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 第九回   脆弱で場当たり的な高齢者住宅施策

 

ここまで、有料老人ホームを中心に、その事業計画の問題点やリスクについて述べてきた。高齢者住宅事業にトラブルが多い原因は『過剰な期待』による甘い事業計画にあることは間違いない。しかし、それは事業者の責任だけではない。不安定で、その場限りの行政政策が、高齢者住宅事業の健全な成長を阻害していると言っても過言ではない。

最大の問題は、指導・監査体制が全く整っていないことだ。

特別養護老人ホームや児童養護施設など、生活の場を提供する施設は第一種社会福祉事業で、社会福祉法人や市町村などの一部の公益法人にしか認められていない。その開設や運営についても厳しい基準が求められており、定期的な立ち入り検査が行われている。それは、入所施設は、利用するサービスではなく、生活の根幹となるサービスだからだ。不透明なサービス提供や運営が行われれば、入所者の生活に大きな影響を与えることになる。

有料老人ホーム等の入居者に、社会的弱者と言う言葉は相応しくないかもしれないが、要介護高齢者の場合、一定の介護や支援を受けなれば生活できないと言う点では同じだ。また、福祉施設が不足している今、高齢者住宅に一度入居すると、本来お客様であるはずの入居者が、弱い立場に立たされることが多い。トラブルや問題があっても『母が嫌な思いをするのではないか』『退居を求められたら行き場がない』と言い出せないケースも多いという。

以前、千葉県の無届施設で、入居者を檻の中に入れたり、身体拘束を繰り返すなどの虐待を行っている施設が報道された。このようなことが、長期間、日常的に行われていても、誰もチェックする人がいないということが驚きだ。

このように福祉施設と違い、高齢者住宅に対する監査体制は、全くと言っていいほど整備されていない。

有料老人ホームの目的は入居者保護にあり、平成18年度の制度改正で届け出が強化された他、入居者への説明義務や入居一時金の保全、立ち入り検査など法的には、指導・監査は強化された。しかし、その根本である届け出については、どの程度の無届施設があるのかすら調査できていない都道府県も多く、届け出を促すという積極的な行動を取っている都道府県はまだ少ない。

さらに問題なのは『一定水準の高専賃』によって、この届け出義務を外してしまったということだ。これでは、有料老人ホームの監査体制を強化した半面、それに該当しない高専賃については、わざわざ悪徳業者が大量参入する大きな穴を空けたに等しく、入居者保護を完全に放棄したと言わざるを得ない。

読売新聞の調査によると、一定水準を満たさない高専賃で、介護や食事などのサービスを提供しながら、老人福祉法に基づく有料老人ホームとしての届け出していないものが、住宅が全国で約4400戸にのぼると報道している。ただ、この問題の根幹は、一定水準を満たす、満たさないということではなく、また、有料老人ホームとして該当するか否かというレベルの問題でもない。

この「一定水準か否か」「届け出が必要か否か」という判断は、実質事業者にまかされており、それをチェックする機能はないということ、また「一定水準の高専賃」に該当する場合は、有料老人ホームではないため、どのような劣悪なサービスが提供されていようと、これらを監査したり調査したりする制度も何もないということだ。

報道によると、所管の国交省は、「高専賃はあくまで登録制度のため質を担保すべき立場にはない。質の問題は福祉施策で」という姿勢だというが、では何故、有料老人ホームと同じサービスが提供できる高専賃を立ち入り調査権がある有料老人ホームの届け出から外したのか、という説明にはなっていない。「質の問題は福祉施策で」と言うが、では誰が、どういった基準で『一定水準の高専賃』を調査・指導しようと言うのだろうか。

要介護高齢者を対象とした高齢者住宅の倒産は悲惨なことになる。有料老人ホームの利用権方式では、居住者の権利は保障されておらず、事業者が倒産したり、M&Aで事業者が代わった場合、従前の契約は破棄される。追加費用の徴収や月額費用の改定が行われても、入居者サイドは抗弁することはできない。

高専賃について、届け出を不要とした理由を『借家権で入居者の権利が強いため』としているが、要介護高齢者の場合、食事や介護等の生活サポートサービスが止まれば、その中で生活し続けることはできない。これは有料老人ホームでも高専賃でも同じだ。特別養護老人ホームは不足しており、その入居者の行き先を誰が考えるのだろう。

コムスン問題は、すでに過去のものとなりつつあるが、ホームヘルパーやデイサービス等の利用サービスではなく、高齢者住宅事業には代替サービスを提供できない。

財政的にも社会ニーズを考えても、行政責任で特別養護老人ホームを作り続けることは、難しいということはわかる。ただ、これまで福祉施設が担っていた役割の一部を民間に委託し、要介護高齢者の住宅という超高齢社会に不可欠な社会インフラを作ろうとするのであれば、その安定的な発展や悪徳業者の排除については、他の一般商品以上に国や都道府県等の行政がその責任を負わなければならない。

しかし、同様に残念ながら、高齢者住宅事業についても、行政は『入居者の選択責任』を前面に押し出し、入居者保護のための制度整備は大きく遅れている。というより、その役割を放棄してしまっている。それは、あまりにも無責任だ。

倒産による行き場のない高齢者増加、入居者に対する虐待問題など、高齢者住宅の育成不良は、行政施策にも、大きな問題があるのだ。

 

 

 T  O  P