大変身 08





「オゼット!お前いい加減金で暇潰しの実験をするんじゃない!
こいつは俺のなんだから、勝手におもちゃにするなッ!やるなら自分のお気に入りの光太郎にしておけぇッ!」


出立ちよりも、半分獣人化しかけてしまう程に怒りを見せている気迫に金が言葉を失っていると、日向は手にしていた携帯を取り上げてふみこに怒鳴りつけた。

『…うるさいわね』
「うるさいわね、じゃないッ!これ以上こいつを暇潰しに使うなら、金輪際お前のトコにはやらん!!」

正しくは《ふみこの屋敷に居候しながら社会勉強している小夜のところ》なのだが、今の日向にしてみれば、すでに一緒になっているらしい。

『みっともないから落ち着きなさい』
「日向サン、落ち着くして下サイ。ね?」
「お前も怒れ!」
「イヤですよ。第一私にふみこサン怒る理由アリマセン」
「……」
『そうよ。金がもういいって言っているんだから、あなたが怒る理由はないでしょう?』
「……」


確かにそうだ。


『それに、最初に言ったはずよ。私は金をこんな姿にするつもりはなかったって』
「なに?」
『金は単に間が悪かったのよ』
「どういうことだ」
『どうもこうもないわよ。私が変化させるつもりだったのは光太郎の方だったってこと』
「……」

そこまで聞いただけで何やら嫌な予感がするのは何故だろうか…。

『あなた、ここ最近光太郎の前で変化したことはない?』
「……」



…ある。大ありだ。



光太郎を含めて夕飯を食べながらテレビをみていたら、狼に一番近いと言われている犬が紹介されていて。

それを見た光太郎が《犬も狼も一緒じゃんかよ》と言い切って。

そこがシャクにさわったの日向が、おとなげないと金が止めるのを振り切って《これのどこが犬と同じだ!》と変化して威嚇してみせて。

それでも結局は《デカい犬じゃんか》と言われてしまい、それに更に腹を立てた日向が《きちんと調べてからモノを言え!》と光太郎を事務所から追い出して。

後日仕方無しに(しぶしぶと)光太郎がそのことをふみこに尋ねれば、魔女は親切にも《狼に変化した》と《犬に変化した》姿を比べたいのかと解釈して。

『だから調度良い薬があったから、光太郎に飲ませて変化させてからあなたと比べさせようとしたんだけど。
私が少し目を離したスキに、薬を混ぜて渡そうとしていたジュースを金に飲ませてしまったのよねぇ』
「アノ…私はいつものように小夜サンに勉強を教えるしていたのですが。
ふみこサンから一緒に休憩しましょうと言われた時、コータローさんにやっぱりジュースでなくお茶が飲みたい言われて。
それならば私のと交換しますかと言ったですが…それがまさかこんな事になる思いもしなかったです」
「……」



と、言うことは。




『結局あなたが悪いのよ。
光太郎相手にムキになったりするからこんなことになるんじゃない』




…全ての責任は(巡り巡って)日向にあるらしい。




『じゃあもう用はないわね。切るわよ』

金の服はすぐに届けてあげるわ…という捨て台詞ともに電話を切られてしまった日向は、間際にふみこから事の真相よりも更に衝撃的な事を言われ、切れた電話を握り締めたまま茫然と立ち尽くした。

「日向サン?」

そんな姿が心配になった金がそっと声をかければ。

「なッ!?いきなり何をしますカっ?!」

いきなり何の脈絡もなくシャツの上から胸を触られた。


《犬にするつもりだったのは光太郎の方だけど、どうせだから金も一緒に変化させようとしていたのよねぇ》


「日向サン!!止めて下サイひゅうがサンーッ!!」

慌て赤面しながら逃れようとする金とは対照的に、日向は見事に無表情で金を追い詰めて、彼の身体のいたる所を確かめるように撫でさすってゆく。


《あれがうまくいっていたら、あなた今頃女性に変化した金と、誰にも邪魔されずに甘い時間を過ごせたはずだったのに。本当に残念だったわねぇ》


ほぅ…とさも楽しそうに溜め息をつきながらの告白に、先払いの報酬だといって渡されたあの意味不明の宿泊チケットの謎が解けた。

「イヤーッ!止めてくださいいいいイッ!」

解けた瞬間、不肖の弟子の危険回避能力の高さと、それ以上かも知れない己の運のなさに無性に腹が立った。
格好が格好なだけに外に逃げ出すことも出来ず、しかも冷静に怒っている日向とは対照的に、訳が判らず大混乱しているせいで、金は気付けば部屋の隅に追い込まれていた。

「逃げることはないだろうが…」
「……」

変化の解けない耳を倒し完全に及び腰になっていながら、金は得体の知れない(と、言うより不気味な?)怒り具合の日向からなんとか逃れようと視線を四方に泳がせる。

「こうなったのも俺のせいらしいし。詫びを含めてこれ以上ないくらい世話をしてやるつもりなんだから、逃げる必要なんかないだろう?」
「……」

口元は優しく笑っているが、目が全然笑っていない。

「さっきよりもっと良いことしてやろうな」

その言葉に金ががちがちに固まった大きな身体をすくませ、自分に伸ばされた日向の指が触れたら噛みついてやろう…!と覚悟を決めた瞬間。




「悪鬼退散ッ!」




という聞き覚えのある鋭い祝詞と共に、ベシィっ!と日向の後頭部に風呂敷
包みが叩きつけられた。

                              


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