ハロウィン期間限定で拍手にて公開SS。全5話。
公開当事、この子たちも大人気でした(笑)
「なごせんせ、いたい?」
「なごむせんせい、いたいですか」
万が一の救護係となっていた園長先生のところへ運ばれた和先生でしたが、付いて来る形になってしまった宗一郎くんと純也くんが手当ての最中ずっとおろおろしっ放しで、少々困惑していました。
ここへ連れてきた衛先生は、ここに園長先生がいる以上何も心配することはなく、それに他の子供達が心配しないようにとすぐに持ち場へ戻ってしまいましたし、いくら大丈夫だからと言って聞かせても、怪我をするところに居合わせてしまった二人はなかなか和先生の側を離れようとしないのです。
「お前はもうここで休んでろ。いいな」
とりあえず腫れ自体は大したことがなくとも痛みがあったので、湿布と包帯で右足を固定して応急処置を施すと、園長先生は和先生にお菓子配りは止めるように指示を出しました。
「ね、僕は大丈夫だから、二人ともお菓子をもらっておいで?」
「ううん。せんせといっしょにいる」
「うん、ぼくも、そういちろうくんといっしょで、せんせいとここにいたいです」
「うう…どうしよう」
「愛されてて結構なこった」
「そういう問題じゃないですよ。折角のハロウィンなのに、僕のせいでつまらなくなっちゃう…」
毎年やってくるとはいえ、幼稚園で楽しめるハロウィンは何回もあるものではないのですから、和先生は何とか二人を宥めすかして戻らせようと試みるも失敗に終わります。
どうにかして欲しくて(理事長先生を除けば)この幼稚園の中で一番偉くて皆が逆らえない人に助けを求めますが、その人…園長先生は禁煙パイポを咥え、人の悪い笑みを浮かべたままであてに出来そうにはありません。
「和先生、籠拾ってきました」
しかし、そこへ救世主が現れました。
落としていた籠と共にやってきたのは、純也くんの義理のお兄さんである水明君です。
仮装こそはしていないものの、しっかりと純也くんの保護者として一緒に参加していたようで、和先生の籠の他に、反対側の手には水明君に配られたであろうお菓子を沢山抱えていました。
「おにいちゃん!」
「純也、そして宗一郎。和先生は怪我してるのに、その上お前達が困らせてどうするんだ」
「え…」
「ええと…」
「それにお前達が大好きなお菓子がまだまだ沢山もらえるぞ。和先生たちが一生懸命作ってくれたお菓子を、お前達は欲しくないのか?」
「ほしい!」
「ほしいです…」
「じゃあ和先生は園長先生に任せて、お前達は戻るんだ。いいな」
「うん」
「はい」
…水明君の(とても小学生とは思えぬ)しっかりとした説得に、園児二人はあっさりと応じました。
「楽しんでおいで」
水明君が純也くんの手を、純也くんが宗一郎くんの手を繋ぎ、連なり去ってゆく様はまるで三兄弟のようです。
そんな三人の姿が皆の輪の中へと消えてゆくと、笑顔で見送る和先生はそこで漸く安堵の吐息を零しました。
「はあ、僕って駄目だなあ…」
「ああ?」
「こんな時に怪我をして園児に心配されて、その上きちんと説得も出来なくて」
「……………」
しかし二人きりになったこともあってか和先生がつい本音を漏らすと、途端に園長先生は片眉を顰めてそれを咎めます。
「違うだろう」
「え?」
「お前はお前なりに頑張っているから、園児たちが離れようとしねえんだ。お前が大好きで心配だから、側に居たいんだ」
「…………」
「大体お前だって、昔はあんなんだったったじゃねえか」
「う…………」
園長先生のいう【昔】というのは、和先生が幼稚園児としてこの高遠幼稚園に通い、園長先生がまだただの磯前先生であった頃のことです。
「それにお前はよくやってる」
「………ほんとに?」
「ああ」
「……えへ」
不意に頭に付けられていた猫耳を外されたかと思うと、幼い頃のように頭をぐしゃぐしゃに掻き撫でられ褒められて、思わず和先生はほにゃっと微笑んでしまいました。
「じゃあ、ここに居ますから。…園長先生、一緒に居て下さいね?」
「ああ」
誰も居ないことをいいことに、二人はちょこっとだけ仕事を忘れて身体を寄せ合いました。
「うんうん、和先生が怪我をしちまったのは予想外でしたが…幸せそうなんでヨシとしますか」
そんな二人の様子を(とんでもない視力と聴力で)遠くから見守っていた日織さんは、一人満足そうに笑みを浮かべると、何事もなかったように園児達にお菓子を配り続けるのでした。