〔3〕歯科治療の基礎知識 〈さらに詳しく〉
〈1〉グラスアイオノマーセメントの組成(主成分)
〈2〉コンポジットレジンの組成(主成分)
〈3〉印象材組成(主成分)
〈4〉ポリカルボキシレートセメントの成分(主成分)
〈5〉接着性レジンセメントの成分(主成分)
〈6〉深い虫歯の治療・専門用語
〈7〉神経の治療・専門用語 1
〈8〉歯髄鎮痛消炎剤
〈9〉歯髄失活剤
〈10〉根管洗浄薬
〈11〉根管消毒剤
〈12〉根管充填材
〈13〉根管用シーラー
〈14〉神経の治療・専門用語2
〈1〉グラスアイオノマーセメントの組成(主成分)
従来型(レジン無添加型)グラスアイオノマーセメントの組成(主成分)
粉 | フルオロアルミノシリケートガラス 組成: 石英(SiO2) アルミナ(Al2O3) フルオライト(CaF2)またはフッ化ストロンチウム(SrF2) クリオライト(Na3AlF6) フッ化ナトリウム(NaF) リン酸アルミニウム(AlPO6) |
液 | ポリアクリル酸とマレイン酸の共重合体 蒸留水 多塩基性カルボン酸 酒石酸 |
「カラーアトラスハンドブック 保存修復臨床ヒント集」寺中 敏夫/編集 クインテッセンス出版/刊p.60
レジン添加型グラスアイオノマーセメントの組成(例)(主成分)
粉 | フルオロアルミノシリケートガラス 光重合促進剤 |
液 | ポリアクリル酸 ハイドロキシエチルメタクリレート(HEMA)(レジンの成分) カンファーキノン(光増感剤) アミン系還元剤(重合促進剤) 酒石酸 ウレタンジメタクリレート(レジンの成分) TEGDMA(架橋モノマー) メタクリロキシ基を導入したカルボン酸 |
「カラーアトラスハンドブック 保存修復臨床ヒント集」寺中 敏夫/編集 クインテッセンス出版/刊p.61
「歯科医学総論マニュアル」高橋 和人/編集 南山堂出版/刊(1995)p.229
〈2〉コンポジットレジンの組成(主成分)
◇コンポジットレジン
Bis GMA、UDMA(レジンの成分) | |
無機質フィラー(シランカップリング剤で処理されたもの) | |
架橋モノマー | Tri-EGDMA、 EDMAなど |
重合開始剤 | 過酸化ベンゾイル |
重合促進剤 | 三級アミン |
光増感剤 | カンファキノン(光重合型のみ) |
BisGMA:2.2-ビス〔4- (2-ヒドロキシー3-メタクリロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
UDMA:ジ(メタクリロキシエチル)トリメチルヘキサメチレンジウレタン
◇コンポジットレジンの表面処理剤
エッチング剤(酸処理)
歯質(エナメル、デンチン)の表面を酸によって処理(脱灰)し、凹凸を形成して、より強固に
レジンの歯質への接着をはかる技術。
エナメル質に対して | 30〜50%リン酸溶液 |
象牙質に対して | 10%リン酸溶液、10%クエン酸+20%塩化カルシウム溶液、10%クエン酸+3%塩化第二鉄溶液、 マレイン酸溶液、EDTAなど |
ボンディング剤
歯質(エナメル、テンチン)とレジンとの親和性をよくし、接着性を向上させるためあらかじめ歯質壁に塗布する材料。
エナメル質に対して | 4-META、フェニルーP、 NPG-GMAなど |
象牙質に対して | 4-META+TBB、フェニルーP、 HEMA(+GLUMA) |
HEMA : 2 –hydroxyethylme thacrylate
GLUMA : Glutaraldehyde solution
「歯科医学総論マニュアル」高橋 和人/編集 南山堂出版/刊(1995)p.229
アルジネート印象材 | アルギン酸ナトリウム アルギン酸カリウム 石膏 珪藻土 第三ナトリウム 炭酸ナトリウムなど |
寒天印象材 | 寒天(5〜15%) 水(80〜90%) ホウ砂(0.2〜0.5%) 硫酸カルシウム など |
縮重合型シリコンゴム印象材 | ジメチルポリシロキサン 酸化亜鉛 シリカ エチルシリケート カプリル酸スズ など |
重付加型シリコンゴム印象材 | ハイドロメチルポリシロキサン 酸化亜鉛 シリカ ビニルポリシロキサン 塩化白金 など |
「歯科医学総論マニュアル」高橋 和人/編集 南山堂出版/刊(1995)p.216
粉 | 酸化亜鉛、シリカ、酸化マグネシウム、着色材、HY材(タンニン・フッ化物)、その他 |
液 | アクリル酸-トリカルボン酸共重合体ナトリウム塩、精製水、その他 |
「ハイボンドテンポラリーセメント〈ハード〉」(松風) の製品添付書類より
〈5〉接着性レジンセメントの成分(主成分)
(1)フェニルーP (リン酸エステル系)
粉 | 無機質フィラー,重合開始剤 |
液 | リン酸基を有するメタクリル酸エステルモノマー(フェニルーP) 多官能性メタクリル酸エステルモノマー |
(2) 4-META (カルボン酸系)
粉 | PMMA (ポリメチルメタクリレート) トリーn-ブチルボラン(TBB、重合開始剤)、酸化チタン(フィラー) |
液 | MMA (メチルメタクリレートモノマー)、 4-META (5%程度) |
「パナビアフルオロ」は(1)、「スーパーボンドC&B」は(2)
「歯科医学総論マニュアル」高橋 和人/編集 南山堂出版/刊(1995)p.231
接着性レジンセメントの表面処理剤
エナメル質に対して | 30〜50%リン酸溶液 |
象牙質に対して | 10%クエン酸+20%塩化カルシウム溶液、10%クエン酸+3%塩化第二鉄溶液、EDTAなど |
「歯科医学総論マニュアル」高橋 和人/編集 南山堂出版/刊(1995)p.231
型をとる | 「印象採得」(いんしょうさいとく)といいます。 |
かみ合わせの記録をとる | 「咬合採得」(こうごうさいとく)といいます。 |
仮のつめものをする | 「仮封」(かふう)といいます。 |
つめもの | インレー、アンレー |
かぶせもの | クラウン、冠(かん)などと呼びます。 |
仮の歯 | 「仮歯」(かりば)、テンポラリークラウン、テックなどといいます。 |
〈7〉神経の治療・専門用語 1
歯の構造
神経のことを「歯髄」(しずい)といいます。歯の中は空洞になっていて、ここに神経の他に、血管やリンパ管が入っています。歯髄に流れ込む血流は、生命活動に必要なものを供給し、排泄しています
。生きている歯は、常に活動しています。歯髄を抜くと、この活動がやむため、歯はもろくなり、寿命が短くなります。また、歯が変色しやすくなります。
神経の炎症 | 「歯髄炎」(しずいえん)といいます。 |
炎症を抑える治療 | 「歯髄鎮痛消炎療法」(しずいちんつうしょうえんりょうほう)といいます。 |
参考資料:「Year book 2002 今日の治療指針」クインテッセンス出版/刊(2002)p.198〜199
〈8〉歯髄鎮痛消炎剤
〈フェノール製剤〉
1 )キャンホフェニック(CP)、カンファカルボール(CC)
組織刺激性が少なく、腐蝕性も弱いが、鎮痛作用に富む。
処方 | フェノール | 30g |
カンフル | 60g | |
エタノール | 10g | |
全量 | 100g |
2)歯科用モディファイドチモール(MP)
チモールはフェノールに比べて殺菌力が強く、浸透性もあり、しかも鎮痛作用を有する。チモールとメントールを加えることによって、フェノールの局所腐蝕性が減弱する。
処方 | フェノール | 50g |
チモール | 33g | |
メントール | 17g | |
全量 | 100g |
3)モノクロロフェノールカンファ(CMCP)
優れた消毒力と鎮痛作用を有する。
処方 | パラモノクロロフェノール | 50g |
カンフル | 50g | |
全量 | 100g |
4 )チモールアルコール(TA)
チモールは殺菌力は強いが腐蝕性は少なく、しかも鎮痛消炎作用に富んでいる。
処方 | チモール | 5g |
アルコール | 20ml |
5)グアヤコール
フェノールよりも組織腐蝕性および毒性は弱いが、消毒作用に優れている。近年は、酸化亜鉛グアヤコールセメントとして使用される。
〈精油類〉
ユージノール : 鎮痛消炎作用に富み、腐蝕性が少なく、消毒力を有する。通常は酸化亜鉛ユージノールセメントとして使用される。
〈銀製剤〉
アンモニア硝酸銀溶液Ag(NH3)2NO3
タンパク凝固作用による殺菌力を有するが、硝酸銀のように強い腐蝕作用はない。歯を黒染する欠点を有する。
処方 | 5%硝酸銀 | 50.0ml |
アンモニア水 | 約5.0ml |
〈パラホルム製剤〉
パラホルムアルデヒドを3%含有するセメントとして用いる。
「カラーアトラスハンドブック 歯内治療臨床ヒント集」戸田忠克・中村洋/他編 クインテッセンス出版/刊(2004)p.43
〈9〉歯髄失活剤
神経を殺す薬→「歯髄失活剤」(しずいしっかつざい)といいます。
ヒ素製剤
商品名 | 「ネオアルゼンブラック」(ネオ製薬工業) |
成分 | 三酸化ヒ素 塩酸ジブカイン dl−塩酸メチルエフェドリン 塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル ベンジルアルコール |
※「ネオアルゼンブラック」は2005年11月に製造販売中止になりました。
http : //mid.cc.kumamoto-u.ac.jp/
ホルムアルデヒド製剤
商品名 | 「ペリオドン」(ネオ製薬工業) |
成分 | パラホルムアルデヒド 塩酸ジブカイン |
グアヤコール
http : //www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html
商品名(例) | 「ネオクリーナーセキネ」(ネオ製薬工業) |
成分 | 次亜塩素酸ナトリウム |
をはじめいろいろあります。
根管洗浄薬として、他に、EDTA剤(エチレンジアミン四酢酸、あるいはエデト酸と呼ばれる)というのを使うこともあります。
商品名(例) | 「歯科用モルホニン」(昭和薬品化工) 「スメアクリーン」(日本歯科薬品) |
「カラーアトラスハンドブック 歯内治療臨床ヒント集」戸田忠克・中村洋/他編 クインテッセンス出版/刊(2004)p.106〜107
種類 | 商品名(例) |
グアヤコール製剤 | 「クレオドン」(ネオ製薬工業) |
フェノールカンファ製剤(フェノール+カンフル) | 「キャンホフェニックネオ」(ネオ製薬工業) |
パラクロロフェノール・グアヤコール製剤 | 「メトコール」(ネオ製薬工業) |
ホルマリン・トリクレゾール製剤 | 「ホルムクレゾールFCネオ」(ネオ製薬工業) |
ホルマリン・グアヤコール製剤 | 「ホルマリン・グアヤコールFGネオ」(ネオ製薬工業) |
パラホルム製剤 | 「ペリオドン」(ネオ製薬工業) |
抗生物質が配合されたもの | 商品名(例)「歯科用クロラムフェニコール液」(昭和薬品化工) |
水酸化カルシウム・ヨードホルム製剤 | 「カルビタール」(ネオ製薬工業) 「ビタペックス」(ネオ製薬工業) |
水酸化カルシウム製剤 | 「カルシペックス」(日本歯科薬品) 「カルシペックスプレーンII」(日本歯科薬品株式会社) |
「カラーアトラスハンドブック 歯内治療臨床ヒント集」戸田忠克・中村洋/他編 クインテッセンス出版/刊(2004)p.110〜112
水酸化カルシウム製剤
商品名 | 「カルシペックス」(日本歯科薬品) |
成分 | 水酸化カルシウム 24% 硫酸バリウム(X線造影剤) 24% プロピレングリコール、精製水、その他 52% |
http : //www.nishika.co.jp/q&a-cal.html
商品名 | 「カルシペックスプレーンII」(日本歯科薬品株式会社) |
成分 | 水酸化カルシウム48% 精製水、その他52% |
http : //www.jea.gr.jp/kankei/seihin/calcipexpl2.html
〈12〉根管充填材
ガッタパーチャ:マレー・ジャワに生育している山ラン科植物「グッタペルカ」の木の分泌乳液を精製固化したゴム質有機材料。
主成分はgutta(イソプレンC5H8の重合体)。
ガッタパーチャの組成(主成分)
ガッタパーチャ(基材) | 18〜22% |
酸化亜鉛(フィラー)※ | 59〜76% |
ワックスやレジン(可塑剤) | 1〜4% |
重金属硫酸塩(エックス線不透過性) | 1〜18% |
※フィラーとは、素材に硬さを出すために混ぜ込む粉です。
「カラーアトラスハンドブック 歯内治療臨床ヒント集」戸田忠克・中村洋/他編 クインテッセンス出版/刊(2004)p.121
〈13〉根管用シーラー
ペースト状のもの→「根管用セメント」(こんかんようせめんと)、「根管用シーラー」(こんかんようしーらー)といいます。
商品名(例)と成分
◇「キャナルス」(昭和薬品)
粉末 | 酸化亜鉛40% ロジン 30% 硫酸バリウム15% 次炭酸ビスマス15% |
液 | チョウジ抽 83% 落花生油 17% |
◇ 「デンタリスKEZ 」(ネオ製薬工業)
粉末 | 酸化亜鉛 水酸化カルシウム ヨードホルム その他 |
液 | ユージノール その他 |
◇「Tubli-seal 」(KERR)
ベース | 酸化亜鉛 57.4% 三酸化ビスマス 7.5% オレオーレジン 21.25% ヨードチモール 3.75% |
キャタリスト | 油性成分7.5% 調節剤2.6% |
◇「Pulp Canal Sealer」
粉末 | 酸化亜鉛41.2% 銀粉末30.0% ロジン16.0% ヨードチモール12.8% |
液 | チョウジ抽78.0% カナダバルサム22.0% |
◇「Sealapex」
ベース | 酸化カルシウム50.0% スタティサイザー 35.0% ステアリン酸亜鉛 2.0% 酸化亜鉛13.0% |
キャタリスト | ライフレジン34.0% イソブチルサリチル酸13.0% メチルサリチル酸 5.0% 二酸化チタニウム 10.0% 硫酸バリウム 37.0% 色素材1.0% |
「カラーアトラスハンドブック 歯内治療臨床ヒント集」戸田忠克・中村洋/他編 クインテッセンス出版/刊(2004)p.124
インターネットで調べてみたところ、臨床現場では「キャナルス」がよく使われているようです。CS患者にとっては、チョウジ油(ユージノール)のにおいが問題になります 。また、落花生油が入っているので、ピーナッツアレルギーの人は要注意です。他に「キャナルスN」というユージノールが入っていないシーラーもあるようです。(詳しい成分については、調べられませんでした 。)
上述の製品の中には、「ヨードホルム」や「ヨードチモール」が入っているシーラーがあります。注意した方がいいと思います。 ここにのせた他に、「ファイナペックAPC」(京セラ) という、アパタイトを主成分としたシーラーがあるようです 。また、「スーパーボンド根充シーラー」(サンメディカル)という製品があり、これは生体親和性に優れた商品だということですが、成分は調べられませんでした。
神経を抜く | 「抜髄」(ばつずい)といいます。 |
抜いたあとの空洞 | 「根管」(こんかん)といいます。 |
空洞を洗う | 「根管洗浄」(こんかんせんじょう)といいます。 |
空洞に薬をつめる | 「根管貼薬」(こんかんちょうやく)といいます。 |
空洞の中を充填材でつめる | 「根管充填」(こんかんじゅうてん)といいます。 |
土台をつくる | 「支台築造」(しだいちくぞう)といいます。 |
棒を差し込みペーストで隙間を埋める方法 | 「側方加圧根管充填法」(そくほうかあつこんかんじゅうてんほう)といいます。 |
ガッタパーチャを溶かしてつめる方法→「熱可塑性ガッタパーチャ注入法」(ねつかそせいがったぱーちゃちゅうにゅうほう)といいます。「Obtura-II」というシステムを使います。160度の熱でガッタパーチャを軟化させ、注射器のような装置の先から根管内に注入します。
抜髄したその日のうちに根管充填をする(神経を抜いたその日のうちに充填 材をつめる)→いろいろな呼び方があるようです。「1回治療法」(いっかいちりょうほう)、「即日根管充填法」(そくじつこんかんじゅうてんほう)、「麻酔抜髄即時根管充填法」(ますいばつずいそくじこんかんじゅうてんほう)、「直接抜髄即時根管充填法」(ちょくせつばつずいそくじこんかんじゅうてんほう)などといいます。