みえるひとびと 04



「…とまぁ、とりあえずこんなところでさぁ。
で、御陵さんが自首することを約束してくれましたし、和さん曰く斑井さんも成仏したみてぇだったんで、一件落着したと思ってみりゃあ…」
「四倉と一緒に戻って来たってわけか。どこまで人騒がせなんだ、このおっさんは」

暗石が心底嫌そうに呆れた声で締め括れば、いつのまにか視界を遮る手を外し、暗石本人にしがみつく事でその代わりとしていた和がこくんと小さく頷いた。

「そういやぁ暗…いや、磯前の旦那は見えるって言ってましたけど、今は見えねぇんですかい?」

一通り説明したところで、ようやくいつもの調子を取り戻したらしい日織がそう質問すると、これには和を含め全員が「そういやそうだ」と一斉に暗石に視線を集めるのだが。

「ああ?(他のはともかく)あいつらなら執事の脇に居るじゃねぇか」
「げっ、マジ?」

事も無げに自分の傍らにいると言われた椿が嫌そうに和へ確かめれば、和は暗石にしがみついたまま恐る恐る誰もいないはずの空間を指差して。

「っ、つ、椿くんの隣に斑井さんがいる、よ」
「最初はごちゃごちゃうるさかったが、俺が坊主のそばに来たらお前らの後ろに隠れやがった。
もっとも、見当違いな屁理屈と、見苦しい以外の何でもない見栄は相変わらずだがなぁ」

びくりと身をすくませる和に対し、ふん、と軽く鼻を鳴らして肩をすくめる暗石の態度に、見えない面子も何が起こっているのか容易に想像出来てしまい、それに今更突っ込む気にもならず互いに顔を見合わせた。

「なぁ、うちも見たい」
「またお姉ちゃんはそういうことを…」
「あー、やめとけ。斑井のおっさんはまだしも、四倉の顔は見えて楽しいモンじゃねぇ」
「確かに、あのままならちょいと強烈ですねぇ」
「ごめんなさい、手加減しなかったものですから…」
「待て待て。あんた何冷静に物騒な事言ってんだ、そういう問題じゃねえだろーが!…っておい和、眼鏡返しとくけど、お前生きてるか?」

困惑でというよりは殺人に幽霊といった未知との遭遇に、取るべき対応が判らないといった具合で沈黙が降りていたが、静奈のまるで場の空気を読まない発言によりようやく全員の思考が動き出す。

「和さん、大丈夫ですかい?」

だがたった一人、いきなりいらない能力に目覚めてしまった和だけは、相変わらず暗石にしがみついてまともに顔を上げようとはしなかった。

「気にすんな。そんな風にいちいち聞いちまうから、ヤツらも余計坊主に語りかけるんだ」
「き、聞く気なんて、全然これっぽっちもないですよ」
「だったら聞き流せ」
「それが出来たら苦労しないです…」

近寄りはしなくなったか、やはりいちいち自分の都合の良いように会話に混ざる斑井に、和の精神はすり減る一方で。

「苦労って…そんなモン慣れだろうが」
「昨日いきなり見えるようになったのに、慣れの一言で片付けないで下さいよッ!む、無理なものは無理なんだからぁーッ!」
「うぉッ?!」

まさに限界が近かったのか、唯一自分と同じモノが見えている暗石にあっさり対処法を言い切られてしまった際、まさに逆切れ状態で怒鳴るように叫ぶと、更に強く暗石にしがみついてあとは盛大に泣き出してしまった。

「和さん、そんなに磯前の旦那にしがみつかねえでも俺が居るでしょうに。それに俺はアンタを信じてますって。ね?」
「やだぁっ!」

完全に暗石から自分のポジションを奪われた形になってしまった日織は、なんとか和をなだめて自分の方に引き寄せようとするのだが、和はがんとして暗石から離れようとはしなくて。

「着流し…お前よっぽどこいつの話を信じてなかったな?」
「俺だけじゃありませんや。椿さんなんてもっと酷かったし」
「なんだよ、おっさんに言い返せねーからって俺に振るな!」
「双子さんたちだってそうでしょう?」
「うわ、なんでうちらに聞くん?!」
「うちはちゃんと信じてた。…見えなくて残念なくらい」

腹立ち紛れか椿たちまで巻き添えにして、日織はなんとか暗石からの和争奪を試みる。

「ああ煩え…」

だが当の暗石からしてみれば、和は自分にしがみついて泣き続けるわ、そんな和を日織を筆頭に自分から引き剥がそうとするわ、加えて斑井は死してなおもごちゃごちゃ語り続けるわと、様々な理由で彼の機嫌が急降下し始めた時。




「あの…それで約束通り、娘のことは見ていただけますの?」




やはり、というか何と言うか。




御陵は遠慮がちながらもしっかりと、己にとって一番大事な件を確認する事を怠らなかった。





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