豊徳園おとぎ村手づくり童話
第一話・・・・・愛
山あいを流れる小さな川があった。
流れは清く、さわやかな瀬音を
あたりの森に響かせていた。
川の名を「鈴の川」という。
季節になると、かじかの鳴く声が聞こえる。
その川のかじかはほかの川のかじかとちがって、
まるで鈴を転がしたようないい声で鳴く。
むかしむかし、この川の上流に、このあたりをおさめる庄屋がおった。
その庄屋の娘が気立てのいい美しい子だった。
この村の若者はもちろん、となりの村からも若者たちが
その娘一目見たさに毎日のようにやってきた。
いく人もの若者が嫁にほしいと申し出たが、
庄屋も娘も首をたてにはふらなかった。
庄屋が首をたてにふらなかったのは、娘かわいさのことだが、
娘が首をふらなかった理由は別にあった。
実は、娘には村の中にお互いに好きあっている若者がおった。
二人は一緒になりたいと思っていた。
だが若者は百姓の息子で、庄屋が娘を嫁に出すはずがない。
ある日、若者は庄屋のところにいって、娘を嫁にほしいと申し出た。
が、庄屋は断るかわりに若者に言った。
「今日から千日、日暮れとともに娘の名前を呼び続けろ。
嵐の夜も、雪の夜もだ。
そうすれば、娘はおまえの嫁にやる。
それまでは二度とわしの目の前に現れるな。」
庄屋はその日から、娘を屋敷から一歩も外へ出さなくなった。
若者はその夜から毎夜、庄屋の家の前を流れる川岸に立って
娘の名前を呼びつづけた。
その声は優しく、せつなく歌うようだった。
娘はそれをきいては毎晩涙を流した。
娘は一度でいいから若者と会うことを父親に頼んだが、
言うことを聞いてはもらえなかった。
続く