みえるひとびと 06
「ね、和くんがどうかしたの?」
自室に戻った御陵と、気を失ったままの和を除いた全ての人物が、空気も状況も読まない那須に深くコメントする気にもなれなかったのだが。
「…そういやこの人、今まで何処に居たん?」
「ずぶ濡れだから外」
「そうなんじゃねーの」
「そうでしょうねぇ…」
「だろうな」
全員沈黙したままというのも耐え難かったのか、無難なことを呟いた鈴奈へとりあえず反応してみせて。
そしてびしょ濡れながらも実に爽やかな笑顔でいる那須の様子に、全員が「土砂降りの雨の中走ってたんだろうな」という、突っ込むのも今更な予想に行き着いた。
「あれ、和くん具合が悪いのかい?」
だが、ミルンの部屋に流れている微妙な空気をやはり読まない那須は、日織ではなく暗石の腕に抱かれたままの和が気になったらしく。
「いくら和くんが軽くても、あんまり身長差がない暗石さんじゃ大変じゃない?僕が運ぶよ」
邪気の欠片もない爽やか全開の笑顔でもって、暗石に和を運ぶと申し出ていた。
だが……。
『芸能界の至宝たるこの私の一大事に、一人呑気に外にいるとは一体何事だねキミぃ!』
「?!」(×4)
「え?」
「あー…」
突如、今まで和と暗石以外には全く聞こえなかった斑井の声が響き渡ったからさあ大変。
全員声が聞こえた方へと視線を移せば、そこには和の言うとおり身体の透けた斑井の姿があって。
斑井の姿が見えた、となると、あとは当然…。
「わーッ!!」
「ほんとに居やがったー!!」
「………ッ」
「…キツイ」
暗石曰く「見えて楽しいものではない」四倉の姿まで見えてしまった。
「なになに、なんでいきなり見えるん?!」
「俺に聞くな!!」
「…これは…うん、確かに和さんが泣きまさあね…」
「すごい」
『むう、何をする!』
『…………』
椿と鈴奈は互いにパニックを押し付けるように叫び合い、流石の日織でさえぽかんとしているその隣では、静奈が嬉々として斑井の身体へ手を潜らせて遊んでいる。
「……えーと。皆どうしたんだい?」
「お前さんには見えねえってか。幸せなヤツだな」
しかしただ一人きょとんとしている那須の様子に、暗石だけが一体なにが原因でこうなったのかを理解した。
「どうもこうも、自分で『見える』俺や坊主と違って、お前は他人に『見せる』んだろうが」
「ってことは、誰かいるってこと?」
「…………本気で幸せなヤツだな」
和と暗石は自分で『見える』のに対して、この那須は自分以外に『見せる』タイプらしく。
しかも相当強力な力らしいそれは、彼が現れた瞬間からその手の能力は全く無い日織たちにまで影響を及ぼし、そして斑井と四倉の姿を見せ声を聞かせたのだった。
「んー、僕は全然わからないんだけど、そうか、斑井さんたちがあんな事になってるんだから、ここに居たっておかしくないか」
「あいつら以外もいるんだがな…って、それにこの連中が気付くのも時間の問題か」
「うふ、はつたいけん」
『ぬ、何をするかこの小娘!今更私のオーラが見えたからといって、なれなれしく触るなど…』
「お姉ちゃん、そんな汚いもんで遊ぶのやめてー!!」
『き、汚いとはなんたる侮辱ッ!本来ならば私に語りかけることすら…』
「ああもううるせえな!死んでるヤツがぐだぐだとすっとぼけた勘違いを語ってんな!!」
「……皆さん幽霊相手に冷静だなあ。って、アンタも大変でしたねえ」
『…………』
双子と椿は幽霊相手に掛け合い漫才を始めてしまい、そして日織は現実逃避しているのか、まるで天気の話をするかのように四倉相手に語りかけている。
もしかしなくとも、自分は今一番一緒に居てはいけない人物と一緒にいるのでは…と思い当たった暗石は、自分以上に那須と一緒にいてはいけない、腕に抱えたままの存在を思い出した。
「いいなあ、皆楽しそう」
「…………」
那須が自分が齎している事の重大さに全く気付かず、相変わらずマイペースでにこにこと賑やかな方を見ている隙に、暗石は和を抱えたままそっとミルンの部屋を後にするのだった。