■WORKS■

触覚の美

友田多恵子はペーパー・アーティストで、自ら古紙を溶かして漉く。しかし、いわゆる流し漉きではなく、一種の溜漉きである。「一種の」という理由は、溜漉きは通例、パルプ状にした紙料を簀ですくい上げ、全体をゆり動かして水を切るが、彼女は簀で水を切るのではなく、自然に水を蒸発させるからである。また、染色における先染めのように、パルプ状の紙料に最初から濃淡をつけた墨を流し込む。この一連の過 程を彼女は「紙をステージに触覚を顕在化させる」という。
視覚的経験は広いが、触覚的経験は深く、したがって触覚は生命の感覚であるといわれる。ドイツ語において、fuhlen(感じる)とtasten(触れる)、Gefuhl(感情)とTastsinn(触覚)が同じ意味で用いられた所以である。このような触覚にみちびかれて、彼女は溜漉きした粗(あら)い紙に新(あら)きものを見出し、生(あら)きものを感じるのである。このような、材料と形式における「あらき」美に、友田多恵子作品の特質がある。

木 村 重 信 (美術評論家)


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