支援を行うため、都市農業局が作られている。種子、手道具、ポット、生物農薬を販売するため、国営の小さな店舗も設立され、都市農民や菜園者たちにワークショップを行い、アドバイスする教育機関としても機能している。

「キューバは商業社会ではないのです。考えられないでしょう。何かを育てたいと思えば、金物屋にいって、種を買ったり、堆肥を自分で手に入れます。でも、キューバにはお店がなかったんです。国は都市農業を推進する上で、廉価な店舗を提供しなければなりませんでした」とリエックスさんは語る。

 キューバの菜園者たちは、ミミズ堆肥の使用といった伝統的な有機的な実践も取り入れている。ミミズから排出される糞が、生ゴミを豊かにするのだ。ミミズ堆肥はすぐに作れるし、普通の堆肥と比べて窒素分が多く、より早く作物にも吸収される。混作も重視されている。様々な作物が一緒に植えられ、モノカルチャー農業につきまとう害虫を抑えているこれは、近代的な工業的農業、害虫の痛手を被っていたトウモロコシや農薬に依存していたモノカルチャーからの大転換だ。菜園者たちは、収穫後に作物をきれいに取り払ってしまうかわりに、作物残さ(茎、蔓、その他)を圃場に残す土壌実験も行っている。豊かな土づくりのために、その上にはミミズ堆肥の層が加えられる。これは、伝統的な有機の発想だ。

 リエックスさんは、健全な生態系という点で、キューバの農民たちはとても賢いと語る。

「菜園に問題を見つけたときは、よく観察し、その生態系で何が問題を起こしているのかをチェックし、注意するのです。例えば、警告があったときには、作物を洗い、何が起こったのかを一日か二日間、見るのです。寄生虫が警告になっているのではないか。テントウ虫が示しているのではないか。何かがやってきて生態系の中で働いて、警告になっているのではないか。全体の生態系の中で働くものは与えられているはずだと。それは慣行的な農法が完全に払拭してきたことなのです」。

 都市農民たちは、キューバでの医薬品不足についても口にする。経済封鎖のダメージを受け、キューバは医薬品も、それを製造する原料も輸入できないのだ。キューバでは、アスピリンさえ希である。リエックスさんは多くの人々が都市菜園で薬草を育てているのを目にした。

「私は一人の男性が育てている美しい薬草園を見ました。彼は、オレガノ、マジョラム、レモングラス、セージ、チラ(鎮静作物の一種)、カモミール、カレンジュラ、アロエを作っていました。ハーブはお茶や染料に加工されています。30分の間に8、9人の消費者がいました。確実なビジネスになっているんです」。

 国は、都市での食料生産への関心を高める劇的な動機づけを必要としていた。そして、我々にとってそうであるように、キューバ人たちにとっても、まさに金が刺激となった。都市での有機転換を支援するため経済改革が実施され、価格は統制されなくなり、国は農民市場を創設し、農民から消費者への直販を認めたのだ。

 農民市場は、あらゆる都市菜園で生まれた。オルガノポニコとよばれる都市菜園は、従業員を雇う形で設立されているが、オーナーはメンバーと儲けた全利益をわかちあうことで協力している。消費者に農産物を直売することで、今では農民たちは、専門家の三倍も稼いでいる。技術者たちが鍬のために計算機を見捨る理由はあるわけだ。

 キューバが有機農業技術を進展させたことで、多くの都市では、住民が農民になるという、大きな文化シフトが起こっている。だが、もしキューバ経済が転換し、経済封鎖が取り止められた時には何が起こるのだろうか。今は有機的に栽培をしているものの、また化学農業に戻ってしまうのではあるまいか?。だが、リエックスさんは、そうではないという。

「菜園者たちの中には以前のやり方に戻るだろうと思っている人も何人かはいます。ですが、多くの人々は農場を有機のままに保つことでしょう。たとえ、経済封鎖がなくなったとしても、小規模農家は有機農業で、多くの所得をあげることでしょう。ちょっとしか化学資材を使わないからですし、もう知識を持っているのですから、化学薬品を買おうともしないでしょう。キューバ以外の世界で皆が食べている食べ物にとれば、もし、政府がそうしようと決意したら、持続可能で収益があがり、毒がない農業を強化できることをキューバの農業のエコ化は示しているのです」。

 持続可能な農業への転換でキューバは大成功をおさめている。リエックスさんは言う。「5年前に比べて人々はずっとよく食べられています」。そして、こうしたやり方が、経済的にも、社会的にも環境的にも価値があるとの理解もある。それは、キューバの人々にとって、力強い運動となっているのだ。

 キューバが飢えており、実験を本質的なこととして進んでやらなければならなかったことは認めよう。だが、我々が、化学合成農薬をさらに作物に散布したり、水を汚染したり、土壌を疲弊させているとき、この大規模な実験は、あらゆる人から着目されるべきではあるまいか。

(編集者注)すでに、スラグは存在していない。これひとつとっても、米国のNGOや有機農業の基盤がどれほど脆弱で参考にならないものかがよくわかると言えるだろう。

(スラグ(San Francisco League of Urban Gardeners)の2000年春号からの記事)
 Lisa Van Cleef,the big green experiment Cuba's Organic Revolution,2000.

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