大変身 07






「…相変わらず諸悪の根源はあの魔女か…」
「……」


お互い気まずいのと言いたい事が山盛りてんこ盛りな二人だったが、とりあえず一時休戦(?)ということで、浴室から寝室、そして表に臨時休業の札を下げた事務所へと移動していた。

「身体は大丈夫か?」
「えと…まぁだるくないと言えば嘘になりますが。
元に戻ったと言う意味ならば取立ておかしいはアリマセン」

…怠いのはあなたの責任ですけど。

暗黙にそのようなことを呟いて顔を赤くする金だったが、日向としてはそんな彼をなんとも複雑な思いで眺めている。

「目に毒だよな」
「……」

今度は日向が呟けば、金はさらに顔を赤らめてしまう。
日向の呟きも仕方がない、と言えば仕方がないのだ。
久しぶりに姿を現した…というより、何らかの方法で魔女からあの《犬さん》に変化させられていた金が、ようやく元の姿になった…と思いきや。

「仕方がないです。だって服着られないんですカラ…」

完全に変化が解けた訳ではなく、耳としっぽだけまだそのままだったのだ。
上はいい。上は普通に着られる。
しかし問題は下だ。

「しっぽ…触るのは好きですが、自分にあるは嬉しくないデス…」

うなだれる金同様にしょんぼりしているしっぽが邪魔で、ズボンが履けないのだ。

「あまりじろじろ見る事はしないで欲しいのですが」
「……そんな事言われてもなぁ」

金の話によると、あの道士服はふみこの屋敷においてあるらしい。

「さっきやったんですから、少しは自重するして下サイ!」

口よりも雄弁に語る日向の視線に耐えかねて叫ぶ金の姿は、上にシャツを羽織り下は(仕方なしに)大きめのバスタオルを巻きつけている状態。
日向としては、どうしてもそこから伸びる白く長い足に目が行ってしまう。
しかもまだ完全に元に戻れない事を憂いている金の姿に、なけなしの理性を保とうとして「目の毒」を連発してしまうのだ。

「と、ともかくだな。魔女に連絡して、早く元に戻せと言うのと、お前さんの道士服を届けてもらうことにするか。
あれならズボンが履けなくてもなんとかなるだろ?」
「ええまぁ…。スカートの代わりのようですが仕方がアリマセン」
「それもあるが…」

日向としてはこの悩ましげなままの方が嬉しい気もするのだが、憂いたままの暗い顔よりは笑った顔の方が見たい。


それに…


「抱くならやっぱり組み敷きたいしなぁ」
「!」

先ほど押し倒した時に、金が「しっぽが下敷きになって痛い!」と悲鳴を上げた為、久しぶりなのに正常位でやれなかったことを気にしている日向だった…。





とりあえず(日向曰く)諸悪の根源の偉大なる大魔女ふみこに、怒鳴るように金が元に戻った事を連絡してみれば…。





『あら、大きな坊やったらやっと元に戻ったの?』
「やっとって…お前なぁッ!」
『うるさいわね。私は別に大きな坊やをあんな姿にしたかったわけじゃないわ。
第一金が私に怒るなら判るけれど、どうして私があなたなんかに怒られなければいけないのよ』
「ぐ…」
『それにどうせもうすっきりしたんでしょ』
「……」

そんなしごくまっとうかつ鋭い指摘に、日向はぐぅの音も返せない状態で携帯電話を金に引き渡す。

「アノですネふみこサン。私まだ完全に戻るしていなくて、それで、エエト…って離れて下サイよ日向サン!」
「……」

突然会話を促され、相変わらず顔を赤らめてふみこに話しかける金の態度に、日向が抱き締める事で無言の抗議を披露すれば。

『……』

これまた電話越しに無言でふみこが威圧してくる。

(うぅ…)

このままサテライトを向けられるのかな…と二人の板挟みになっている金が心のなかで号泣していると、不意にふみこが優しく微笑んだ(気がした)。

「ふみこサン?」
『あなたは相変わらず御人好しねぇ』
「は?」
『他人の心配をするより、まず自分の心配をしなさいと言っているの。
まぁ、そこがあなたの良いところなんでしょうけれど』

突然くすくすと笑いながらそんな事を言われて、からかわれたのかと金は先ほどとは別の意味で顔を赤くする。

『誉めているんだからそんな言葉に詰まらなくてもいいのよ、可愛い大きな坊や』
「はぁ…」
『それで?どれくらい変化が残っているのかしら』

本当に誉めているのならば192pの大男に『可愛い』もないと思われるが、下手に言い返して日向の二の舞になるだけなのを承知している金は、その点はあえて気にしないことにした。

「耳とシッポがまだあります。耳はまだしもシッポあるのでちゃんと服が着られまセン」
『あら』
「私の道士服ならば何とか着る事が出来る思いますので、申し訳ナイですが一緒に預かるお願いしていた仁王剣共々、こちらに届けていただけまセンか?」
『…いいわよ。どうせだからしっぽがあっても着られる服もプレゼントしてあげるわ』
「アリガトウゴザイマス、ふみこサン」
『ふふ、やっぱりあなたは御人好しねぇ』
「そうですカ?」
「あのなぁ…お前さんはこのばばぁの暇潰しの被害者なんだぞッ?
本来なら礼を言う必要なんぞこれっぽっちもないだろうがッ」
『お黙り犬ッ!』
「……」

間違ってはいないはずの指摘を制するふみこの言葉と共に、日向《のみ》サテライトに射抜かれた。

「ああッ、大丈夫ですカ日向サン!」
『放っておきなさい。犬はそう簡単に死ぬもんじゃないから』
「……」

そんな無茶苦茶な…とは思いはしても、やはり口をつぐむ金だった。

『そんな外道は放っておいて、まずはあなたのことよ。
変化がまだ少し残っているみたいだけど、それは2、3日で元に戻ると思うからもうちょっとだけ我慢しなさい』
「私、きちんと戻るできますカ?」
『それは大丈夫。保証するわ』
「良かった…」

金としてはこんなことになってしまったものは仕方がないし、あとしばらくはかかるだろうが、ちゃんと元に戻れるとのふみこの言葉に、ほっと胸をなでおろすのだったが…。



「な〜に〜が〜よかった〜だッ!」



サテライトで打ち抜かれたせいで服は焼け焦げだらけだが、確かにたいしたけがもしていない日向が、恨みがましく背後に仁王立ちしていた。


                              


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