豊徳園おとぎ村オリジナル童話
第1話 ・・・・・ 天狗岩(てんぐいわ)
むかしむかし、まわりをぐるりと山にかこまれた小さな村があったとさ。
村のまん中を北から南の方へ、一本の川がきらきらとかがやきながら流れちょった。
その流れにそってな、やはり一本の道がくねくねとまがりながらとおっていて、
村人たちが行ったり来たり、あるときは、たちばなしをしたりしてたとさ。
さらにその道をはさむようにいろいろなかたちをした畑や田んぼがひろがっちょる。
それをちょっとはずれたところに小高い丘があったんじゃ。
その丘のてっぺんに、天狗岩という大きな岩がひとつでーんとすわっとる。
この岩のてっぺんに立つと、村全体がいっぺんに見わたせるんじゃ。
でも村ではな「天狗さまのお席」といって、まだだあれもこの岩のてっぺんに
のぼったものはおらんのじゃ
この村の衆はほんとうにこの村には天狗さまが住んでいると信じとるんじゃよ。
天狗さまは毎日毎日この岩の上にあぐらをくんで一日中、村を見守っちょる。
田植えの時期になると雨をたっぷりふらしてくれるのも、
お米の取り入れどきになると天気のよい日がつづくのも、
みんな天狗さまのおかげなんじゃげな。
でも天狗さまのすがたを村の衆たちはだれひとり見たことはない。
天狗さまはかくれみのをきてござるから姿が見えないのはあたりまえなんじゃそうな。
それに天狗さまは田んぼや畑ではたらいている馬のはたらきっぷりを
いつも見てござるそうな。
馬は田んぼや畑をたがやしたり、とりいれのおわった米や野菜などの重い荷物を
はこんだりして、村の衆にとってはとてもたいせつなものじゃけえの。
ところが、はたらきっぷりの悪い馬がいると、天狗さまは村の衆が気のつかない
夜中のうちにこっそりとその馬をさらって、川下の方にあるほらあなの中に
その馬をおしこんでしまうんじゃ。
村の衆はそのほらあなを「果て無しお洞(はてなしおどう)」というてな、
いちどはいるとどこまでいってもいきどまりのないほらあなで、
そのうちにまよってしまって出てこれなくなるという
こわいほらあななんじゃ。
さて、ある日のことじゃ、
傳兵衛(でんべい)さんのところにあたらしい馬がやってきた。
傳兵衛さんはこの馬を「あお」とよんだ。
若い馬じゃけえの、元気がいいのはいいんじゃが、
これがなかなかいうことをきかんけえ、いけん。
右に行けといやあ、左がわへそれるし、止まれといやあ、走りだすし、
まあ、そりゃあ傳兵衛さんはこまった。
でも、何年もためた大金をはたいてかった馬じゃけえの、
なんとかつかいものにせにゃあいけん。
傳兵衛さんはそう思ってしんぼうしとったんじゃ。