2005年

キューバのカンペシーノ運動

 ほぼこの30年間というもの、カンペシーノ運動(Campesino a campesino)は、ラテンアメリカでの持続可能な農業開発の最先端にある農民主導の運動となっている。カンペシーノ運動は、ひとつ以上のプログラムやプロジェクトで、アグロエコロジーの知識を創り出す農民たちの社会的能力を構築することによって、持続可能な農業を広めている。カンペシーノ運動は、農民の革新と連帯の「脚」で歩き、片手には「食料生産」、そしてもう片方の手には「環境保護」を持ち、働いている。そして、運動には、土地、家族、コミュニティを愛し、持続可能な未来へのビジョンをわかちあうための「目」と「声」を持つという「心臓」がある。

 カンペシーノ運動の原則は、農民たちが周知していることのうえに立脚し、農業開発の中心に人民をすえるアプローチで構築されている。

  • 直ちにその結果を認識すること
  • 小さくはじめ、ゆっくりやること
  • 複合的な効果を生み出すこと
  • 小規模な実験をやること
  • 技術導入を制限すること

 カンペシーノ運動は、草の根で持続的農業を広めながら、大いに成功をおさめている。何十万人ものラテンアメリカの小規模な自作農たちが、浸食された土壌を修復し、生産性を上げ、暮らしを改善している。NGOや農民組織の技術的支援や後方支援を受け、カンペシーノ運動のプロモーターたちは、公式の農業研究センターが失敗したところでも成功をおさめている。そして、持続的農業の開発を分権化し、民主化もしている。

 とはいえ、カンペシーノ運動の農場は、慣行農業の「海」の中に浮かぶ持続可能な「島」にすぎない。持続可能な農業は、ラテンアメリカでは標準でとはなってはおらず、アグロエコロジーも主流の研究テーマに大きな影響を及ぼしてはいない。持続的農業がとてもすばらしいものであるならば、なぜ、すべての農民たちがそれをやらないのだろうか?。何が持続可能な農業の開発を抑制しているのだろうか?。キューバからの以下の経験は、カンペシーノ運動が、アグロエコロジーとカンペシーノが動かす開発を促進する政策の文脈で、使われるとき、農民たちや彼らの組織が、持続的農業を例外的なものではなく、急速に標準的なものにすることを示唆する。

「長い間、キューバの農業開発では、機械化と技術的な集約化が生産と収量を高める最も重要なファクターであると考えられ、大規模な生産に向かうことを最優先していました。結果として、農民たちの外部投入資材への依存度が高まり、生物多様性が損失し、食料安全保障も減少したのです。さらに、国は1990年代前半に始まる深刻な経済制限に直面していました。投入資材、燃料、その他の生産要素が減少し、キューバ人民に必要な食物量のポテンシャルや必要な農業生産力に到達することを妨げ、キューバ農業に影響を及ぼしたのです」

ANAP(全国小農協会) (Perera, 2002)

■カンペシーノ・アグロエコロジー運動

 キューバのカンペシーノ運動は、はじめは首都ハバナの周囲のグリーンベルトで、都市農業グループとともに始まった。1995年、ANAPを含めたいくつかの組織が、土壌と水の保全ワークショップに参加したが、そこには、12人のハバナの都市農民もいた。その後、2人の農民と技術者が新知識を実行に移す。1996年8月、農業と食料の危機が進む中、農民は隣人たちのため、キューバ初のカンペシーノ運動のワークショップを開催するのである。

 ドイツのNGO、キリスト教系の援助団体、「世界にパンを(Bread for The World)」がこのカンペシーノ運動を支援し、農業普及員、ルイス・サンチェス(Luis Sánchez)氏や教会委員会からの他の普及員たちが、それ以外の農業普及員や農業省の研究者たちに、カンペシーノ運動の方法論を教えることを支援した。だが、ルイス・サンチェス氏は、それが困難な始めであったことを認める。

 「私たちは『結成』のためのプロセスを開発し始めました。ですが、初めは彼らは抵抗したのです。彼らには理解できませんでした。技術者たちは、訓練を受けていないことはやりたがりませんでした。『ニカラグアやグアテマラでは機能しているのかもしれないが、キューバでもうまく働くというわけではない!』。彼らはそう口にしたのです。ですが、その後、彼らは、間違っていたことを公式に認めました。専門家たちは、プロモーターと協働する方がはるかに生産的であることをわかったのです。適用範囲は広まりました。そして、カンペシーノのプロモーターは普及員たちの腕であったのではありません。そうではないのです。普及員たちは、カンペシーノの自己プロセスをサポートしました。彼らはそれで、彼らを助けたのです。普及員たちは、自分たち自身のものの見方を変えていきました」

 その時、キューバはまさに危機的時期にあり、都市経済はどん底で状況は複雑だった。他の人民を助けるという犠牲的精神を除き、他には何もなかったため、これはさらに貴重だった。 1996年の11月には引き続きワークショップが始まり、学んだことを実行に移すために、農民たちには3カ月がそれが行われた。

 そして、次には、さらに多くのカンペシーノ運動のワークショップが全ムニシピオで組織化された。そこに参加した者の多くは、政府のムニシピオにある農業委員会で働いていた技術者たちだった。1年後には、グループは600人以上の都市農民をトレーニングする。オルターナティブなアグロエコロジーが必要とされ、大規模であり、かつとても活発であるANAPが存在したおかげで、カンペシーノ運動はキューバで非常に急速に育っていった。

 ANAPは、アグロエコロジーを発展させるため、直ちにカンペシーノ運動を全国プログラムに広げていく。団体は、50の農村ラジオ番組を通じてカンペシーノ運動を促進し、国、州、ムニシピオの事務所に運動の資料を配布した。 新たに吹き替えされた「カンペシーノ・アグロエコロジー運動」が、カンペシーノのプロモーターやANAPの専門家を通じて、協働組合へのサービスや生産者とを結び付けるシステムを通してANAPの全国組織体制の中に統合化された。そして、プログラムは、伝統的なアグロエコロジーの実践の回復、新技術の確認や適用、そして、農民から農民へのわかちあいに焦点を合わせた(álvarez in Perera, 2002)。

 2000年には、ANAPは、サンタ・クララ州のビジャ・クララで最初のカンペシーノ・プロモーターの全国集会を開催する。このANAPのプロモーターのための社会的なベースはその協同組合や個別生産者のメンバーからもたらされた。

「プロジェクトでの新たな経験を通して、ANAPはカンペシーノ運動の方法論を使うことで、アグロエコロジー運動を創設しました。初めは、私たちはいくつかのNGOから助けられましたが、ANAPはそれ自身の組織構造を活用しました。そのコアに知識を広め、すべてのカンペシーノを結びつける可能性がもたらされました。私どもには、持続可能な実践を最もよく実施した各協同組合やカンペシーノのプロモーターのファシリテーターとともに働く、国、州、そして、ムニシピオのコーディネータのネットワークがあります。私どもはこうしたプロモーターとさらに協働し、私どもがアグロエコロジーをサービスをした人たちの助けを受け、さらに多くのカンペシーノたちがプロモーターの後に続いたのです」

ANAP・ミゲル・ドミンゲス(Miguel Dominquez)

■食料安全保障から食料主権まで:キューバのアグロエコロジーの転換

 キューバのカンペシーノ運動は短い歳月で、3万人以上の小規模な自作農からなる運動にまで成長していった。この規模に成長するまで、メキシコや中米の運動は20年がかかっている。一体、どこに違いがあったのだろうか?。スペシャル・ピリオドという常軌を逸した状態が、持続的農業を最先端にしたことは明らかである。そして、運動を急速に普及させるうえでは、ANAPの組織力も重要な役割を果たした。それ以外の重要な要素としては、キューバの小規模自作農が、それ以外の開発途上地域と比べて、比較的高い水準の教育や優れたヘルスケアを享受していることがある。安全が確保されているため、キューバのカンペシーノたちは生産的なのである。

 そして、キューバの農業技術の能力は極めて高いだけではなく、公正に分権化もされている。農学者や技術者は、広範囲におり、農村の多くの協同組合と直接、かつ幅広く協働している。時代が、バイオ肥料や統合病害虫管理、その他のアグロエコロジー的なアプローチに主力を注ぐようになったとき、彼らはすぐに、それをその位置に戻した。

 そして、キューバの農業技術力を地方分権化したことで、研究を各生態系特有のアグロエコロジーの課題に向け、農法を適合させることが可能となった。持続的農業へのアグロエコロジーのアプローチはキューバに大きなメリットをもたらす。

 そして、土地利用権が安定しており、カンペシーノに市場が保証されていることの重要性も過小評価できない。キューバ政府は、人民が土地で働くよう多くのインセンティブを提供したが、その最も重要なことは農業改革と複合(民間と国)市場システムだった。小規模な自作農たちは、土地、融資、そして市場を容易に利用できているのである。例えば、生産者たちは、自分たちの地元の果物や野菜直売所で農産物を売れるし、協同組合を通しても売れるし、直接、国に売ることもできる。そして、どんな生産者も、国が購入する農産物価格以下では売る必要がない。そこで、この価格は、農産物の最低価格として役立っている。キューバ経済の多くがまだ苦境に陥っているものの、小規模農業は花開いており、小規模な自作農は比較的うまくいっている。

■食料主権とキューバのカンペシーノ

 持続的農業だけではなく、キューバでのダイナミックな社会的な主体としてのカンペシーノにとって、多くの要素が好ましい政策に反映された。小規模な自作農セクターは、創造的で社会的なエネルギーは、広く奥深い。機会を与えられ、彼らは生産的であるだけではなく、アグロエコロジー的に革新的でもある。一体何がこの政策を突き動かしているのだろうか?。それには、カンペシーノ集会でのANAPの会長による以下のスピーチが質問への答えの一助となっている。

「このテーマ、アグロエコロジーは人類にとり、とても重要なものです。ですが、キューバにとっては、それがもっと重要であると私は申し上げたいのです。私どもはここでとても重要な二つのテーマについて話しあいました。農業の持続性と食料安全保障です。ですが、キューバにとっては、そして、キューバ革命にとっては、農業の持続性と食料安全保障、そして、この二つをあわせたものが、国家主権と国家安全保障と同じものであると申し上げたいのです。

 キューバは経済封鎖を受けている世界で唯一の国であります。世界のそれ以外のどのような国も、キューバのような封鎖には抵抗しておりません。日々、新たな手段が講じられています。そして、私どもは、この残酷さに打ち勝ち、我々の尊厳を保とうとしているのです。私どもキューバ人は抵抗します。 日々、私どもは食料安全保障を堅持しています。農村こそが、人民のセキュリティの基盤です。私どもは国家安全保障を持つため、農村を再建するために働いているのです。農村で男女が汗を流し、牛耕で働いているように、私どもは既に、有機質肥料やバイオ農薬を使い、持続的農業に向けて取り組んでいますが、こうした生産者にセキュリティを与えることが、我々のカンペシーノや我々の生産者とともに働くことなのです。これがキューバ農業の未来でなければなりません!。

 戦時下でも、平和時でも、最も良き道はアグロエコロジーの道であります。良い意味で、私どもはこの道はまだ遠く、まだ歩いていないと申し上げたいと思います。

 1994年以来、私どもは、私どものパートナー組織である「世界のためのパン」とともに、ビジャ・クララにおいてカンペシーノ運動の方法論から始めたプロジェクトで協働しております。そして、それが持続的農業の仕事において着実に前進する方法論であることから、私どもはこの道を続けていくつもりでおります。

 他国においては、農民たちは、自分たちの穀物を格納しなければなりません。なぜならば、市場を見いだせなかったり、農産物価格が低過ぎるからであります。ですが、キューバにおいては、カンペシーノは生産物の市場を100%保証されています。そして、経済的活力を彼らにもたらす全うにして安全な価格がある。キューバのカンペシーノは、後で売るために何かを残す必要がありません。これこそが、農業の持続性であります!。カンペシーノは、自分たちの種子や自分たちが食料として必要とするものを残すことができるです。そして、これこそが、農業の持続性と国家安全保障であります。

 もし、いつの日にか、誰かに言わなければならないとしたら、私は国家防衛のために、都市から農村へいけと申し上げたい。なぜなら、自分自身の家族のために食料を生産し、助ける誰かのための食料を生産しているのは、カンペシーノだからであります。これこそが、国家安全保障であり、食料安全保障であります」

■結論

 カンペシーノ運動については、既に多くが記述されている。そして、そのほとんどは、改革や普及のための運動の水平の方法論を指摘している。持続的農業のためのアグロエコロジー技術に重点を置くものもある。キューバでの運動には、この点でわかちあうべき多くの学びがある。

 キューバは持続可能な農業の開発で、構造的な学びを提供している。もし、農民たちが動かす持続可能な農業の開発が高まっても、収量が安定せず、天然資源が保全されず、暮らしが改善されなければ、どうなるのだろうか?。こうした状態はすべて必要ではあるものの、それだけでは十分ではない。持続的農業が例外ではなく標準となるように、小規模農家を支援する農政の変革や農業へのアグロエコロジカルなアプローチが、それに伴わなければならない。持続性のプロセスが持続するには、食料主権の概念が決定的である。これは、持続可能な農業の開発が単に方法論だけでなく、社会変革も必要とすることをほのめかす。

 カンペシーノ運動は、持続可能な農業の開発の運動で、農民組織とNGOにより20年間以上技術的、後方支援的に支援されてきた。このパートナーシップが、慣行農業に対し、多くの実行可能なアグロエコロジー的なオルターナティブを生み出すことができる広範な社会ベースを作り出してきた。カンペシーノ運動がオルターナティブな政策を生み出せない理由は全くない。

 カンペシーノ運動はとても広範で、国と同様に国際的な市民社会組織からの支援を受けているため、農民主導型の持続的な農業にとり有効な農政を実施するため、政府や政府内部の意思決定者に政治意志を創り出す可能性がある。その効果は劇的であろう。まさに、キューバを見るがいい。

引用文献

Perera, A. 2002. Evaluación de la Metodología "De Campesino a Campesino" Utilizada para la Promoción de la Agricultura Agroecológica. Centro de Estudios de Agricultura Sostenible. La Habana, Universidad Agraria de la Habana: 95.

(カナダのPARTICIPATORY RESEARCH AND DEVELOPMENT FOR SUSTAINABLE AGRICULTURE AND NATURAL RESOURCE MANAGEMENT: A SOURCEBOOK Volume 2からの記事)
  Eric Holt-Gimenez,Campesino a Campesino in Cuba: Agrarian Transformation for Food Sovereignty,2005.

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