みえるひとびと 02
一方、一人早々に自室へと引き篭っていた暗石は。
「朝からうるせぇな…」
昨夜の出来事を聞かされずにいたために、無駄に恐怖と緊張を強いられながら一夜を明かしていたせいで、明け方にようやくうつらうつらし始めた時和の絶叫によってたたき起こされていた。
「若いモンには緊張感ってヤツはねぇのかッ……ん?」
身の安全のため、本当ならば部屋から出るつもりなぞ全くなかった暗石だったが。
やはり心配にはなっているのか、口調とは裏腹にドアへと近付き聞耳を立てて様子を伺いだした。
…不機嫌さに加えて、和が悲鳴を上げた騒ぎそのものが漠然とだが気になったのだ。
「…………」
しかしそれもほんの僅かな時間で、暗石は大した間も置かず、小さく舌打をしてから自室のドアを開け廊下へと踏み出してゆく。
「暗石さん?」
「アンタか。どうやら無事みたいだな」
「え?」
するとそこへ、同じように騒ぎを聞き付けたらしい御陵がやってきたため、何も知らない暗石は彼女が無事である事に安堵してみせれば。
「昨夜の件は私が犯人ですのに、変なことをおっしゃいますのね」
「!?」
和のお陰か、すっかり憑き物が落ちた様子の御陵から驚愕の事実を(今頃)聞かされ、流石の暗石も二の句が告げず目を見開いて相手を凝視してしまった。
「あ、ご安心なさって。もう私には貴殿方を殺す理由はありませんわ」
「待て、意味が判らんッ」
「まぁ…申し訳ございません。ご説明したいのは山々ですが、私は一柳さんの悲鳴の方が気になりますの。
私の娘の声を聞くために、一柳さんはなくてはならない方ですから心配ですわ。これで失礼しますね」
とても殺人を犯したとは思えない様子の御陵の言葉に、暗石は何とか反応してみせるが、相手は全く気にかけることなくその脇を通り過ぎてゆく。
「どうなってるんだ?」
それに数拍の遅れを取りながらも、何とか体の硬直を解いて暗石が後を追うと。
『和さんっ!しっかりしてくださいよ和さんッ!』
『どうしたんだよ和!』
『お、お兄さんホンマに壊れたん…っ?』
『起きて、和たん』
和と同室である日織の、珍しくも焦りを隠せない呼び掛けの声に混じり、自分より先に駆け付けていたらしい椿や双子の声も聞こえてくる。
「……こいつは……」
「暗石さん?」
ドアの前までやってきて、自分が最初に感付いた事が現実であることを知った暗石は、自分のそばに御陵がいることも忘れて苦渋の表情を見せてしまう。
「あの、暗石さん?」
「さて、どうしたモンか」
中のただならぬ様子に加え、流石に人を二人も殺している以上、中に入るのを躊躇していた御陵だったが。
「…とりあえず入るぞ」
「え」
二件の殺人を犯したのが御陵だという事がまだ信じられないのか、はたまたそれよりも和の事をどうにかすべきだと考えたのか。
どちらにせよ有無を言わせぬ固い声音と共に、御陵は暗石によって部屋の中へと連れ込まれてしまった。