2003年7月11日

キューバ第5回有機農業会議

 この写真を見ていただければわかるように、まさに実験室ではない。最先端のバイオ技術に基づく製品を、キューバの菜園者たちや農民たちは低コストで利用できている。昆虫の生物的防除用の微生物や捕食寄生有機体と同じく、窒素固定用や燐酸を可溶化するバイオ肥料、mycorrhysalな接種物、トリコデルマやバチルス菌のような病害虫コントロール接種物が利用可能となっているのだ。

 1989年にソ連から補助金が来なくなった後、米国の経済封鎖の強化とあいまって、キューバは痛めつけられ、人民は餓えた。化学投入資材、補助金付きの石油やソ連製の農業機械類に依存するキューバ農業の産出量は徐々に後退した。フィデル・カストロ率いるキューバは、彼らが「スペシャル・ピリオド」と呼ぶものに突入したのである。

 スペシャル・ピリオドでなされた政策のひとつは、ほぼ完全に地元産で、かつ、バイオに基づく食料生産システムを開発することだった。以来、キューバは世界の最も包括的で近代的な有機農業システムを開発し「果たして有機農業で世界を養えるか」という問いかけに答える一助となっている。

 ソ連からの補助金交付に依存した経済から切り離されるという事態に直面した時、キューバが、これまで30年間、その全人民に対する包括的な教育に重きをおいてきたことが、とっておきの切り札となった。キューバには人口ではラテンアメリカのたった2%しかいないのに、科学者では12%を占める。アグロエコロジーのあらゆる側面、すなわち、堆肥、微生物、接種、生物的防除、地力増進、アグロフォレストリーの研究がなされ、キューバの有機農産物生産に対する支援策は、政府のトップにまで及んでいる。

 いま、キューバの全農場が、アグロエコロジー的な手法に基づいている。すなわち、植物と植物、植物と動物、植物と微生物とが協働し、エコロジー的なバランスが取れた、ほ場内での生物多様性に基づき、地力の基礎として有機物を使うやり方を用いている。研究や普及には農民が多く参加しており、生物的防除で使われている寄生スズメバチの培養のように、開発された技術は、農民に利用でき、人民に身近なものとなっている。

 また、インセンティブをもたらすため、土地所有と食料流通システムで構造改革がなされた。食料価格は比較的高く設定され、農民たちは稼ぎに稼ぎ、非常な高所得を得ている。今、キューバでは、農民たちが最も裕福な人々のひとつとなっているのだ。 2003年5月、ハバナで開催された第5回有機農業会議は、有機農業やエコロジー農業の研究、普及、教育でキューバがなしえた進歩を特色としていた。会議には主に4つの議題があった。

  1. 有機農業技術

  2. 天然資源の保全とマネジメント

  3. 有機農業のエコロジー、経済としての社会的様相

  4. 農民参加型の研究、普及、トレーニング

 会議には、二つの代表団に属する数十人の米国人たちがいた。ひとつの代表団は、食料と開発政策の研究所フード・ファーストのピーター・ロゼットに率いられたものだ。私は、ピーター氏にこの会議で何を求めているのかをたずねてみた。

「私にとても印象づけられたことは、1990年代初期の困難な時期以来、農業や食料生産でキューバが著しく進展していることです。例えば、ハバナの食料供給の約90%はハバナ市内やその近郊で生産されています。それは著しい達成です」。

 会議にはいくつかのハイライトがある。

■ニームVS害虫

 25科の約40種の植物が、様々な病害虫防除の可能性を持つとして、キューバの研究者たちによって識別されている。現在、最も活発に使用されているのが、ニーム(Azedirachta indica)である。キューバは現在100万本のニームの樹木を擁しており、作物の害虫管理と家畜寄生虫駆除のために、人間には安全なニームの殺虫成分(azadirachtin)の抽出物が使用されている。ニームでは、25種以上の昆虫、ダニ、ネマトーダが管理されており、年間に200トンの製造力を持つ4ヶ所のニーム加工場が建造されている。ニームは簡単な技術で、栽培や農場で使え、そのやり方は普及サービスが支援している。種子をただ粉に挽いて、次に水1リットル当たり25gのパウダーを混合し、ヘクタール当たり300~600リットルが適用される。

 バイオ的な防除で使われているそれ以外の種にはSolanum mammosum とマリーゴールド(Tagetes patula)である。プランテーションと処理加工センターがこれらの植物用に開発されている。

害虫天敵の培養

 ほぼ300のCREE(EntomophagesとEntomopathogens生産センター)が開発されている。このセンターが、害虫防除に使われる生物的防除有機体、寄生スズメバチトリコグランマ(Trichogramma)やEncarsiaを含む1ダースほどの昆虫類やバチルス菌(Bacillus thuringiensis)、ボーヴァリア菌(Beauvaria bassiana)、黒きょう菌(Metarhizium anisopliae)、バーティシリウム菌(Verticillium lecanii)、トリコデルマ菌(Trichoderma harzianum)、(Paecilomyces lilacinus)を培養している。

■間作の発展

 バイオ農薬や天敵の生産・使用に加え、培養物、抵抗性作物の種類開発研究、そして合成化学コントロールもキューバでは強く支援されている。とりわけ、間作は興味もたれるところである。一般的な間作は、トウモロコシ、ツルナシインゲン、トマトやエンドウマメとキャッサバ。ピーナッツ、ツルナシインゲン、サツマイモとあわせてトウモロコシ、そして、豆、ピーナッツあるいは数種の野菜とバナナとなっている。複合耕作によって栽培される野菜には数種類がある。最良土地等価比率(LER)とは、単一作物と比較した複合耕作の経済的な産出量の増加を測定するものだが、キュウリ/ハツカダイコン、豆/ハツカダイコン、キャッサバ/トマト/トウモロコシが高い数値をあげている。

ミミズ堆肥(Vermicompost)50万トン以上のミミズ糞がキューバ農業では毎年使用されている。キューバと米国からの双方の報告書によれば、ミミズ糞は、ふつうの堆肥よりも格段に作物に有益な特性を持っている。

■「マルチ・プロウ」の導入

 国際会議で、米国からの招待者の間で最も話題になったプレゼンテーションのひとつは、家畜を放牧させるにあたり使われる調整可能なマルチ・プロウを開発した農民のそれだった。「マルチ・プロウ」は、耕起、ハロー、溝きり、耕作に使用でき、播種、被覆、畝立て、そして他の操作にも適応できる。キューバには50万頭の耕牛と25万頭以上の耕馬がいるが、小規模な個人農家の約80%は耕作に家畜を使用している。家畜牽引式の農業は1989年に、石油の補助とソ連製トラクターが失われた後、スペシャル・ピリオドの戦略として促進されている。1990~1997年にかけ、キューバの家畜牽引道具数は160,000から375,000まで増え、鍛冶屋の数も500~2,800まで増えた。こうした家畜からの厩肥は作物用の堆肥原料となっている。

■窒素固定バクテリア

 キューバの土壌から分離された自由な窒素固定力のあるバクテリア、アゾトバクター(Azotobacter chroococcum)は、作物に窒素を供給するため、広範囲に使用されている。土1g当たり10*8CFUで適用され、作物の窒素需要の50%以内は、この有機体で供給されると研究者は語っている。同じく、オーキシン、cytokinenとジベレリンといった生物活発物質も供給されている。研究からは、処理したトマトの土壌では、実生苗の存続が30~40%よくなり、実生苗の高さが30%高くなり、20%以上多くの葉があり、40%茎の直径が太く、そして52%多くのバイオマスがあり、全体では25%収量が高まったことが示されている。

■化学薬品への依存度の削減

 キューバのトウモロコシの68%、キャッサバの96%、コーヒーの72%、バナナの40%は、化学薬品が使用されていない。1998年から2001年にかけ、化学薬品は、ジャガイモで60%、トマトで89%、タマネギで28%、タバコで43%削減された。

■都市農業の高まり

 都市農業では、キューバ人たちがオルガノポニコと呼ぶ中で、市場向け菜園作物が集約的に栽培されている。それは、急成長をしており、キューバ農業の最も著しい発展が見られるひとつとなっている。オルガノポニコは、都市住民に1日当たり平均215gの野菜を供給している。その産出量は、1994年から1999年で、一平方メーター当たり4㎏から24㎏と5倍以上となり、現在、年間に約100万トンの食料がオルガノポニコで生産されている。

トップからの支援

 私は、フード・ファーストの代表団の内で一グループをなしていた、ワシントン州立大学の農業・天然資源保全センターの所長、クリス・フェイセ(Chris Feise)博士に会議の印象を尋ねてみた。

「私に印象的だったのは、キューバの科学者や普及員が、有機的で持続可能な農業の研究を行うために、政府のトップから一貫して支援を受けていることです。米国では、大学と政府のあらゆるレベルでの慣行農業のバイアスのために、土地を寄付する大学システムでは、有機農業での研究をするには、常に、後ろに引っ張られる行為と戦っています。これが我々の研究生産力を大きく引き下げているのです」。

■会議で報告された様々な研究

  • きのこ生産と同様に多くの作物での糸状菌のバイオコントロールとして、 バクテリアシュードモナス(Pseudomonas aeruginosa)の利用
  • ミミズ堆肥の投入は植物の生長や活力を刺激する。カリフォルニア・レッド・ウォーム(Eisenia foetida)が、キューバのミミズ農法では使われている。年間、キューバ農業では、50万トン以上のミミズ堆肥が使用されている。
  • マツのflorido植物(Gliricidia sepium)の抽出物は、単子葉植物に対する除草剤として有効である。
  • 線虫駆除のバクテリア、Corynebacterium paurometobolumは、根こぶ線虫 Meloidogyne incognitaをコントロールする。
  • 熱帯地方では一般的だが、土壌で燐が乏しい地域では、リン可溶性バクテリアPseudomonas fluorescensを接種することで、リン肥料を75%まで減らせることが示された。
  • ミコリザの組みあわせとバクテリアの接種物(グロムス種類とシュードモナス種は、作物成長を刺激し、単一などの接種物よりも、産出量を高める。
  • 地虫(根菜類を食し、破壊する土にすむ様々な幼虫種)の防除については、entomopathicな線虫Steinernema、HeterohabditisとMetarhiziumをペアで組みあわせて適用するとき、こうした害虫用に一般に使われる農薬と同様の働きをした。
  • 中国からの窒素固定緑肥作物セスバニアからの抽出物は、殺虫効果があり、コメの主な害虫をコントロールする。さらに、そのアレロパシー活性のためにある作物の雑草管理にも有効である。
  • DigitariaとPiperの抽出物がバクテリアの病原体のコントロールのために使用されている。
(米国のロデール研究所のHP,ニュー・ファーマーの記事)
  Don Lotter,Cuba's 5th conference on organic agriculture features the fruits of a decade-long focus on organic,2003.

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