大変身・続 03
ところが。
「何をしてるんだ!」
これに反応したのはされた金の方ではなく、見ていた日向の方だった。
「…日向サン?何故そんなに慌てるをしているのですか?」
慌てる日向をよそに、金はきょとんとして小首を傾げてしまう。
「おまえこそ何を平然としてるんだ!」
「エ…だって何も慌てることナイですよ?」
「大正殿の言う通りさ。親愛と謝罪を込めたキスに、何かそれ以上の意味があるとでも言うのかい?」
「ロイのこれってクセみたいなもんじゃん」
「えげれす語を母国語となさる方々は、このような挨拶をなさると聞き及んでいますが」
しかし慌てたのは日向だけで、皆揃って不思議そうな眼差しで彼を見た。
「日向さんがしていただきたかったのですか?」
「小夜ちゃん、それは冗談にもならない」
小夜の天然の質問に、嫌悪感丸だしで鳥膚を立てながらしかめっ面で答える日向。
「巫女姫殿、それは俺もお断りするよ。拙者にだって選ぶ権利があるからネ」
そしてロジャーも、金の耳を撫でながらきっぱりと拒絶をみせた。
「やっぱもてるな、糸目のおっさん」
「…これはそういう事、違うと思いマスよ」
尻尾を触りながら光太郎は二人を眺め、金に向かってにやにやと冷やかすように言った。
「じゃあさ、金さんはどうなんだよ」
「は?」
「金さんって皆に優しいじゃん?それって全員同じなのか?」
「コータローさんにそれを言われる、思いませんでしたが…」
「本当に」
これには小夜が間髪置かずに反応した。
「もっとも金さんは、誰かさんと違ってとても誠実ですがっ」
「な、なんで俺をにらむんだよ!?」
「まぁまぁ…」
あちらとこちら、それぞれでにらみ合いが始まってしまい、金は眉間にしわを寄せてオロオロと仲裁に入る。
いつもの事とはいえ、何故こうも同じようにいがみ合えるのか、金は不思議でたまらない。
「答えになるのか判りまセンが…好きだから優しくしたい、それで答えには
なりまセンか?」
「へ?」
「コータローさん、小夜サン、ロジャーさん。私は皆さんが好きデスから。
誰だって好き思う方には優しくしたくなるでしょう?」
「……」
恥ずかしげもなくにっこりと微笑む、天然全開の金大正27歳成人男性。
理屈としてはごもっともなことだが、この年で(しかも男で!)平然と言ってのける人間はそうはいない。
だが、揚げ足を取りたくなるのは人の性というもので。
「ふーん…じゃあふみこたんは?」
「エっ!?」
揚げ足と言うよりはむしろ突っ込みに近い光太郎の言葉に、途端に金の顔(と、露出している膚全て)が真っ赤になった。
「大正殿。あの魔女殿の名が抜けているでゴザルよ?」
「イヤ、アノ…」
それに(判っていて)追いうちをかけるロジャーと。
「そんなに赤くなることないじゃんか」
「もしや金さんは、ふみこさんの事を好いてはいらっしゃらないのでしょうか?」
「そそそそそんなコトはアリマセンっ!」
純粋な気持ちで(その気はなくとも)追いうちをかける小夜。
「わ、ワタ、私はっ、…ソノ………ふみこサン、を…………ああああ!恥ずかしいデスーッ!!」
先ほどまでの冷静さは何処へやら。
3人からいろいろな意味で見つめられ、先ほどと同じ台詞を口にしようにも、どうにもこうにも恥ずかしくて。
光太郎とロジャーが笑いを堪えているのにも気付けず、金は真っ赤になった顔を両手で被って俯いてしまった。