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 第六回    入居一時金の長期入居リスク

 

現在、有料老人ホームの経営が逼迫している理由として、介護報酬の低さや介護スタッフ不足が挙げられているが、直面している経営課題はそれだけではない。現在の有料老人ホームの価格体系には、長期安定経営を阻害している致命的な欠陥がある。それは利用権を入居一時金で購入するという入居一時金経営だ。

有料老人ホームの入居一時金経営のリスクについては、拙著『高齢者住宅の課題と未来』でも詳細に述べているが、ここでもう一度整理しておきたい。

有料老人ホームには、一体的に介護や食事等のサービス契約を締結するという条件のもとで、住宅サービスの提供に関して利用権方式が認められている。居室を購入(所有権)したり、借りたり(借家権)するのではなく、居室と共用部分、設備等を利用する権利を購入するという独自の方式だ

最近は、この利用権を毎月支払うという月払いのホームも増えているが、今でも終身利用できる入居時に一括して購入するという入居一時金方式が主流となっている。有料老人ホームへの入居を考える高齢者は、一般的に預貯金等の金融資産が多くても、毎月の収入は少ないという人が多い。これまでの生活スタイルから、毎月少しずつ預貯金を取り崩しながら生活することに抵抗があり、入居一時金が支払えるのであれば、月額費用を毎月の収入に合わせて検討するという意見も少なくない。

この毎月の利用権を一時金で支払うという価格設定は、ある一定、高齢者のニーズに合致しているのかもしれない。しかし、この価格システムは、事業の長期安定経営を不安定にする要素が含まれている。

その最大のリスクは、入居者の長期入居だ。

この入居一時金は、一般的には【金額・償却期間・終身利用権】がセットで設定されており、『償却期間内の利用料の前払い』という側面と『終身利用権の購入』の2つの意味を持っている。最近、法改正によって終身利用権という言葉は使われなくなったが、契約内容は何も変わっていない

例えば、図のように【入居一時金1000万円、償却期間5年、終身利用権有】とすると、1000万円は5年間の利用権の前払いとなり、3年で退居した場合、残りの2年分が返金されることになる。一方、5年以上入居した場合は、償却期間を超えることになるが、入居一時金を支払うことによって、終身利用できる権利を同時に購入しているため、追加費用は必要ない。

これは入居者からすると、『一時金を支払えば月額費用だけで生活できる』『長期入居すればするほど利用料は少なくて済む』ということになる。しかし、逆に経営者からすると、償却期間を超えた部分については、利用料を免除していることになるため、入居者が長生きし長期入居になると、収入が減ることになる。

上記の例で見れば、5年目までは、満額が償却収入(利用料収入)として計上されるが、6年目には償却期間を超えて長期入居する高齢者(つまり一年目から入居している高齢者)が20人いる。そうすると、利用料収入は30人分のみとなり、その年度の収入は4千万のマイナスとなる。その他の支出は変わらないため、収入(売上)が減るのではなく、そのまま利益が減るということだ。

『長期入居リスクを考えて一時金を決めている』と言う経営者も多く、また、短期間で償却した方が利益は高くなると考えている人は多い。確かに償却期間(上記例では5年)の間は利益が高くなるのだが、その利益の半分は税金として徴収されるため、税金を支払って、このリスクを繰延しているだけということになる。

また、この長期入居リスクを十分にヘッジできるだけの経験値・事業ノウハウは確立されておらず、現状を見る限り、多くの有料老人ホームで、この入居一時金経営の長期入居リスクを詳細に検討できているは思えない。その原因は、やはり『過剰な期待』と『低価格化』にある。


 T  O  P