山口の伝説
〜自然にまつわる話〜
姫山のお万(ひめやまのおまん) 山口市
むかし、山口の城下に住む長者のところに、お万というひとり娘がいた。
お万は、色白で、目のぱっちりした、笑うと小さいえくぼのできる美しい娘であった。
十七、八になると、その美しさは歌にまでうたわれるほどの評判になった。
ある日、しばいの見物に出かけたお万は、わかい旅役者をひと目見て好きになった。
そんな時、城下をまわっていた殿さまが、美しいお万に目をとめた。
「そちらの娘をよこせ。
そうすれば、そちの願いをなんでみかなえてつかすぞ。」
と命じた。
お万には、すでに好きな相手があるので、長者は返事をためらっていた。
すると、気の短い殿さまは、すぐに承知しない長者に腹を立て、
「なぜ返事をせぬ。余の申すことが気に入らんとでもいうのか。」
「いえ、めっそうもございません。
しかし、娘の気もちも聞いてみませぬと・・・。」
「そうか。では、お万によく言い聞かせて、きっと余の意にそうようにせよ。」
殿さまの言いつけにそむけば、どんなおそろしいめにあうかよく知っていた長者は、
家に帰ると、すべてをお万にうちあけた。
お万は、
「お父様の言いつけなら、どんなことでもしたがうつもろです。
でも、そればかりは・・・。」
と、泣いて長者にすがった。
長者は、
「よくわかった。無理もないことだ。どのようなことがあろうとも、
このことはお断り申してこよう。
すぐに城に出かけた長者は、いつまでたっても帰ってこなかった。
お万をはじめ、家のものが心配していると、
突然どやどやと殿さまの家来が屋敷の中に入ってきた。
そして、いやがるお万をむりやりつれて引き上げていった。
城へつれてこられたお万の前に、あらなわでしばられた長者が引きすえられ、
胸もとへ刀をつきつけられた。
殿さまは、
「お万、そちはどうしても余のことばにさからう気か。
あれを見よ。そちの返事しだいでは、父親の命はないものと思え。」
と大声でいった。
お万は、なみだにぬれた顔をあげて、
「お殿さま。どうか、このことばかりはお許しください。
それ以外のことなら、どんなことでもいたします。どうか・・・。」
と、ひたすら、殿さまににお願いするばかりであった。
「だまれ。ふとどきもの。どうしても余の言いつけにそむく気だなっ。」
いかりくるった殿さまは、お万をしばりあげ、
「ものども、ただちに父親の首をうて。
このお万は姫山に送り、いただきの古井戸の中にいれてヘビ攻めにせよ。」
と命じた。
長者は、その日のうちに首をはねられた。
姫山の古井戸に入れられたお万は、毎日投げ込まれる多くのヘビに攻め立てられた。
お万は、その苦しみと父親を失った悲しみとで、日ごとにやせ細って、
なげき苦しみながら死んでいったという。
それからというもの、お万のうらみがこの山に残ったのか、
姫山の見える山口の地からは、決して美しい娘は生まれなくなったと伝えられいる。
おわり
文:藤原 宏堂
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