大迷惑02



「……それで私にどうしろというのかしら?」


話を聞き終えたふみこは、少しだけ呆れて、そして後はいつもと同じように高圧的に言い放った。

「……」

そんなふみこの目の前に居るのは、彼女が己の使い魔程度に気に入って、そして気に掛けている糸目の道士。
ふみこの眼光に押されて落ち着かないのか、長身を持て余して所在無げにソファに座っている金大正だった。
今のこの状況を簡単に語るとすれば、以前あしきゆめとの事件で共に戦った仲間として、金がふみこに相談を持ちかけている図…と言える。確かにそれで合っている。


…が、実はこの二人、只の仲間と言うには少々無理がある。


いや、どちらかと言えば、それ以上の微妙な関係とでも形容すべきか。
ふみこに己の愛を告げた金と、そんな金の告白をきっぱりと袖に振ったふみこ。
金はふみこを愛していると自分で思っているけれど、確かにそれで間違いではないけれど。
それが正確には正しくないことを、この偉大なる魔女は見抜いていた。
何故なら金がふみこを見ている時、一人の女性に対してと言うよりは、まるで女神か何かに敬うから。
だからふみこは、金の告白を一刀両断にすっぱりと振ってやった。

一方ふみこを愛してはいても、彼女に自分を愛して欲しいと望まない金は。
まともな恋愛感情からしてみれば、それがどれ程に異常なことなのか、彼は全く気づいて居ない。


でも、この二人の場合はこれで良いのかも知れない。


何故なら今のままなら、ふみこは金を気に入っている程度で扱い、あしらえる、金にしてみても、余程のことをしでかさない限りは、ふみこに構ってもらえる。


愛ではなく、恋でもなく、友でもないが仲間以上。


そんな微妙というよりは、むしろ奇妙な関係なのがこのふみこと金、二人の関係。
しかし今はこの奇妙な関係が、事をややこしくしているのだった。



話は戻って…。



「ふみこサンがどう、という訳違いマス。私が如何すれば良いか、です」

相談を持ちかけた金は、相も変わらず素っ気無いふみこの反応にめげず、更に助言を求めていた。

「それなら簡単。拒めばいいだけでしょう」

しかしふみこの答えはまたまた更に素っ気無い。

「それが出来るのなら、私は困らない出来ます」
「…嫌じゃないと?」
「嫌、は違いマス」
「なら何だと言うのよ」
「う……」

はっきり言いなさいと睨まれて、金は一瞬言葉を詰まらせる。

「た、沢山は困るです」
「はい?」

他の誰かがこの二人のやり取りを見ていたのなら、金がまるで母親に叱れている子供のようだと思ったに違いない。



しかし、そんな金の口から出た言葉は…。



「日向サンと身体を重ねる、それは異常な事かも知れまセンが、私は嫌ではアリマセン。
でも、沢山はとても困るのです」



「…………」



金の告白に、ふみこの背景に稲光が走った…ような気がした。




「あなた……」
「ハイ?」

金がここに相談をしにやってきた時点で半ば予想できていたのだが、いざ予想通りになってしまうと、ふみこの表情がピシッと強張る。
なんと金は、仮にも自分が愛を告白した相手に、しかも女性相手に男同士で関係を持っている事をばらし、しかもそれが別に嫌なわけではないが、日向が事をしたがる回数が多くて困る…と、ぶっちゃげた話、そんなとんでもないことを相談しにきていたのだ。

「あなたってコは…」
「ハイ、なんでショウ?」

これが金の素の性格だということは、知り合ってからこれまでのやり取りで十分判っている。

「あなたってコは、本当に…」
「………?」

だがしかし、理解できていてもそれを許容できるかどうかは話が別だ。

「……………………」
「ふみこサン?」

怒りの余りこめかみを押さえて黙り込んでしまったふみこを気遣い、己の長身を持て余し気味におずおずと問いかけてくる金の姿に、魔女には怒り以上に言い表しがたい呆れが広がっていた。

「アノ……」

怒りと呆れの双方が混ざり合い、そこに偉大なる魔女の凄まじいまでの気高いプライドが加わって。


そしてそれらが行き着く先は…。


「あなたはあの探偵に、少しでいいから回数を減らせと…それを聞き入れて欲しいと言うのね?」


女の開き直りだった。


「は、ハイ。そうです…」

何かを探るようにそう問いかけるふみこの紫水晶の瞳が、眼鏡越しに獲も言われぬ怪しげな光り方をしたような気がしたのだが、金はあえて何も気づかぬ振りをして頷き肯定する。

「いいわ、協力してあげる。
私を慕うあなたの為に、この元・第三帝国空軍所属の魔女が、わざわざ自ら手を差し伸べてあげるのだから、大いに感謝しなさい!」

まるで宣戦布告をするかの如く声を高らかに張り上げ、脳裏に浮かんだ『ヤケクソ』という単語をかき消して。


「だから一緒に来なさい、可愛い大きな坊や」


そしてふみこは、この時点ですでに気後れしている金を、追い立てるように促した。





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