2003年2月17日


「私たちは都市に住みながらも、その恩恵を得られるので、この仕事を楽しんでやっているんです。私たちは日々、土とふれあうようになっているんです」。ハバナの協同農業組合農場、ビヴェロ・オルガノポニコ・アラマル(Vivero Organobonico de Alamar)の代表、ミゲル氏はこう語る。アラマル農場は1999年にたった4人の労働者からスタートしたが、今では48人以上の労働者を抱え、ほぼ3.5ヘクタールの農地を耕やしている。そして、菜園に併設された直売所で、地域住民や学校に年間120トン以上の野菜を販売している。

 ミゲル氏によれば、郊外から都市へと搬入される農産物と比べ、野菜が生鮮であることから、農場は事実上、競争相手はないという。アラマル農場は、化学肥料も農薬も使わず、バイオ農薬、堆肥、ミミズ堆肥、有機物といった有機資材だけを使っている。だが、こうした方法によって、伝統的な農法よりも野菜収穫量を高めている。そして、この新鮮な有機農産物は、生産コストだけで生産できているのだ。それは、なぜなのだろうか。

アラマル農場

 1959年、カストロはキューバで共産主義革命を成功させた。農業改革法が可決され、富裕層や国外のプランテーション・オーナーたちが所有していた土地は国有化され、貧困層の間で分配された。これが、1960年以来、いまも続く米国の経済封鎖を招き、このため、キューバはソ連からの援助や輸入石油、輸入農産物に依存することになった。そして、開発途上国で広まった「緑の革命」の影響を受け、キューバは高度に機械化された化学農業を発展させ、全世界の4000万人のために輸出用の砂糖を生産してきた。だが、自給はできなかった。消費たんぱく質の57パーセント、消費カロリーの50パーセントを輸入食料が占めていたのだ。そして、1989年にソ連圏が崩壊すると、1年も経ずしてソ連からの援助は取り消されてしまう。輸入石油や農薬を失い、キューバは生きのびるため、持続可能な農業へと転換しなければならなかった。

 アラマル農場は、キューバ政府が1994年から導入を始めた広範な都市農業プログラムの一部である。いま、この都市農業プログラムは、64パーセントの女性や多くの若者、老人を含め、5万人以上の雇用を創出している。4万ヘクタールが耕作され、ハバナの市民に年間300万トン以上の野菜を供給している。このプログラムにより、空き地やゴミ捨て場、そして都市農業としての指定を受けた都市周囲の10キロ圏のグリーンベルト内で、何千もの小規模菜園を始める支援がはじまったのだ。

 政府は、都市菜園では、化学肥料や農薬の使用をすべて禁止する法律を可決している。こうした化学投入資材の入手が困難だったこともある。だが、農薬が人民の健康にとってふさわしくないとの認識が、このことを実行させたのだ。キューバ政府は、輸入量を削減し、食料自給率を高めるため、抜本的な対策を講じている。キューバの農業輸出品の53パーセントはサトウキビなのだが、国内の製糖工場の50〜70パーセント以上が、2003年には閉鎖され、その土地は野菜生産や持続可能な林業に振り向けられることになっている。

 1998年、アラマル農場の労働者たちは土地を見つけ、それを都市菜園に変えたいとの依頼を行った。政府は、彼らに土地を彼らに貸し与え、さらに農場の立ち上げ資金の支援や種子、苗、バイオ肥料、バイオ農薬を提供し、技術支援も行った。政府の検査官は、農場がよく管理されていると見ている。労働者たちは、協同組合から基本給を受け取るが、その後、自分たちの野菜販売益をわかちあう。給与は平均キューバのそれをはるかに越えている。

都市農業の変化を表現する壁画

「菜園は私たちのコミュニティに大きな影響を及ぼしました。最初は、自分たちのコミュニティが食料を確保するためのオルターナティブとしてスタートしたのですが、今では、よいビジネスになっているんです」。そうミゲル氏は語る。

 都市農業プログラムは、生産者と消費者との新たな関係を作り出し、キューバ内で野菜を食べるという消費文化を増やすことになった。以前は、野菜は、白米、黒豆、肉という典型的な料理の中で、ごくささやかな役割を果たしているにすぎなかった。この食事は、スペイン人によって奴隷としてキューバに連れてこられたり、移民農民として働いたり、砂糖、コーヒー、タバコ農場で働き、その後は、都会へ移住した、という長い歴史から生じたものだ。つまり、キューバ人たちは大地から切り離されていたのである。いま、キューバでは75パーセント以上の国民が都市地域に居住している。

 だが、政府は教育を通じて、都市と農村のそれぞれの最高のものを組みあわせている。たとえば、中学校の生徒たちは、全員がどう野菜を植えたり、育てたり、収穫するのかを農場で15日〜30日間を過ごすことで学ぶ。また、テレビ番組では、市民教育として、毎週様々な野菜の料理法が放映されている。医師が果物や野菜を処方すれば、教会のパンフレットも食生活を変えることを薦めている。そして、最近では、ベジタリアン・レストランもオープンした。持続可能な都市農業へ向けてのこの新たなバックアップは、食料自給を奨励し、野菜消費を増やし、雇用を創出し、キューバ全体の土や水や人民の健康を高めているのである。

(サンフラシスコ・ベイ・ヴューからの記事)
 Malaika Edwards, Sustainable Agriculture in Havana,2003.

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