式神使い達の輪舞 04







そして場所は戻って、日本から遠く離れたかの地では。





「光太朗、小夜、いい知らせが入ったわ」


事件の真相のあまりの馬鹿馬鹿しさに早々に引き上げようとしていたふみこは、自家用ジェットに乗り込むついで退屈凌ぎにお供を二人を同乗させていた。

「何?」
「なんでしょうか」
「私達が日本に帰る頃には、金が出所するそうよ」
「ホントか!」
「本当ですか!」

日本から金出所の朗報を受け、日向から一番とばっちりを受けていた光太朗にその旨を伝えると、彼は破顔して今までの自分の苦労を振り返る。

「待ってた長かったぜキンさん!キンさんが居ない間所長の不機嫌さに俺がどれだけ迷惑したか!
相当頭にきたから嫌がらせでこっそり面会に行ったら、『何故かお前から金の匂いがするんだがなぁ…?』とか言ってまた機嫌が悪くなるし!」

別に一人で面会に赴いたわけではなく、目の前にいる小夜やふみこも一緒だったのだが、不機嫌の矛先が向かうのはいつも光太朗の方だったのだ。

「所詮犬なんだから仕方がないんじゃない?相手に盲目的に従順な愛を注ぐ分、えてして犬の嫉妬は激しいものよ」

ふみこの辛辣な嫌味は誇張でも何でもなく、周囲に自分たちの関係がばれた途端、日向は極端に金を構い倒しそばに置くようになっていたのだ(←尚ふみこには最初からバレていた)。

「馬っ鹿じゃねぇ?あれじゃキンさんだって逃げるっつーの」

別に金は日向から逃げる為に塀の中に入った訳ではないのだが、無意識に金に懸想している光太朗にはそう見えるらしい。

「……でも……」
「なんだよ?」
「わたくしやふみこさんが金さんとご一緒していても、日向さんは特に変わりはないような…」
「私にはかなわないと判っているからではなくて?」
「あ、それは否定しない」
「では、わたくしは?何故でしょう?」
「えっと…小夜たんが女だからじゃねぇ…かな。さすがに」
「…知らなくても良いことよ」

まさか「金との仲睦まじさが日向には父娘を通り越して『母娘』に見えている」とも言えず、二人はあえて話題をすり替えることにした。

「それよりさ、あのおっかない女の人ってキンさんの従妹なんだって?」
「そのようね」
「従妹の割に全然似てねぇ…」

見かける度に「私の大正は何処だぁ!」だの「早く大正に会わせろ!」だのと日向に仁王剣を向けている姿を思いだし、何であんなに短気で物騒な性格なのかと光太朗は思う。

「あれはあれで見慣れると面白いわ。それに有る意味金と同じで素直だとも言えるわね。
…尤も金とは大分形が違うけれど」

加えて言うなら、自分には懐いているところが似ているとふみこは思う。
それも金が大型犬の如き懐き具合なのに比べて、美姫は気性の荒い猫が懐くそれに似ているのだから、やはり違う形で似ていると思うのだ。

「そう言えばわたくし、あの方から何やらおかしな事を言われたのです」


あれがおかしな事を言うのは今に始まった事じゃない。


口にこそ出さなかったが、光太朗とふみこは小夜の呟きに無言で同じ突っ込みを入れる。

「美姫に何と言われたの?」
「はべらす、と」
「はぁッ?!」
「わたくしも意味が良く判らないのですが、『大正が出てきたら私のそばにはべらせて可愛がってやる』と。
あの方にはバトゥさんがいらっしゃるのに何かおかしいと思うのですが。
それに何故金さんが出てきたらなのでしょう?」
「なんだそれ」

疑問に首を傾げる小夜と同じように光太朗も首を傾げるが、一人ふみこは込み上げてくれ笑いを堪えて顔を背けた。

「馬鹿正直なところも坊やそっくり…」
「ふみこさん?」



まさか、本当に実践しているなんて。



ひとしきり笑いながらそう言うと、ふみこは訳が判らずにきょとんとしている二人に向き直る。

「あなた達、彼女の左手について何か知っていて?」
「え…あれが毒手でむやみに近づくなっては言われたけど」
「もし何かあれば全力で己に破魔、もしくは退魔の力をかけろとはおっしゃられていました」
「まぁ…その知識があれば説明はしやすいかしら…」

何がおかしいのか、未だに笑いを引きずりながら考え込むふみこに、意味が判らない二人は互いに顔を見合わせる。

「詳しい話はしてあげられないけれど。
彼女が毒を身体に持つということは即ち、一族の中でも陰の部分を担っていると言うことは想像できるでしょう?」

ふみこの言葉に思い当る節があるのか、二人は顔を見合わせる事なく小さく無言でうなずいた。

「それに対して大きな坊やはその毒を相殺、もしくは予め防ぐと言う表の顔を持つの。簡単に言えば毒に対する薬というのが妥当なところかしら」

二人に判りやすいように、けれども理解する暇を与えずふみこは言葉を続ける。




「だから自分が選んだ男に触れるために、毒を中和する金を常にそばに置く必要があるのよ。だって毒にまみれた身体では、おいそれと好きな男の側に居る事ができないのだから。
ま、もっともそれはあくまで建前の理由なのだけれど…間違ってはいないし嘘ではないわ」
「………?」
「………?」





また何かを思い出したのかくすくすと笑い始めるふみこに、二人はまた互いに顔を見合わせては首を傾げるばかり。




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