大問題 08
「…私がふみこサンにお願いするしたのは他の誰でもない、日向サン、アナタの為デス」
自分を覗き込んでくる日向から視線を逸らして、金は耳どころか首筋まで真っ赤になりながらチョコレートを手にいれた理由を語り始めた。
「私がいくら体力がもたないからもう嫌デスと懇願するしても、日向サンは一向に聞く耳を持つ事をしてくれなくて。
…それどころか最近では、最後まで付き合う出来なかった翌日などに、場所すらも構うしないでコトに及ぼうとしますカラ…」
もう嫌とは言わないから、いくら何でも私室でない事務所でそれは止めてくれと言った所で、誰もいないからと言いくるめられ結局は組み敷かれてしまう。
「日向サンが嫌い、私は言いませんが、それでも…この状態はあまり嬉しくナイので…」
ここまで来ると、もはや合意の上の域を越えているのではないだろうか?
「前回ふみこサンからご助言いただくしたアレは、日向サンを怒らせるしただけでしたし…」
正確には今日向の首にはめられているモノを取りつけられた後の、ふみこが金にした事に対して怒髪天状態になっていたのだが。
「な、ならばもう…私自身が何とか日向サンに合わせる以外、手はないのではないかと…思う、したので……」
ここまで言って、金は目を擦りながら言葉を詰まらせてしまった。
「だから…私は……私は……」
それでも何とか言葉を綴ろうとするが、目から零れ落ちようとする滴を堪えるのが精一杯でうまくいかない。
「……私、は……」
しかしせっかくの覚悟(…?)を肝心の日向に台無しにされて、これで落ち込むなと言う方が酷だろう。
『ス、スマン…』
一方の日向も思いもしなかった事の真相を聞かされて、血相を変えながらも零れ落ちそうな滴をなめ上げ、懸命(?)に金を宥めていた。
「取りつくシマもない馬鹿」
そしてそんな日向を極寒の眼差しで眺めるふみこだった。
「さて…どうしたモノかしらねぇ」
ふみことて日向が見つけたら口にするだろうとは思っていたが、まさか全部一気に食べてしまうとは予想していなかった。
「金の場合には必ず一日一粒と計算していたけど…よりによって犬じゃねぇ…」
しかもふみこが予測していた効力とは違う効き方をしている。
「体力あげる薬で、どうして日向サン変化したのでしょう?」
「……体力?」
「?」
金としてはごく当り前な質問をしたのだが、え?とふみこに首を傾げられてしまった。
「…ねぇ。ひょっとしなくても、単純に体力がつくだけで良かったのかしら」
「?それ以外に何かあるのですカ?」
「……」
金から逆に問い返されて一瞬だけ深く考えこんだ後、ふみこはちょいちょいっと金を事務所の隅に手招きした。
「あのね…」
「……」
そうしてトコトコ近寄ってきた長身を屈ませてから耳を寄せ、何やら小声で話し出した。
『……』
一人蚊帳の外になってしまった日向は、恨みがましくそれをおとなしく眺めている。
…が。
「エエエエエッ!?」
しかし、しばらくしてから飛び上がらんばかりの勢いで驚く金に、何事かと目を見開いて凝視してしまった。
「ワワワワタシそそそそそんな効力頼むしてマセンッ!」
先ほどとは違う様子でどもりながら真っ赤になる金と、
「…あら嫌だ。私としたことがちょっと親切すぎたみたいね」
と、全然困っていない様子で頬に手を当てるふみこだった。
「…そんなモノを口にしたら…私本当に死んでしまいます…」
ふみこから何かを告げられた後、金は顔を赤くして叫んでから茫然とその場に座り込んでしまった。