大混乱 04






それから。




「…いつになったら元に戻れるんだ…?」
「知るか」

外出を禁止されている日向達は、すでにやることのなくなってしまった事務所で、見事な程にだらけまくっていた。

「あのばばぁを急かそうとしたら、嬢ちゃんを盾にかわされるしなぁ…」
「する事がないっていうのも辛いな」

シャツのボタンを外して、ネクタイは緩めるというよりも最早引っ掛けているだけで、固湯で卵を気取る気力もないらしい。
しかも普段なら書類仕事をしながら自分の帰りを待っていてくれり金が、今は自分の代わりに外で必死に仕事をこなしているのだ。

「お互い自分の面とは言え…こうもべったり一緒に居るとなるといい加減ウザいな」
「同感…」

自分たち以外誰も居ない事務所にこもっているだけでも気が荒むのだが。

「あれから金とまともに会話してないどころか、ロクに顔を合わせてないぞ…」

日常生活が一変したせいで、日中どころか夜すらまともに顔を合わせることがない。




それに…。




「くそう…オゼットのやつ、金に余計な知恵を吹き込みやがって」

日向が二人になってからと言うもの、金は決して一人で彼等と会う事をしないのだ。

「何が悲しくて、自分と沿い寝なんぞせにゃあならないんだっ」
「それは俺の台詞だ!何のためにあのデカいベッドに買い替えたと思ってる!」

言い合って空しいと知りつつ怒鳴り合う日向達は、いい加減自分たちの限界が近い事を本能的に感じ取っているのだった。










一方、その金はというと。







「何か方法ある、思うのですが…」
「何かってどんな?」
「教えて下さい」

自分が請け負った分の仕事を終え、今日もふみこと小夜の元へ手伝いに来ていた。

「スミマセン、具体的に知っている訳ではアリマセン。ですが、何かを忘れるしている気がするのデス」
「…どういう意味?」

心無し苛ついているのを隠そうともしないふみこは、目を通していた古代文字で書かれた魔術書から顔を上げて金をみる。

「次」

そして探し終えた方を棚に戻させて、次の分を自分のそばに運ばせた。

「なんでしたか…思い出せまセン」
「早く思い出しなさい。この際試すことができるものは全て試してあげるわ」

確かにふみこなら、ありとあらゆる魔術を試しそうである。

「本当にご迷惑かけています。スミマセン、ふみこサン…」

本来ならば金が謝る筋合いはないのだが、毎日日向の元に届けられる《必要なもの》があまりにも高級過ぎて、本人たちはともかく金は気後れしてしまっていた。

「それよりもまず思い出して。そうしないといつまでたっても日向はあのままよ」
「頑張って下さい、金さん!」

激励の声をかけてくる小夜は、先ほどからふみこの指示のもと、大釜の中にいろいろな材料や液体を放り込み、一生懸命《魔術の準備》のお手伝いである。

「なるべく早く思いださないと、小夜が魔女になるかも知れないわよ?」
「頑張ります…」

巫女装束に襷がけをして、一生懸命に釜をかき回す小夜の姿をながめながら、金はなんとか早く思い出すことを心に誓う。

「ですから、小夜サンにはあれくらいであまり深い手伝い、させないで下サイね」
「知っていたの?」
「仮にも小夜サンに勉強を教えている者ですカラ」

小夜が一生懸命に作っているのは、そのまま口にしても全く害のない果物のジャムそのもので。

「手伝わせたくとも、あの子のレベルじゃ無理なんだもの」
「ふみこサンの魔術を手伝うは、西洋のそれデスから。
小夜サンは日本の術ならば手伝う出来るのでしょうが…」
「かと言って鏡を割った責任を感じているから、何もしないで居られないってすごく落ち込むのよ」

そんな小夜を見兼ねた光太郎が、ふみこに『何か手伝わせてやれ』などと口を出すものだから、ふみこは魔術に使う基本材料だとかと適当にごまかして、こうしてジャムを作らせているのだった。

「純粋無垢なのは大変結構だけど。…あそこまで疑うことを知らないのも問題ね。なんとかならないの?」
「まぁ、ソノ…ジャムはまだ一緒に作るしたことアリマセンし…小夜サンなりに必死なわけデスし…」

金はしどろもどろになりながら、ふみこが積み上げた調べ終えた本を棚に戻しつつ、無駄と知りつつも一応小夜のフォローに入る。




「おもしろいくらいにだまされてくれるなんて、本当に良く似た師弟だこと」
「………」




さりげなく嫌味を言われたような気がするが、なまじあたっているだけに、あえて無言でやり過ごす金だった。





                               

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