防府の昔話と民話(3) :防府市立佐波中学校発行・編集「防府」より
(なまずのけしん)
桑山の西側にある山を井上山という。
藩士井上氏がこの辺の土地を領し、その山を持っていたので
井上山と呼ばれていた。
そのふもとに流れている小川の一部に沼があった。
ある日、井上氏が沼の水を抜いて魚を捕ろうと準備をしていたところ、
一人の僧侶がやってきて、
「この沼には一匹の大きな鯰(なまず)が住み着いている。
それはこの沼の主であるから逃がしてやるがよかろう。」
と繰り返し言った。
ちょうどその日、井上家に祝い事があり、ごちそうを僧にふるまった。
僧はおいしそうに赤飯を食べ、立ち去った。
そのうち沼の水も引き、鮒(ふな)や鯰などたくさんの捕れた中に、
一匹の巨大な鯰がいた。
「これはうまそうだ。」
と早速料理にとりかかり、腹をさいてみると、
中から赤飯が出てきたので驚いた。
けさ僧の言ったことはすっかり忘れていたが、
さては鯰の助命を頼みにきた僧は鯰の化身であったか、と後悔したが
今や取り返しがつかない。
せめて罪滅ぼしに鯰の霊を鎮めようと、
井上山のふもとにある天徳寺境内に一間四方の小さなお堂を建立し、
薬師如来を安置した。
毎日のように礼拝したが、その霊を鎮めることはできなかった。
それ以来、井上氏は領していた土地や山林を藩に返上し、
だんだん落ちぶれていったと伝えられている。
おわり
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