2004年7月


キューバの大学病院で。ビアトリス・ミヤル博士(右)とホアン・ロイグ・イ・メサ(Juan T. Roig y Mesa)博士
 キビアトリス・ミヤル(Beatriz Miyar)博士は、オルターナティブ医療財団(National Foundation for Alternative medicine)のために事前調査を行っていたが、2004年7月に、キューバの研究者、科学者、医療関係者、保健省の職員から暖かく迎えられた。

 ミヤル博士はオルギン州とハバナ州にある病院をおとずれ、キューバで開発されている自然・伝統医療やその取組みに印象づけられた。

 キューバの医療制度は、長年、科学的な研究と開発、健康増進のモデルとして国際的な評価を得てきた。その実績は、先進諸国に匹敵し1,000人あたりの乳児死亡率が6.3人といった高い健康指標で特徴づけられている。ちなみに、この数値は、ラテンアメリカでは32.0人で、米国でも7.0人である。キューバの医療の成功の鍵は、予防医療、健康増進、憲法上も権利とされている無料の医療と、過去45年にわたって展開されてきた、その政策にある。

 そして、この政策にしたがって、1990年代前半にキューバ保健省は、自然・伝統医療(CAM)を公式に採用し、その優れた西洋医療モデルと統合し始めたのである。現在、496の総合病院(予防医療)と267病院で実施されている。こうした機関のいずれも、程度の差こそはあれ、大臣委員会の指示により、訓練を受けた医学専門家によって、自然・伝統療法を提供している。

 診療所や病院で用いられている自然・伝統療法には、フラワー・エッセンス療法、神経・ミネラル療法、ホメオパシー、伝統的な中国医療(外科用の鍼麻酔)、自然の栄養補助食品、ヨーガ、電磁気レーザー療法がある。

 現在、キューバの医療制度は総合医療のモデルとなっており、全国自然・伝統医療センター(CENAMENT)は、ハーブと天然産物の栽培と生産、品質保証のための厳密な規制、科学的な研究、大がかりなテレビとラジオでの教育キャンペーン、高等教育での自然・伝統療法カリキュラムの実施を含めたプロセスを監督し、人的資源開発の医学教育を続けている。

 オルターナティブ医療でキューバがいち早く成功を治めたものに、サトウキビの蝋から得られるPPG(policosanol)というユニークな天然産物がある。PPGは、総コレステロールを減らし、HDLを増やしながらもLDLを減らすのに有効である(注1)。キューバの科学者たちによる大がかりな研究や臨床実験から、PPGにはどんな毒性の副作用(スタチン系薬剤などの古典的な薬剤)も持たず(注2)、プラズマ脂質(plasma lipids)をかなり減少させ、血小板凝集を禁止することで心臓病の危険要素を減らせることが示されている。

 ミヤル博士は、Dalmer研究所を訪問したが、そこでは、商業部長であるイボネ・ヘルナンデス(Ivonne Fernández)博士が、PPGは市場に出て以来、国際的な需要が増え続けていると語った。

 これとはまた別の天然産物で、抗炎症剤、酸化防止剤、鎮痛剤として科学的に効能が実証されているものに、マンゴー木の樹皮からとる「Vimang」がある。製薬化学センターの所長、アルベルト・ヌネス(Alberto Núñez)博士は、「Vimang」がHIV/エイズ患者に一般に見られる酸化ストレスを減らすことを示す臨床試験結果をミヤル博士に示した。このセンターでは、400人のHIV/エイズ患者の臨床試験を行準備がされている。「Vimang」には、癌治療にも役立つとの何千もの事例があり、センターは臨床試験を行っている。さらに、青サソリの希釈した毒由来の「Escoazul」にも抗癌効果があり、Labiofamで研究がなされている。ミヤル博士はハバナの精神病院の特別治療部(D.E.T.E.)も訪ねた。そこでは、ともにオルターナティブ医療分野のパイオニアである部長、ペドロ・サストリケス(Pedro Sastriques)博士と、ケソニア・ロペス(Xonia López)博士が、E.E.I.(統合的なEnergy Evaluation)と呼ばれる神経学的な診断方法を開発していた。このホーリスティックな方法は、患者の感情的な状態と肉体面での病気との関連性を示し、医師が最善の自然・伝統療法を決定する助けとなる。もっとも定着したフラワー・エッセンス療法(ホメオパシーと同様の一種のエネルギー医療)によって、医師たちは、心臓病、癌、精神障害まで広範囲の病気の治療に成功している。

 ミヤル博士のキューバにおける医療モデルの研究は、合理的であり、科学的に研究された実践としてオルターナティブ医療財団のオルターナティブ医療のビジョンを確立するものといえるだろう。

(注1) LDLは体に必要なものだが、多すぎると血管の内側にたまり動脈硬化の原因になる。一方、HDLは体の余分なコレステロールを肝臓に戻して処理するため、動脈硬化のリスクを低減する。このため、「LDL」=「悪玉コレステロール」、「HDL」=「善玉コレステロール」と言われている

(注2)コレステロール低下薬であるスタチン系薬剤を高用量で使用すると心不全、筋肉痛、横紋筋変性、神経障害、癌などの副作用が増大するリスクが高いという論文が発表され、論議を呼んでいる。

(注3)酸化ストレスは生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差。生体内で余剰な活性酸素群が生じると、脂質、蛋白質・酵素、DNAを酸化し損傷を与え、病気を引き起こし、老化が早まり、癌や生活習慣病になりやすくなる。

 


  Cuba: A Model for Alternative Medicine, Field investigation Report,2004.

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