大問題 10
『鈍いのもお前さんらしくて大変結構だが、いい加減この魔女の性格を掴め!』
「いやぁね、人聞きの悪い」
「……」
でなきゃこんなにタイミング良く(日向にとっては悪く?)この場に現れた説明がつくか!と恨みがましく唸られて、金はただ唖然としたまま日向とふみこを見比べる事しかできない。
『こんな事をしかけたのは誉められたことじゃないだろうが!』
「ふ…ふみこサン…」
しかし、まさか《盗聴機》を仕掛けられていたとは露ほども思っていなかっただけに、金としてはかなりショックを受けていた。
「どうして…あなたがこんなコトを…」
ようやくそう呟けば、日向が『もっとガツンと言ってやれ!』と唸っている…のはあえて無視して、金は艶やかに微笑んだままのふみこに真相を尋ねる。
「私、そんなに信用なかったですか…」
『そうじゃないだろうが!』
しかし、その尋ねるべきことがすでにずれていた。
「これをつけられるほど、私はふみこサンから信用得ていませんでしたかッ?」
『アホかーッ?!』
「うるさいわ、犬っころ」
血の気の引いた青い顔で真剣に尋ねてくる金に、間髪入れず容赦ない突っ込みを入れる日向にサテライトを食らわせ黙らせてから、ふみこは改めて金に対してにっこりと微笑んでみせた。
「誤解しないで頂戴。私はあなたを信用していないからこれを付けた訳じゃないの。
むしろわたしはあなたを信用しているわ、可愛い大きな坊や」
「で、ですが…」
ならば何故こんな物を…と言いかけるのをやんわりと宥め、ふみこは諭すようにその理由を口にした。
「でもね、信用すると同時に心配もしていたの。
…だってあなたはこのヘタレに対してとことん甘いから」
「……」
犬の躾は甘やかすだけじゃ駄目なのよ?と言われても、日向の場合ちょっと違うと思う金だったが、とりあえず黙ってきいていた。
「こう言ってはなんだけど、これに関してはあなたは私の依頼人だわ。
そしてその報酬は効力の報告」
「ハイ…」
「いくら調合に自信はあっても、もし万が一という事も考えられるから、あえてこれを仕掛けさせてもらったのよ」
「デ、デモ!ならば何故私に一言…!」
「…仕方がないでしょう。あなたは嘘もごまかすことも苦手なんだから」
「…う…」
「いい?もし、最初からこれを取りつけていることを話していたとして、あなた…ごく自然に振る舞えたのかしら」
それは絶対に無理だ。
「最も…今回は違う意味で役に立ってしまったけど。
それでも確かに誉められたことじゃなかったわね」
しおらしく反省してみせるふみこに、金は力一杯左右に首を振ってみせる。
「理由はどうであれ、また私ふみこサンに助けていただきました!
ですからもう、そんなに悲しい顔しないで下サイっ!」
「…でも不快だったでしょう?」
「どちらかと言えば、信用されてなかった思って悲しかっただけです。
それに、今回のコトでふみこサン何も悪くナイです!
悪いのは、チョコレートをしっかり管理出来なかった私と、人のモノを勝手に口にした日向サンですからっ!」
「まぁ…」
握り拳を掲げてそう断言する金だったが、いつの間にかふみこが何とも言えぬ不敵な笑みを浮かべている事に気付いていない。
「じゃあ金。今夜の夜会で私をエスコートしてくれるわね?」
「ハイ!…エ?」
勢いのまま即答してしまった金だったが、いきなり話の内容がすり替えられた事にまた首を傾げてしまう。
「衣装なんかは全てこちらで用意するから、何も心配しなくて良いわよ」
「エ?エ?エ?」
しかしふみこはそんな金の様子など全く気にしないで、金の腕を掴み引きずるように立ち上がった。
『………っ』
そして最早視線だけで抗議するしかない日向に、これみよがしに見せつける為に金の腕に己のそれを絡めてしまう。
「ひゅ、日向サンがまだ元に戻るしていないのに、私でかける事出来まセン…!」
「……」
ふみこに引きずられるようにして歩きながらも、金が一応それだけは何とか口にしてみれば。
「あなたね。私はあなたの為を思って夜会に誘っているのよ?」
「ハ?」
ふみこは思いきり不快感を顕にして、言い聞かせるように手入れの行き届いた白く細い指を突きつける。
「いい?もしこのヘタレが元に戻れるまで一緒にいて、あなた自分の身の危険を感じないの?
このバカに散々のしかかられて、まだ懲りないのかしら?」
「……」
「まぁ…あなたにケダモノを相手にする趣味があるのなら、私は止めはしないけれど…」
「私、そんなシュミは絶対にないです!
いくら日向サンでも絶対に嫌ですカラぁッ!!」
ふみこからそこまで言われて、金はようやく本当の意味で自分の身に危険が迫っていた事を思い知らされた。