笑顔よりも 2





「くそっ、俺に何をさせたいんだあいつは…!」

それでも俺は、俺にだけ笑顔を見せなくなった九龍のことが気になって。
この意味不明というか理解不能な九龍の指示に従って行けば、その理由を聞かせてもらえるんじゃないかとそう漠然と感じたからこそ、俺は面倒くさいと思いつつも指示されるとおりにバディになった連中に会いにいったんだが。
黒塚以降のバディ達を探し当てていくに従って、取手と椎名の「頑張れ」の正しい意味を理解する…ハメになった。


「お前ら俺を殺す気か?!」


椎名の爆弾は、小手調べというか、ほんの挨拶代わりだったらしい。

某所では、様々な大きさの、しかも大量の石が降ってきた(これに当たれば普通の人間は死ぬだろう)。
某所では、わんこそばならぬわんこカレーを食わされた(いくら俺が大のカレー好きでも流石に限界はあるっ)。
某所では、本気で身の危険を感じた(俺は九龍以外の野郎と、しかも気色の悪いオカマ相手にそういう仲になる気は微塵もない!)。
某所では、何故か大量の皿洗いの手伝いをさせられた(しかもそのお礼がまたカレーってのは流石に胃にキた)。
某所では、胃が危険な状態で禅を組まされた(しかもうっかり寝そうになったら木刀で喝が飛んでくるってどういうことだ)。

その後も大量の本の整理をさせられ、3年しかない短い高校生活の大切さを切々と語られ、人生とは常に戦場でアリマス!と訳の判らない掛け声と共に銃弾を浴びせられ。
我が王の御身のためと何か間違った方向で必死なヤツからの攻撃を受け、貴方はまだ判らないのと妙に神経を逆撫でする言葉を吐かれ、トイレの芳香剤に近いラベンダーと、嫌がらせとしか思えないターメリック色の香水を持たされて。
弓を番えた状態で訥々と他愛もない話でもって限界を試すヤツや、九龍に対する変わりようを大笑いするヤツ、やりあういい口実が出来たと本気で殴りかかってくるヤツに、先輩の、そしてお兄ちゃんの為だからと、正しいんだか正しくないんだか何ともツッコミを入れ難い理由でタッグを組んで攻撃を仕掛けてきたヤツらと。

「ま…ったく、何を、考えてやがる…ッ!」

こんな調子で九龍と共に遺跡へ潜り続けてきた連中と顔をあわせては、命の危険すら伴う歓迎振りを発揮され、最後の一人になった時には俺は怪我こそしていないものの正直(精神的にはかなり)満身創痍に近かった。

「ほう。投げ出さずにやってきたか、皆守」
「阿門…」

ぜいぜいと、荒い息でようやく最後の一人の名前を呼べば、相手は少しだけ驚いたような顔で俺を出迎えた。

「九…ちゃんは」
「ここには居ない、と言ったらお前はどうする?」
「また探す」
「では、もう学園には居ないと言ったら?」
「追いかける」

俺を試すような問いかけに、迷いなく即答してみせれば阿門はますます驚いたような顔をして。
それから…くっと笑って俺から視線を外し、ばさりとコートの裾を翻して放り寄越したものは。

「うお!アブねえ……な、って……九ちゃん?!」
「いたた…」
「お前の探し物だろう」

俺の方へとダイブする形で飛び込んできたのは、まさに俺がずっと探していた九龍本人で。
漸く見つかったというよりも、なんで阿門のコートの中になんか隠れているのかと、そう頭に血が上ったまま怒鳴りつけてやろうと、そう思った瞬間。

「ではな、葉佩」

あっさりとその場を去ってゆく阿門に出鼻を挫かれて、九龍を抱きとめたまま唖然として見送った(このパターン、今日はこれで何回目だ!?)。

「…来たんだ」
「九ちゃん?」

だがそんな俺を現実に引き戻したのが九龍本人で、しかもその声が妙に怒りを含んでいるものだったから、俺は当初の目的通りその理由を聞き出すべく身体を抱え上げて向かい合う。


「九ちゃん」
「………」
「九ちゃん」


なのに九龍はやっぱり俺に笑顔を見せる事はなく。
苛つく俺が肩を掴んで名を呼べは、ちらりとだけ伺い見る事はあっても、視線まで彷徨わせている様はなんだか途方にくれているようにも見えた。




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