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読書

CS患者は本を読むときに困難に行き当たります。紙やインクの匂い、綴じてある糊の化学成分に反応してしまうこともあるし、中古の本や図書館の本であれば、前に読んだ人のタバコや香料の匂い、カビやホコリの成分に反応することもあります。その対策として、スモール・データ・バンク「印刷物」では、ビニール袋に入れて本を読む方法を紹介しました。「ビニール袋をふくらまし、本と消しゴムを入れて口を縛る。消しゴムでページをめくりながら読む」という方法です。この方法を実践するうちに、工夫を重ねて、さらに便利で読みやすい方法を見つけてきました。今回はその方法を紹介していきます。

○改良した方法
 従来の方法では、次のような問題点が感じられました。
・口を縛るので、ビニール全体がシワになり読みにくい
・消しゴムを使ってもページがめくりにくい
・どのくらいふくらませれば読みやすいのか、加減が難しい
・ビニールのシワに照明の光が当たってギラギラ光り、目が疲れる


 これらの問題を解決するために私は次のような方法で、ビニール越しに本を読んでいます。

 ビニール袋は36×50cm(0.03mm厚)のものを使っています。規格袋17号として売っているものです。100枚単位で購入しています。大型本は、50×60cmの透明ゴミ袋20リットル(0.02mm厚)を使用しています。薄手のビニールなので、破れたり穴が空いたりしないように気をつけて扱います。

ビニールに本を封入する手順


 透明テープは48mm幅の梱包用テープです。物によっては化学的な匂いが強くて具合悪くなりますが、よく探すと匂いが少ないものが見つかります。私の場合は、「3M スコッチ 梱包テープ 軽量物用」を使っています。

○ふくらませ具合
 ストローで袋をふくらませるときに、入れる空気の量を加減します。ハードカバーやじっくり読みたい本は、空気の量を少なめにします。ソフトカバーやページをめくる頻度の高い本は、空気を多めに入れます。空気の量が少ないと、ページは若干めくりにくくなりますが、ビニールが紙面(印刷面)に密着するので、字が読みやすいです。空気を多めに入れると、本が安定しないし、紙面とビニールの距離が遠くなるので、字が読みにくくなります。しかし、ふくらんでいる分、ページはめくりやすくなります。これは、何冊もビニール詰めしていくうちに、微妙な加減ができるようになってきます。

 どのくらいふくらませたらいいか悩んだときには、だいたいの見込みより少なめにふくらませておくといいです。それで足りなければ、あとから空気を足すことができます。もし多く入れすぎた場合は、中の空気を抜かなければならなくなり、有害な空気を吸うことになってしまいます。

○ページのめくり方
 中に入れる消しゴムは、市販のものをカッターで切って丁度よい大きさにしています。1×1×2cmくらいがつかみやすく、めくりやすいです。消しゴムの匂いが苦手な方も、ビニールの中に入れてしまえば匂いを嗅がなくて済むので、入れるまでのちょっとの我慢で使えるかもしれません。

 はじめの頃はビニール越しにページをめくるのが難しくて、何度も失敗しイライラしながらやっていました。それでも、人間はどんなことにも習熟するものです。そのうち、すんなりページをめくれるようになり、終いには消しゴムすら必要なくなってしまったのです! 今ではビニール越しに指でページをめくっています。たいていの本は問題なくめくれています。文庫本や新書本は、紙が薄いので消しゴムを使わないと無理です が、それ以外の本は、消しゴム無しで読んでいます。

○光源の位置
 ビニール面が照明の光を反射してまぶしく感じてしまう点については、それを防ぐためのコツがあります。光源との位置を図2のように取って見てください。自分のやや後ろから光が差し込むようにすると、ギラつかなくなります。図 1のように、光源が自分の前方にあると、ビニールに反射した光が目に入ることになってしまいます。



○図書館の本
 図書館から借りた本を読むときには、また別の注意が必要です。図書館の本には、表面を保護するために、透明な粘着シートでカバーしてある場合があります。 このカバーは割と固い素材なので、表紙の角の部分が尖って、指に刺さる感じです。ビニール詰めして本を読むときに、この尖りでビニールが傷つき、中の有害成分が外に出てしまうことがあります。これを防ぐために私が行っている方法です。

 ボール紙を丸く切ったものを表紙の角にセロテープで貼っています。普通の本にテープを貼ると、はがすときに紙の表面を傷めてしまいますが、図書館の本は粘着シートでカバーしてあるので、きれいにテープをはがすことができます。テープの一端を折り返しておくと、はがしやすくて便利です。丸いボール紙を、表紙と裏表紙の4カ所に貼ります。ボール紙は暇なときにあらかじめたくさん切っておいて、すぐに使えるようにしています。要らない空き箱などを使ってつくると、廃品利用になりエコです。





 本を返却する前に、ビニールから出して厚紙を取り除きます。本をビニールに入れるときや出すときは、空気清浄機の前でやっています。カビなどの成分を吸ってくれるからです。最近では、図書館に行くのが、カビ・ホコリなどでキツイので、夫に代わりに行ってもらっています。札幌市では、読みたい本をインターネットで検索・予約できるようになり、本当に便利になりました。夫は読書家であり、しょっちゅう図書館に行っているので、そのついでに私の本も取ってきてもらっています。

○ビニールに入れても効果がないとき
 私の読書の興味はさらに広がり、古い年代の本も読むようになってきました。そうなると、問題になるのはカビです。以前は、1980年代以降のものを読んでいたのですが、その後、1950〜70年代のものも読むようになりました。本のページが変色し、ふつふつとカビの斑点が出ているものもあります・・・全体からムアーと立ち上るカビ臭。「ビニールに入れて読めば平気」と思っていたのですが、これだけカビ臭が強いと、ビニールに入れても漏れてきてしまうようです。息苦しくなって、とても読んでいられません。

 私は考えました。「きっとテープで封入したところから漏れ出ているのだろう。いくらきっちりテープを貼っても、いくらかシワになったりヨレたりしているところがある。その隙間から少しずつ漏れてきているに違いない。」そして、カビ臭の強い本をビニールに詰め、今までにないくらい丁寧にきっちりとテープを貼りました。全くシワもヨレもないように封入し、さらにもう一列重ねてテープを貼り、これ以上ないくらい密閉度を高めました。

  「これで大丈夫だろう」と思ったのに、読み始めてみると、なおもカビ臭がします。まだ隙間があるのかと思い、試しに手でビニール全体をギューッと押してみました。力強く押しても、空気がもれるような様子はありませんでした。それなのに、やっぱりカビ臭がします・・・なぜ?

  私はそのとき、かつてサイト「化学物質過敏症 私の方法」の掲示板に、ある人が投稿した言葉を思い出しました。
「ビニールで覆っても、効果のない化学物質もありますよね。」
そのときは、「ビニールは空気を通さないんだから、化学物質も通り抜けるはずはない」と思いこんでいました。ところが、今、眼前で展開されていることは、明らかにビニールを通してカビ成分が漏れ出ている現象です。

 私はあらためてビニールの透過性について調べてみることにしました。ネットで検索してみて、得られたのは次の情報です。

出典:ebw.eng-book.com/pdfs/b672ccb5f7d3970cb99406c5071e53e8.pdf

  私がふだん使っているビニール袋は「低密度ポリエチレン」製で、表を見ると、ガス透過性が高い方の素材であることがわかります。手で押して空気が抜けないように見えても、時間がたつごとに、少しずつ少しずつガスが抜け出ているようです。

 この表に載っているのは分子量の小さなガスであり、カビの成分は高分子の有機物であるはずです。低密度ポリエチレンであっても通り抜けるはずはないと思うのですが、体感としては実際にカビ臭が漏れ出てきているようです。透過性の低い素材を使えば、カビ臭は抑えられるのでしょうか? いまいち確信が持てないのですが、そのような仮定で進めていってみることにします。

  表を見ると、低密度ポリエチレンより透過性が低いものに、高密度ポリエチレンがあります。違いは、ツルツルした手触りの素材と、シャカシャカした手触りの素材です。後者はレジ袋として使われている半透明のビニール袋です。いろいろ調べてみると、どうやら高密度ポリエチレンには、透明の素材はないようです。密度を高くすることによって、どうしても透明度が下がってしまうようです。透明でなければ、本を読むのに使うことはできません。

  次に考えたのは延伸ポリプロピレン(OPP)素材です。これはダイレクトメールが来るときに入っている封筒で、透明度の高いものです。ふだん使っている低密度ポリエチレンに比べれば、ガス透過性は2分の1程度です。試しに家にあるOPP袋を使って実験してみることにしました。ちょうど家にあったダイレクトメールの封筒に、カビ臭の強い本を入れて、口を折り返し、きっちりと封をしてみます。結果・・・カビの匂いがします。漏れ出てきているようです。OPP素材では、カビ臭を抑えることができないことがわかりました。

 他に考えられるのは、ナイロンフィルムです。ガスの種類によって透過性は違いますが、全般的に他のフィルムよりずっと透過性が低いようです。さらに材料と実用性について調べていくと、ナイロンフィルムは真空パックの包装材として使われ、ナイロンだけでは熱による圧着性が低いので、ポリエチレンと合わせて2層のフィルムに加工され、「ナイロンポリ」として製品化されているということです。狙い目として、真空パックの包装材が浮上してきました。

 他に良さそうなのは、セロファンフィルムでしょうか・・・窒素・酸素・炭酸ガスの透過性が低いのに、水蒸気だけは大量に透過しそうなので、悩むところです。が、一案として、真空パックの包装材(ナイロンポリ)の袋に本を入れ、セロハンテープで留めて封入するという方法が浮かび上がりました。

 問題は真空パックの包装材料に大判のものがないことです。私が欲しいのは、360×500mm程度の大きさの袋です。食品包装にこのような大きさのものがあるはずもなく、悩みつつも、とりあえず近所にある業務用包装材ショップに行ってみることにしました。

 店内を見てもやはり大判のものは見つからず、迷いながらも、比較的大きなものを購入して帰りました。セロハンテープも幅広のものを買いました。

 購入した物は、200×500mmのナイロンポリ製の袋で、端を切ったものを2枚つないでセロハンテープで留め、一つの大きな袋にしました(400×500mm)。中央にテープの継ぎ目が走っていますが、透明なテープなので、本を読むのに支障はありません。
 
 この袋に本を入れ、入口をセロハンテープでしっかり留めます。結果はいかに?・・・これは成功で、カビ臭がほとんどしなくなりました。やはり、低密度ポリエチレンではカビの成分が外に漏れていたようです。



 これでカビの影響を避けて本を読める!と喜びましたが、問題はナイロンポリの素材の厚みです。真空パックにするほどのものなので、従来のビニール袋よりかなり厚手です。低密度ポリエチレンが0.3mm厚に対して、ナイロンポリは0.8mm厚はあります。ゴワゴワしてページをうまくめくることができません。消しゴムを使ってみては?と思いましたが、中に入れてみると消しゴムをつまむことすらできません。

  結局は、一から練習して、工夫しながら、少しずつめくり方を習得していくしかありませんでした。コツは、中に空気を多めに入れてから封をすること。ページを送るときに、紙が進む先の空間をそのつどきちんと空けることです。従来の袋を使っていたときよりずっと時間がかかりますが、だんだんうまくなって、何とかページをめくれるようになってきました。紙が厚手のものならめくりやすく、薄手のものはとてもめくりにくいです。まだ試していませんが、文庫本くらい紙が薄いと無理だと思われます。

 だんだん習熟して、うまくめくれるようになってきました。図書館から借りた本なので、ページを傷めないように、少しずつソーッとめくっていきます。そんなこんなで、カビ臭の強い本も読めるようになりました。

 ナイロンポリは従来の低密度ポリエチレンよりずっと単価が高く、従来のものが1枚あたり5円程度だったのに対して、1枚あたり100円くらいします。実に20倍です。そのため、カビ臭の強い本のみに使うこととして、他の本は従来通り低密度ポリエチレンを使うことにしました。従来の袋は使い捨てにしていましたが、ナイロンポリの袋は、再利用することにしました。厚みがあるので、1冊読んだくらいでは、穴の開く心配はありません。何冊も繰り返し使うことができます。

○チャック袋
 相変わらず、有害性の低い本については低密度ポリエチレンの袋を使って本を読んでいますが、よりいっそう使いやすいように、新たな工夫を考え出しました。従来の方法では、袋の口をテープで留めるときに、非常に神経を使います。ちょっとでも油断すると、テープがよれて失敗してしまうからです。特に体調の悪いときは、「気合い」が足りなくて、テープがシワになってしまいます。そうすると、中の有害成分が出てきやすくなってしまいます。

  この難を避けるために、新たにチャック付きビニール袋を導入することにしました。素材は低密度ポリエチレン、サイズはA3(340×480mm)です。これまで検討したところでは、100枚単位でしか買えないので、一度に買って素材に反応を起こすと、全部が駄目になってしまいます。それを考えて、これまで購入に躊躇していたのです。単価は、従来の袋が1枚あたり5円に対して11円。約2倍のお値段です。それでも思い切って100枚入りのものを買ってみると、幸い素材には反応を起こさず、使えることがわかりました。

 さっそく本を入れてみます。それまでは神経を使ってテープを貼っていたのが、今度はワンタッチ、指で押すだけです。残り2cm程度を残して、チャックを閉めてしまいます。2cmの隙間からストローを入れ、空気を吹き込み、ふくらみが丁度よくなったら、チャックを完全に閉じます。それまでの方法に比べて、何てラクチンなことでしょう。すっかりこの方法が気に入りました。



 有害度の低い本を読んだあとには、他の本を入れて、もう一度使えます。このようにすれば、従来品の2倍の値段も気になりません。もともと本を購入する資金がいるはずなのに、図書館の本は1円もかからないので、ビニール袋に20円程度のお金をかけるのは、苦にならない感じです。

  ビニールが大丈夫な方には、ぜひ試してみて欲しい方法です。チャック付きポリ袋なら、テープを使わず口を閉じられるので、テープの匂いが苦手な方にも、いい方法だと思います。

(2017年11月)
(2019年5月加筆)

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