2004年6月15日


 
ハバナのアジェンデ医学校で、スペイン語で患者にアドバイスをしているテレサ・グローバー(Teresa Glover)さん。米国出身の医科大学の3回生
 ハバナ。ジョージ・ブッシュ大統領による新たな経済制裁に対する米国とキューバ間の言い争いについて、主要メディアは報じている。だが、黒人コミュニティの医療危機を解決するため、フィデル・カストロが、年間に500人もの医学校への留学を申し出ていることはほとんど語られていない。

 「米国においては医学の学位を得るのに20万ドルかかる。我々は、それを支払う余裕がない貧しい多くの若者たちに、奨学金を提供する準備ができている」

 そう、カストロは2001年のニューヨークでの講演中に申し出た。

 黒人コミュニティの深刻な医療問題は、貧しく暮らしに困窮している黒人の患者を治療する黒人の医師が不足していることにある。医学部の学費の値上がりと黒人学生に開かれた門戸が限定されている中、この問題は悪化する一方に見える。だが、キューバのラテンアメリカ医科大学(LASMS)は、毎年最低でも500人の医師を無料教育する準備ができているのである。入学の唯一の条件は、卒業後に米国に戻り、貧しき人々に医療を施さなければならないということだけだ。

 この米国からキューバへの留学プログラムは、ルーシャス・ウォーカー(Lucius Walker)牧師により創設された、平和への牧師(Pastors for Peace)、コミュニティ宗教財団(IFCO=Inter-religious Foundation for Community Organizing)により組織化された。ウォーカー師は、医学校を視察するため、米国からの派遣団を立ち上げた。最初に立ち寄ったのは、3回生から6回生までを訓練するサルバドル・アジェンデ(Salvadore Allende)医科大学である。

平和への牧師の事務局長、ルーシャス・ウォーカー・ジュニアと、メリッサ・バーバー(Melissa Barber)、トゥーサン・レイノルズ(Toussaint Reynolds)、ケンヤ・ビンガム(Kenya Bingham)、ホセ・デレオン(Jose Deleon)、セドリック・エドワーズ(Cedric Edwards)、テレサ・グロバー(Teresa Glover)、イヴリン・エリクソン(Evelyn Erickson)とアジェンデ医科大学でプログラムに従事する学生たち

「医師は高貴な職業です。皆さんは、奉仕する人々が完全に発展するための宣教師であり牧師でなければなりません。世界の中に入って、よりよき世界、より健康な世界を築きあげてください。皆さんは、コミュニティの指導者になることができます。皆さんが、医師となり、世に出るとき、新たな世界を築き上げるため、貧しい人々に尊厳と敬意を払い、共に献身してください」

 ウォーカー師は学生たちにこう告げた。その話の後、両手を広げて師のもとにやってきたのが、ニューヨーク市出身の3回生、テレサ・グローバーさんだった。

 「私がここにいる理由は」と彼女は言う。

 グローバーさんは、1998年にニューヨーク州立大学を卒業。生物学の学位を得て、その後、就職して3年働いた。だが、2001年に医学校プログラムのことを耳にし、コミュニティ宗教財団とコンタクトしたのである。

 「私は学校を愛しています。私は本当に医師になりたいと思います。ですが、他のどんな方法でも医師にはなれませんでした。私はすぐに患者さんと一緒に働き始めました。いま、私は3年目ですが、もっと患者さんとかかわっています」

 グローバーさんにとっての最大の問題は、家族と離れて暮らしており、米国の経済制裁のために定期的に家族を呼べないことである。

 「私は一回生のときに結婚しました。そして、夫のジェームスが最大の理解者で支持者なんです」

 ニューオーリンズ出身のセドリック・エドワーズ(Cedric Edwards)君は、ミドルバーグ(Middleburg)大学で分子生物学と生化学の学位を得た。彼は5回生で、2005年には米国からの初めての卒業生になることだろう。

 「卒業することはとてもエキサイティングです。ですが、私もまた、米国とキューバ間の問題を懸念していました。私は、本当に米国で医療を実践し、貧しい人々がより良き医療を受けられる一助になりたいと思います」

 メリッサ・バーバー(Melissa Barber)さんは、ずっと医師になりたかった。ウルジヌス・カレッジ(Ursinus Collge)で化学とスペイン語を学んだ。

 「私は下宿して高校に行ったので、ずっと家から離れて住んでいました。これはとてもエキサイティングなプログラムです。キューバの先生たちは、私に偉大な医師になるよう教えてくれます。私ははじめに学んだ2年間と、今の患者の治療とを統合しようと学んでいます」

■偉大な「輸入」の「輸出品」

 キューバが米国出身の学生たちのためにやっていることは何も目新しくはない。医師を教育し、最も必要とされるところに送り出すことで、キューバは世界的に有名である。現在、世界24ケ国から9,000人の学生が学んでいる。しかも、キューバは米国に対して、最大の枠を提示した。他国の学生たちは、3,000人だが、提供される50の枠のために競争している。

 キューバは、この仕事が、あらゆる国々を支援するために、キューバがやれる謙虚な努力であると考えている。圧倒的な数の学生が、アフリカから来る予定であったことから、キューバは、医師になりたいすべての学生に役立つよう、アフリカに医学校を開く計画を立てている。

 世界中に医療の専門家を送るというこの仕事から、キューバは地球上でもっとも自愛に満ちた国に見えます」とイスラム聖職者医療と人権サービス (Nation of Islam Minister of Health and Human Services) のアブダル・アリム・ムハマド(Abdul Alim Muhammad) 医師は言う。

 「全世界に医師を送り込むことでキューバは何を得るのでしょう。何も得ません。彼らは本当に人々のことを気にかけています。キューバ人たちは、人間は医療を受けるに値し、その権利を持っていると本当に信じています。人々が暮らしと自由を受け取り、幸せを追求に値する存在だと信じているのです」

 ムハマド医師は、1995年にキューバを初めて訪れたときのことを思い出した。

 「彼らは1000万の人民のために5万人の医師を手にしていました。今は1200万人のために、7~8万人の医師がいます。彼らは、さらに多くの医師をもはや必要とはしていません。あらゆるコミュニティ、学校、そして工場に医師がいます。200人あたりに1人の医師という世界一の医師患者率があるのです」

 実際の比率はさらに良い。キューバ当局によれば、キューバは165人あたり1人の医師を誇っている。米国での比率はこれよりずっと悪い。

 「全国医師協会(National Medical Association)によれば、実際には4000万人いる黒人に対して、2万3000人の黒人医師しかいません。医師一人あたりの患者は何人でしょうか。一人の医師に2,000人の患者です。これは、第三世界の医療水準です。この比率では私たちの同胞の健康状態を高めることはできません。白人では、この比率は300人に1人です。白人は、黒人よりも医療専門家に6倍もアクセスできるのです」

ムハマド医師は続ける。「そして、全国的には黒人医師がまったくいない地域もあるのです」

 ほとんどの医師は、自分と似た人々から医療を受ける傾向があることに、自分の経験と照らし合わせて同意する。ムハマド医師は言う。

 「私たちは、私どもの健康を増進するために必要とするマンパワーがありません。現在よりも6倍か7倍の医師を必要としています。私たちはどのようにそれらを獲得しようとしているのでしょう。これが、キューバが行っていることの偉大さを物語っています」

■医学校への入学

 米国には、黒人が多くいる医学部は、たった二つ、ハワード(Howard)とメハリー(Meharry)大学しかない。キューバの医学校に進学している80人の学生たちの多くは、祖国で進学を志願した。だが、受け入れられなかった。

 サルポマ・セファ・ボアケ(Sarpoma Sefa-Boakye)は、南カリフォルニア出身で、全国医学協会( National Medical Association)の学生支部づくりに着手している。

 「彼らは私たちにたずねました。なぜ、ハワードかメハリーに志願しないのかと。そこで、私は彼らに告げたんです。もちろん、そうした。でも私たちは受け入れられなかったんだ」と。

 だが、キューバには、希望する適任の学生のための席がちゃんとある。

 「私は、ここがとても好きです」と、ニュージャージー出身のニコル・マレー(Nicole Murray)さんは言う。

 「教師は私たちをとても気にかけてくれます。米国では、まさに数字で失敗することが期待されています。授業を休めば、別のものが後に続きます。でも、キューバでは、教師は一人ひとりを探し求めて、いま、どこにいて、どこに進んでいくのかとたずねてくれるのです」

 ニューメキシコ出身のジェシカ・バレト(Jessica Barreto)さんがこう加える。

 「でも教師はとても厳しいのです。それは、教師が、本当に成功することを望んでいるからなんです」

 ロサンゼルス出身の一回生、デスタ・ムハマド(Desta Muhammad)さんにも、医師になる目標が動機となっている。もちろん、他のどの学生とも同じく、彼女も故郷が恋しく、ムハマドのモスクに行って、普通の食べ物を食べたい。だが、その犠牲と引き換えに、彼女は、スペイン語を学び、多くの友人を作り、無料の医学教育を受けている。

 「私は医師になりたく、そして、これが私にできる唯一の方法でした。私はここのプログラムが好きだし、他の人も加わることを進めます」と彼女は言う。

 プログラムは、医学学習を始めるため、それに匹敵する水準まで全学生を高めるようデザインされた半年の予科学習がある。ラテンアメリカ諸国出身者の多くは、高校を卒業した16歳からすぐにこのプロセスを始める。だが、米国の学生は、さらに多くの学校教育をすます傾向がある。それが、米国教育の「水準低下」へのルイス・ファラカン(Louis Farrakhan)大臣のコメントの証拠でもある。高校からすぐ進学できるものもいるが、ほとんどの学生は、あらかじめ少なくとも2年は大学に通う。

 ラテンアメリカ医科大学の予科のプログラムは、化学、生物学、数学、物理学、健康科学序論、アメリカ大陸史、そして、それを必要な生徒のための12週間の集中的なスペイン語コースがある。

 もちろん、クラスわけの試験で、科学やスペイン語で予科を不要とするほど有能な学生もいる。学生たちは、学習コースの適切な時点で、試験に合格しなければならないが、プログラムは、どの学生も成功できるようデザインされた集中的なアドバイスと家庭教師制度に基づいている。

 6年間の医学校プログラムは、9月からはじまり、12学期にわけられている。学生たちは最初の2年間はラテンアメリカ医科大学のキャンパスで学び、その後、学習を完成させるためキューバにある別の21の医学校へと進む。キューバの医学校は、理論と実践とを結び付けており、予防医療、コミュニティ医療、そして、実地のインターンシップに向けられているのである。

 


  Nisa Islam Muhammad, The Compassion of Cuba's Health Care:More doctors equal better health, Jun 15, 2004.

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