1996年10月

キューバの「太陽」

 カリブ海の小さな島キューバは、フロリダの沖合い沖から90マイル(145㎞)離れただけだが、何十年も続く米国からの攻撃に対して奇跡的に生き残ってきた。そして、キューバは生き残っただけではなく、持続可能な道で発展するというその決意において「第三世界」の状況から抜け出しているのだ。キューバへの「リアリティ・ツアー」を組織するNPO、グローバル・イクスチェンジ(GlobalExchange)とともに、私はキューバへと出かけた。

 ツアーは、キューバのNPO、クーバ・ソラールが組織する太陽エネルギー国際会議と一致していた。私は中米で数多くのソーラーエネルギー・プロジェクトで働いてきた。だから、自分の再生可能エネルギー技術がキューバでも使えるだろうと思って出かけたのだ。だが、それは誤りだった。私は、この1100万人の国の人々が一番最後に必要とすることが、技術協力であるということがすぐにわかったのだ。経済危機と米国による経済封鎖に苦闘する中、キューバ人たちは私がこれまでに想像したであろうどんなことよりも、はるかに進展していたのだ。

■キューバのエネルギー史

 1960年までは、キューバの電力は石油の火力発電にに基づき、ほとんどが大都会や観光地用のものだった。ほとんどの農村には電気がなく、全農村が800MWでかろうじてやりくりしていた。1959年の革命は、農村の電化の大きな推進力につながった。1989年までに3000MW以上の電力で、国土の96%が電化されたのだ。だが、その石油のほとんどをキューバは社会主義圏から廉価で輸入していた。

 1989年の社会主義圏の倒壊によって、キューバは国際市場から石油を購入することができなくなってしまう。世帯用には年間400万トンの石油が使われていたが、これを200万トンまで削減しなければならなかった。エネルギー使用を50%削減するという必要性が、エネルギー計画の大胆な改革や再生可能エネルギーの大がかりな推進へとつながったのだ。

■甘いエネルギー

 キューバの再生可能エネルギー計画の核となるのは砂糖だ。サトウキビは、キューバの主な輸出作物で、キューバのエネルギー需要のほぼ30%を供給している。茎が収穫されたあと、残渣(バガス)が、砂糖精製プラントの動力用に使われ、余った電力は送電線に戻して売電されているのだ。キューバには156の製糖工場があり、各々がバガストンあたり、20~80KWhの電力を生み出している。そして、葉や茎といった廃棄物もプレスされ、固形燃料として使われている。

■河川からのエネルギー

水力発電で電化されたグァマの山村集落

 キューバで二番目に重要な再生可能エネルギー資源は、小規模な水力だ。キューバは大河川には恵まれていないが、小河川はたくさんある。これは、発電にとって大きなメリットであることはわかるだろう。私たちがやっているように巨大ダムを建設し、大規模な破壊を行う機会はキューバ人たちにはなかったが、220以上もの小規模水力システムを導入し、3万人に電気供給をしているのだ。1996年現在、年間8080GWhで、55MWを水力から生み出している。

グァマの30kWの水力発電

 送電線がない辺境の地に電気を提供するために使われるシステムもあれば、送電線に電気を戻し、売電するために使われているシステムもある。システムは8KWから最高500KWまで及んでいる。私たちはグァマ(Guama)という町を訪ねた。ガァマがある州には30もの小規模な水力発電所があるが、その町には30KWのシステムがあり、56戸に居住する250人に電気を供給していた。各戸の使用電力は100Wまでに制限されており、コミュニティ全体ではたった10KWを使っているだけだ。

 彼らは余剰電力を、この町から4㎞離れいまだに送電線と接続されていない隣町に送りたいと望んでいる。4人がシステムを運営しており、各人は日に6時間働いている。彼らは、水力システムからの出力がコミュニティ需要を満たしていると確信している。町の住民は4名のオペレーターの給料分の安い電気料金を支払う必要があるだけだ。

■キューバの「太陽」

ソーラーで電化されたマグダレナ

 私たちは、マグダレナ(Magdalena)と呼ばれる美しい山間の町を訪れる機会も持った。マグダレナは、国の送電線からは離れた場所にあるが、太陽光発電により完全に電化されている。コミュニティの人口は574人だ。コンパクトな蛍光灯、ラジオやテレビを動かすため、各家には70ワットの太陽光発電システムがある。各戸の照明時間は、日あたり18時間だ。町の通りには11ワットの太陽光発電灯が並んでいる。そして、コミュニティ全体用に日あたり30,000ガロンの水をポンプで汲み揚げる3キロワットの太陽光発電のポンプもある。コミュニティ・センターにはエアコンを動かすインバーターがあり、医師の診療室には太陽光発電で動くワクチン冷蔵用の大きな8つのパネル・システムもある。

マグダレナの3KWのソーラー揚水ポンプシステム

 キューバ全体では、295軒の太陽光発電で電化された農村住宅、ピークでも平均で各々2500Wの三つのコミュニティ・システム、50以上の太陽光発電で電化された医院がある。彼らは、自分たちで充電コントローラを製造し、正弦波インバーターを開発し、輸入セルからモジュールを組み立てている。そして、自分たちで太陽電池を製造することを望んでいる。

 太陽光発電システムに関する問題のほとんどは、キューバの熱帯気候条件と関連がある。導入された設備の大半が、熱帯条件向けには設計されていなかったのだ。そこで、サンティアゴ・デ・クーバにあるソーラー・エネルギー研究センター(CIES)には、熱帯気候の中でソーラー器材の性能をテストするための調査研究室がある。彼らは、ラテンアメリカやカリブ地域全体の熱帯太陽光発電研究のための研究や情報センターの中心となることを望んでいる。

■「冷やす」温室

 キューバの猛烈な暑さは、農業にはいくらか問題である。私たちは冬に夏の作物を栽培できるように温室を作るが、同じようにキューバ人たちは夏に冬の作物を育てられるように、逆の温室を考案しているのだ。逆の温室は、平らなガラス屋根が付いた小さな部屋だ。屋根の上には水の層があり、それが入ってくる赤外線放射をカットするするだ。水には赤外線放射を遮断するための正確な色が付けられており、屋根のタンクの水量を変えることで、温室に入っている放射量を変えることができるのだ。温室内のチューブでこの水をポンプアップし、作物に霧をかけることで、もっと冷やす一助にもしている。夏の最中にも作物を育てられるように、冷却でバックアップする必要性を基本的にはなくしたいのである。

■風力

キューバ製の風力タービン

 キューバでは風力エネルギー利用も取り組まれている。9000台以上の風力タービンが水を汲み上げ、1キロワット以下の小規模な風力発電も数多くある。風力発電所やタービンのほとんどはキューバ製だ。彼らは、送電線に電力を提供するため、大規模な風力発電所を導入する見込みに向けに、キューバの風力のポテンシャルを現在研究中だ。

■太陽の姉妹たち

 キューバの女性たちにふれることなく、キューバのエネルギー計画について記述することはできない。キューバでは女性が、キューバ社会のあらゆる局面に組み込まれている。医師の50%以上、科学の専門家の55%は女性だ。

 私たちがJagueyonの40KWの小規模発電施設を訪れたときに、私は、米国人がまだどれほどやらなければならないことがあるのかがわかった。装置全体がたった2人の女性で操作されていたことにショックを受けたのだ。私は長年、工学分野にいたから、科学や工学分野に多くの女性を組み入れようと試みてきた。だが、女性の技術者やエンジニアと出会う機会は、私たち「先進国」よりもキューバの方がはるかに一般的なのだ。実際、科学技術系大学の入学試験をパスする人々の75%が女性であったのはそんな昔のことではない。性差をならすため、キューバ政府は、必要な合格得点を男性で引き下げるという性差解消プログラムを実行しなければならなかったのだ。いま、女性は科学技術系大学で60%を占めている。

■キューバの将来世代

クーバ・ソラールの国際会議でのソーラー・クッカーの展示

 キューバの若者たちも忘れてはならない。再生可能エネルギーや環境は、小学校から大学まで、キューバの教育システムで大きな要素となっている。全高校のカリキュラムの中で、再生可能エネルギーが教えられており、再生可能エネルギー設備を備えた学校もある。私たちは、ハバナのチェ・ゲバラ工業高等学校を訪ねた。500人の学生がおり、うち300人以上が女性で、学校では太陽熱オーブン、太陽熱の温水器、太陽光発電モジュール、風力タービンを使っていた。再生可能エネルギーに特に特化しているわけではないが、すべての授業に再生可能エネルギーが要素として含まれているのだ。例えば、生物学のクラスでは、バイオガス・プラントの建て方を学ぶし、物理学のクラスでは、太陽電池パネルがどう働くのかを学ぶ。そして、学生用の食事を調理するためエネルギー効率が良い薪ストーブもある。これは、キューバ全体で250以上ある学校に導入されているのと同じタイプのストーブだ。

 

ハバナにて我々のグループの集合写真。後ろには「太陽はキューバのために輝くほどすばらしい」と書かれている。

深刻なモノ不足に直面する中、どれほどキューバが進展したのかは、私にとっては驚きだった。経済危機と米国の経済封鎖は、現実的な日常生活で、停電や、食料、石鹸、トイレットペーパー不足をもたらした。だが、資材、コンピュータ、資金が不足しているにもかかわらず、持続可能な手段で発展しようという決意が、みごとなまでに再生可能なエネルギー・パスへとキューバ人たちを導いているのだ。人道的な援助をしようと、私は、医薬品や再生可能エネルギー関連の書物をたくさん持ってきた。だが、私は、それよりもキューバの人々から多くのものを学んだのだ。

 経済封鎖が終焉することは、キューバが必要とする多くの資材を受け取ることを可能とするだけでなく、彼らの成果から私たちも学べるようになることなのだ。そのことが私にはわかったし、持続可能な発展が、経済の問題というよりは政治的な問題であることも学んだ。もし、国が本当に持続可能な道において発展したいならば、GNPは問題ではなく、人々の暮らしの質を向上させることはできるのだ。再生可能エネルギーの分野においてキューバが達成した成果が、そのことを実証している。

(米国のHome Power55号に掲載、ソーラーエネルギー・インターナショナルのHPの記事)
  Laurie Stone,Sol of Cuba,1996.

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