2002年5月

コミュニティ菜園プロジェクト

■コミュニティー・パティオ・プロジェクト

 パーマカルチャーを活用することによって、中庭、バルコニー、屋上、庭先、テラスといった狭い場所で、食料や薬用植物、香辛料、観葉植物を生産し、都市農業を推進していく。これが、ハバナのコミュニティー・パティオ・プロジェクトである。パーマカルチャーは、野菜の具体的な栽培方法や菜園の設計方法、ライフスタイルを含め、様々な技術から成り立っている。既に蓄積された知識を活用するが、必要な場合には新技術を導入することもある。パーマカルチャーは、自然に反することなく、自然を真似たり、自然とともに働くという倫理や原理に基づく概念で、どうすれば暮らしを管理できるかを理解することに役立つ。そしてプロジェクトは、このパーマカルチャーのワークショップやコース、ミーティングを定期的に開催し、地区住民やその他のステークホールダーを対象に環境教育を実施し、地区の能力向上にも努めている。

■プロジェクト

 1997年6月、「自然と人間のためのアントニオ・ヌネス・ヒメネス(Antonio Nuñez Jiménez)財団」がパーマカルチャーの研修を行ったが、これに啓発され、プロジェクトは、実践的な数カ月のトレーニングも交え、1998年3月からスタートした。プロジェクトが目指すのは、コミュニティ・レベルで環境に対する意識を高め、パーマカルチャーの技術の重要性やメリットを住民たちに教えることである。また、都市内にエコロジカルな空間を創出し、菜園や緑地管理を支援し、関係組織や関係機関とを結びつけることで、住民の暮らしの質を高めることも目標としている。例えば、サルバドル・アジェンデ(Salvador Allende)病院の老人ホームにおける高齢者向けの作業療法もその活動の一環である。

 プロジェクト受益者は数多い。最初に、直接プロジェクトに参加したのは32世帯だが、その後、120世帯に診療サービスを行うファミリー・ドクター活動、保育園(círculo infantil)、2つの小学校、労働者たちのグループ、サルバドール・アジェンデ病院の高齢者たちが、それぞれの菜園とともにプロジェクトに加わった。若者から老人に至るまで940人もの住民が、計36の菜園が生み出す農産物の恩恵を受けている。グループは、コミュニティの主婦、高齢者、退職者、医師、専門家、コミュニティ・リーダー、子どもと若者から構成されており、女性参加がプロジェクトの鍵となっている。そして、プロジェクトは、オールド・ハバナのサン・イシドロ(San Isidro)、革命広場のカメロ(Carmelo)、サン・ミゲル・デル・パドロン(San Miguel del Padrón)のコレア(Corea)といった他の都市域にまで広まっている。

■メリット

 プロジェクトは、食料やその他の作物を生産し、環境教育の助けになっている。それ加えて、リサイクルを促進し、ゴミが再利用されているというメリットもある。生ゴミ等、各家庭から排出される有機廃棄物のかなりが、ミミズ農法や堆肥、家畜飼料として再利用できている。さらに、活動を通じて、種苗や菜園での経験をわかちあうことにより、プロジェクトの参加者の人間関係が改善している。そこで、新たに菜園を始めるにあたり、困難に直面している住民同士が助けあっているのである。また、プロジェクトは低所得のコミュニティ住民にも経済的なメリットをもたらす。薬用植物を生産したり、それらの正しい使用法を学ぶことで、参加者たちは心身ともに健康になっている。とりわけ、高齢者の病気の治療や予防に役立つ自然なオルターナティブを生み出すことにつながっている。そして、プロジェクトは、人々の食習慣の改善や希少種や絶滅危惧植物種の保全にも取り組んでいる。

■コミュニティ・パティオはどう創設するのか

  • まず、菜園を手にしている住民やコミュニティ・リーダー、組織リーダーを見出すために地区を観察する。
  • コミュニティの各メンバーにとって、そしてコミュニティの全住民にとって、いかにプロジェクトが役立つのかを説明する会合を組織する。
  • プロジェクトについてさらに詳しい説明を行うには、コミュニティ・メンバーと様々なワークショップを実施することもできる。
  • 前向きな成果を生み出し、コーディネート・グループへの信用を高めるため、活動は小さなものから始めよう。そうした活動には、菜園への支援や地元の学校での子どもとともにパーマカルチャーに取り組むグループの立ち上げ等を含む。
  • メンバーが、構成員の一員である自覚を高めるように、コーディネーター・グループに加入しないかどうか誘いかけてみよう。また、環境問題やパーマカルチャー、コミュニティでの環境問題の基礎調査を行なうようトレーニングを実施しよう。
  • 地区が抱える課題やチャンスを見出だすために、住民参加型の基礎調査を実施しよう。
  • この情報をベースに、家庭、学校、診療所、企業での有機菜園づくりを含め、地区の暮らしの質の向上につながる環境アクションプランを立て、このプロセスに乗り出そう。
  • プロジェクト活動の一部として、シンプルな技術を用いた食料の保存法や廃棄物を再利用するためにコンポストやミミズ堆肥の使用法についてのワークショップを開こう。また、地域に適したアイデアを探そう。簡単に飼育でき、蛋白質をたくさん含む肉を生み出す、アンデス原産の小動物、クイを飼育するよう働きかけよう。

 これらは闇雲に適用できるマニュアルではない。各地区はそれぞれ独自の動きをするかもしれない。プログラムをコーディネートするグループは、自分たちが思い描いたものとは違う方角へ進んでいくかもしれない。だが、コーディネート・グループの意思決定を尊重しよう。

(オランダのHP都市農業マガジン5月号からの記事)
  Justo Torres Lazo, Francisco Paz Barada,Community Backyard Farming in Cuba,2002.

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