第10章 歯科治療 (2006.9.22 更新)

〔1〕歯科医院を探す(6月27日 更新)

〔2〕 化学物質過敏症の患者が歯科治療を受けるとき(7月 7日UP)
 a.初診(7月 7日UP)
 b.治療の流れ(7月12日 更新)

〔3〕歯科治療の基礎知識(9月12日 更新)
 a.歯科医院の設備(7月22日UP)
 b.診断
(7月28日UP)
 c.軽い虫歯の治療
(8月 7日 更新)
 d.深い虫歯の治療(8月22日 更新)
 e.神経の治療(9月12日 更新)

まとめ(9月22日UP)

 ※(資料一覧)
 ※(さらに詳しく)
 


 

第10章 歯科治療


 化学物質過敏症の患者が歯科治療を受けるのは、とても大変です。歯科医院のあの強烈なにおい。口の中にいろんな化学物質を次々と入れられる治療。歯科治療が原因で 化学物質過敏症を発症した人もいます。できれば、行かずにすませたい。でも、虫歯が痛くなったり、腫れたりしたら、行かないわけにはいかないのが現実です。
 「できるだけ、体に害がないものを使って欲しい。」
 「CS反応を起こすものを避けたい。」
CS患者なら切実にそう思うはずです。

 私が、現在通っている歯科医院で、治療を始めてから、2年以上がたちます。これまで治療してきた歯は、全部で19本。顎関節症のかみ合わせ治療のために、これだけの歯をいじらなければなりませんでした。新しい歯科材料を使うたびに、CS反応を起こしたり、ぐあいが悪くなったりしました。その都度、代わりの歯科材料を模索したり、歯科医と交渉したり、対応してこなければなりませんでした。

 歯科治療に際して、患者の側から、歯科材料を選択したり、治療の仕方を提案するのは、とても難しいです。なぜなら、歯科の分野はとても専門的なので、素人の患者は、その内容をほとんど知らないからです。また、多くの場合、歯科医師の側も、 化学物質過敏症についてほとんど知りません。「CS患者が何に反応するのか」「どのように対応したらいいのか」ということについて、ほとんどノウハウがないのが実状です。そのため、患者の側からCSについて説明し、どのような歯科治療を望むのか、意思表示をしていく必要があります。そのために、歯科治療についての基本的な知識が必要です。

 この章では、私がこれまで歯科治療について調べた知識をわかりやすい形でまとめ、CS患者の皆さんに役立ててもらえればと考えました。どうか、この章を読んで、少しでも歯科治療に対する不安を和らげ、必要な治療を受けられるように、と願ってやみません。



〔1〕歯科医院を探す

 歯科治療は、まず歯科医院選びから始まります。もし、通える距離にCS対応の歯医者さんがいるなら、そこへ行くのが無難です。全くCSについての知識がない歯科医院に行くと、一からCSのことを説明しなければなりません。その点、CS対応の歯医者さんなら、基礎知識があるし、CS患者を診た経験があるので、一つめの壁はクリアできるのです。 私は「CS支援センター」に問い合わせて、CS対応の歯科医院を教えてもらいました。

 私は、はじめ、一般の歯科医院に行って、おそろしく苦労しました。この歯医者さんは、よく説明してくれるし、こちらの言うこともよく聞いてくれる人でしたが、CSの知識については、白紙の状態でした。私は、歯科治療に関して、何の知識もないし、歯医者さんはCSの知識が何もないのです。接点がありません。治療に使う歯科材料のうち、一体何にCS反応を起こすのか、私自身も歯医者さんも、わかりませんでした。

 私がぐあい悪くなるたびに、歯科医師は戸惑っているようでした。私はぐあい悪くなるたびに、歯科治療に対する恐怖がつのっていきました。限界を感じ、少し遠かったのですが、CS対応の歯科医院にかかることにしました。

 CS対応の歯科医は、CSの基礎知識があり、何よりもCSについて聞き入れてくれる態勢があったので、安心してかかることができました。CSには個人差があるので、CS対応の歯科医院でも「自分に合う歯科材料」「合わない歯科材料」を見分けていく苦労を味わうことになりました。しかし、私の過敏性や、治療の規模(口中のかみ合わせを治す)を考えると、とても一般の歯科医院では、対応できなかったと思います。一本の虫歯を治すような治療とは違い、手間も使う歯科材料の数も格段に多かったからです。
 
 このようにCS対応の歯科医院にかかるメリットは大きいのですが、全国でも、まだこのような歯科医院は少ないのが現実です。そのため、通える範囲にCS対応の歯科医院がない場合は、自力で一般の歯科医院を探さなければなりません。私は、顎関節症の治療のため、2000年から2003年にかけて、合計で8軒の歯科医院にかかりました。歯科医院によって、技術や対応(コミュニケーション)、治療方針が違うためです。本当にいろんなタイプの歯科医師がいました。この経験から、CS患者が治療を受ける上で、どのように歯科医院を選んでいったらいいのか、考えてみたいと思います。

 まず、歯科医院を探す具体的な方法ですが、次のような方法が考えられます。電話帳を見て、片っ端から電話して、CS患者でも診てくれるかどうか、聞いてみます。*1 HPがある歯科医院なら、メールで相談するのもいいかもしれません。また、ネット上の「歯医者さんランキング」を見て、親切に対応してくれそうな歯科医院を探し出したCS患者もいます。*2 電話やメールでの対応、初診時の対応で、CS対応してくれる歯科医院かどうかを見分けます。

 治療を進めていく上で、最初から満足のいくCS対応が得られる、ということはめったにないので、自分のCS事情を説明し、試行錯誤で治療を進めていくことになります。(これは、CS対応の歯科医院でも同じことです。) この時、人対人のコミュニケーションが重要になってくるので、最初に歯科医師の人格をよく見極めた方がよいです。

「対等にコミュニケーションがとれること」
「先入観を持たずに、人の話を聞き入れる姿勢があること」
「新しいものにも取り組む姿勢」
「親切で丁寧な対応」
このへんがポイントになってきます。

 歯科医は、「技術」と「コミュニケーション能力」の両方が求められる仕事です。この2つは、両立しにくい性質ではないかと思います。職人肌の人は、コミュニケーションに疎いことが多いような気がします。どの歯医者さんでも、得手・不得手があります。どちらかに極端にかたよっているような人は避けた方が無難です。(歯科医の技術を患者が見極めるのは難しいので、まずはコミュニケーション能力を見て、判断するのがいいと思います。)

 歯科医師のみならず、人間全体に言えることは、人によって「未知のものを受け入れる能力」が違うということです。(私はどちらかというと、この能力が低いタイプなので、自戒しています。)CS患者が歯科医師選びをするコツは、この能力の高い人を探すことです。この能力の高い人は、「化学物質過敏症? そんなものあるわけない」と切り捨ててしまったり、「この歯科材料は安全なんだから、これでぐあい悪くなる人はいないはずだ!」などと断言することがない人です。

 こうして考えてみると、歯科医師選びも、普段CSについて周囲の人の理解を得ようとするのと、変わりないことがわかります。周囲の人の中にも、よく理解してくれる人と、そうでない人がいるからです。

 相性のいい歯科医師を選ぶことは、のちのち治療を勧めていく上で、重要なポイントになります。問題が起きたときに大変な苦労をするか、歯科医と協力して乗り越えていけるかは、最初の歯科医選びにかかっています。ドクターショッピングを恥じることなく、納得いくまで探して欲しいと思います。(私もそのような理由で、8軒の歯科医院を渡り歩きました。)また、治療途中で、どうしてもその歯科医師とはやっていけないと判断したときは、転院を考えるのもやむを得ないことだと思います。

 私が歯科のドクターショッピングをはじめたのは、2000年からです。顎関節症の治療がうまくいかず、それまで診てもらっていた歯科医師からはサジを投げられました。私は、当時、顎の痛みのため食事をとることができなくなっていました。すぐにでも診てくれる歯科医師をさがさなければなりませんでした。何軒もまわって、精神病扱いされたり、信じてもらえなかったり、治療ミスをされたり、さじを投げられたり…といろいろありました。8軒目でようやくよい歯科医にめぐりあうことができ、現在でもそこに通っています。私は、顎関節症で苦労しましたが、CS患者の皆さんが歯科医院を探す苦労も、これと変わらないはずです。はじめて歯科医院の門をくぐるのは勇気のいるものです。私と同じ思いをしている人がたくさんいることを思い 、「少しでも助けになれば」と、この章を書きました。

 

*1 この方法を実際に行ったCS患者がいます。次のブログにその体験が書かれています。
「グッピーat変奏曲」mix-hanabiさん  2005年9月9日の記事

http://ameblo.jp/mix-hanabi 

*2 この体験は、次のブログで読むことができます。
「日記日記」直子さん  2005年11月27日の記事
http://www.himajin.net/diary/p7307.html 

 

〔2〕化学物質過敏症の患者が歯科治療を受けるとき

a.初診

 初診時が一番最初の重要なポイントです。緊張しながら、歯科医院の玄関をくぐります。初診の時には、「この歯医者さんはCSの私でも見てくれるだろうか」と思ってしまいますが、選択するのは、歯科医師ではなく、あなたの方です。「この歯科医師を主治医にするか、よく見極めて選ぼう」という姿勢でのぞむと、歯科医院の空気や雰囲気にのまれずにすみます。

 初診時に、私が是非おすすめする方法は、レポートを持参することです。それまでの「歯科治療歴」「化学物質過敏症歴」「苦手な化学物質や歯科材料」を簡単にまとめたレポートを歯科医師に手渡します。(私の場合は、これに「顎関節症の治療歴」が加わりました。) この時、十分に心を開いて対応してくれる姿勢のある歯科医師なら、「こういうものがあると助かります。」と言ってくれます。見向きもしなかったり、面倒くさそうにする歯科医は要注意です。(この方法は、顎関節症の掲示板で、ある患者が提案していたものです。CSとは病気は違えど、患者の苦労は同じです。学べることはたくさんあります。)*3

 評判のいい歯科医院は、混んでいることが多く、長々と説明している時間が少ないので、その意味でもレポートを手渡すメリットは大きいです。なるべくわかりやすく簡潔にまとめることがポイントです。

b.治療の流れ

 標準的な治療の流れは、次のようになります。

 まず、診断のためにレントゲンを撮ります。そのあと、歯がどのような状態で、どう治療していくか、説明があります。その後、歯科医師が適切な歯科材料を選択し、それを使って治療をしていきます。この時、どのような歯科材料を使うのかの説明はないのが普通です。標準的な治療の時は、歯科材料の選択から、治療方法まで、歯科医師にお任せでやってもらうことになります。

 CS患者の場合は、この流れに棹さすことになります。はじめの説明のとき、どのような歯科材料を使うのか説明してもらい、それが自分にとって安全なものなのかを判断しなければなりません。これは実はとても難しいことです。この時点では、CS患者本人も歯科医師も、その歯科材料が安全かどうか判断できないからです。CSを発症してから歯科治療を受けたことがある人は、その時「安全だったもの」「反応を起こしたもの」の経験をもとに、判断することができます。CSを発症してから初めての歯科治療の場合は、それまでは大丈夫だった歯科材料に反応する可能性があるので、一から模索しなければなりません。

 CS対応の歯科医院でも、同様のことが言えます。歯科医はこれまでの経験から「この歯科材料は、たいていのCS患者に大丈夫だったから」という理由で、歯科材料を選択します。これで反応を起こさなかった場合は、うまくいくのですが、反応を起こすと大変な事態になります。私は、過敏性の高さから、「CS患者に比較的安全」とされている歯科材料にも反応したため、大変な苦労をすることになってしまいました。(ただし、「CSに比較的安全な歯科材料」を知っていることは重要な武器になります。それだけ反応を起こす可能性が低くなるからです。このことについては、後に詳しく述べます。)

 自分にとって、安全な歯科材料を選択する方法を書いていきます。

どのような歯科材料を使用するのか、歯科医に説明してもらいます

その歯科材料のサンプルをもらいます。
たいていの歯科材料はペースト状のものが多いので、紙パレットの上に出してもらいます。

できれば、そのサンプルを家に持ち帰って、嗅いでみます。
歯科医院の空気は、消毒や歯科材料のにおいで大変悪くなっているので、その中でサンプルをかいでも判断できないことがあります。サンプルを試すときに問題となるのは、「量・距離・時間の法則」です(→第1章〔1〕−c)。サンプルをかいで大丈夫だったとしても、実際使用してみるとダメになることがあります。サンプルをかぐ時間は、短時間ですが、口の中に入れて治療すると、その歯科材料は、その後何年にも渡って、口の中で揮発し、それをかぎ続けることになります。「サンプルで試したときと、実際に治療に使ったときとでは、反応が違う」ということを、あらかじめ、歯科医師に説明しておいた方がいいです。しかし、これは理解してもらうのに、とても労力がいることです。私は、診察のたびにレポートを提出しているので、その中でCSについて詳しく説明するように努めました。

 また、歯科材料に対するアレルギーが心配な方は、使用する歯科材料を、すべてパッチテストで検査することができます。実際のこの方法を試してみたCS患者の方がいます。*4

4.大丈夫そうなら、その歯科材料を使って治療してもらいます。ダメそうなら、かわりのサンプルをもらいます。(→2.に戻る)
治療に入る前に、治療中CS反応を起こした場合のことを、歯科医師と打ち合わせておきます。あらかじめ、「CS反応を起こしたら、どういう症状が出るのか」を歯科医に説明します。歯科医も未知の病気と向き合うわけなので、不安は大きいはずです。「最悪の反応が出たとき、どのようになるのか」「どのような対応をしてもらいたいのか」を打ち合わせします。症状が重い人は、家族の人に付き添ってもらった方がよいでしょう。(私は夫に付き添ってもらっています。)ひどい症状が出たとき、1人では家に帰れなくなるからです。

5.治療後の反応を見ます。
治療中、治療後にCS反応を起こし、症状が出るようなら、それを取り外してもらわなければなりません。治療中、明らかに強い症状が出る場合は、すぐに取り外してもらうことになります。

 厄介なのは、治療後、少しずつぐあいが悪くなっていき、何時間か後にひどい症状が出るときです。この時は、症状と歯科材料との関連をよく見極めなければなりません。身のまわりにCSの原因となる物質はたくさんあるので、歯科治療後にそれらに曝露して症状が出ると、歯科治療が原因なのか、他のものが原因なのか、区別するのが難しくなります。これに対応するために、私の場合は、毎日つけている詳細な日記がとても役に立ちました(→第1章〔1〕−a)。

 歯科材料によって、CS反応が起きたとき、症状が出ている中で、その対応を考えなければなりません。これは、とても大変なことですが、ここが踏ん張りどころです。私もこれまで何度これを乗り越えてきたことか…。歯科医師に「CS反応が起きたこと」「歯科材料を取り外して欲しいこと」を伝えなければなりません。ここで歯科医師の反応は2通り考えられます。

(1)「わかりました。はずしましょう。」
(2)「そんなわけない。」

困るのが(2)の方で、とにかく説得しなければなりません。ぐあい悪い中、力を振り絞ってやらなければ…。場合によっては、転院を考えなければなりません。(1)の方は、取り外したあと、かわりのものを選ばなければならなくなり、それも大変です。2.に戻って、やり直しです。

 このような事態が起きたとき、CS患者本人は、CS症状が出ているので、大変な事態になりますが、歯科医師の方の戸惑いも大きいものです。ここをどう乗り越えるか、CS患者と歯科医師の精神力が問われる場面だと思います。


6.代わりの歯科材料を試してみます。
代わりの歯科材料を試してみて、それも合わないと、さらに2.に戻って繰り返しとなります。いくつか試すと、たいていは、体に合うものが見つかるはずです。時には、使える歯科材料が全滅となることもあります。その時は、歯科治療自体を諦めるしかありません。(私は現在、この状態に陥っています。)
 また、ダメなものの中でも、比較的ましなものを選択することもあります。この場合は、CS症状を起こしてしまいますが、歯科治療を行わないことによるデメリットがあまりにも大きいときは、この選択を行うしかありません。

 このような流れで、CS患者の歯科治療は進みます。歯は自己治癒するということはないので、治療しないとどんどん悪くなっていってしまいます。CS患者の歯科治療は苦労が多いのですが、なんとか乗り越えていって欲しいと思います。

[記録のすすめ]
 歯科治療に際して、記録をとることをおすすめします。1回の治療ごとに、「どのような治療をしたのか」「使った歯科材料の名前」「どのような反応が出たか」を記録していきます。記録しておくと、自分にとって「安全な歯科材料」「有害な歯科材料」がよくわかるので、次からの治療にとても役立ちます。また、歯科材料でCS反応を起こしたときに、その後どのように対応してもらうのかを決める上でも役立ちます。

[レポートのすすめ]
 私は毎回必ず、「治療の結果がどのようになったか」「次回の治療についての要望」をレポートにして、歯科医師に提出しています。治療の結果がどのようになったのか、歯科医師が確認することができ、次の治療に役立ててもらうことができます。また、CS患者の実態を知ってもらい、今後、歯科治療を受ける他のCS患者のためにも、役立ててもらいたいと思いました。歯科医がCS対応のノウハウを蓄積していってくれれば、他のCS患者の利益にもなると思ったからです。

 レポートを書くのは、とても苦労しました。まず、歯科治療についての知識が全くないので、どんな治療をしたのか、よくわからないのです。「治療に使ったアレは、何という名称のものなのだろう?」と悩みます。CSの独特の感覚を伝えるのにも、とても苦労しました。そのように悩みながら、レポートを書いていくうちに歯科治療や歯科材料についての知識も増えていき、CS対応の歯科治療について、よく考えられるようになってきました。

 私の歯科治療は、大規模で複雑なものであり、使う歯科材料が多く、私の過敏性が高かったため、このようにレポートで情報のやりとりをしなければ、ここまでやってこれなかったと思います。

 何につけても、記録をとったり、文章に書き表したりすることは、自分の身に起きていることを確認し、理解し、対策を立てるために、とても役に立ちます。レポートを書くことを是非おすすめします!
 

*3 「顎関節.com」顎関節になってしまった人達の掲示板  過去ログNo.6937のレス
http://www.gakukansetsu.com/

*4「〜☆化学物質過敏症(CS)を発症したままさん☆〜」  2005年3月23日の記事
http://blog5.fc2.com/mamasanndesu/ 
(このブログは、CS患者の歯科治療を自力で模索していっている様子が書かれていて、とても参考になります
。)

 

 

〔3〕歯科治療の基礎知識

 歯科治療がどのように行われるのか、どのような歯科材料を使うのかについて、基本的な知識をまとめてみました。患者が歯科治療の知識を持っていることは、とても重要なことです。どのような治療が行われるのかがわからなければ、どのようにCS対応してもらえばいいのかもわからないわけですから…。

 私は、自分が治療を受ける際に、そのつど治療内容について、あらかじめ本で調べました。しかし、歯科の専門書は、とっつきにくいものです。私は専門用語を歯科事典で引きながら、読みくだいていきましたが、とても時間がかかりました。歯科治療の内容を、素人にもわかりやすく伝える適切な書物はないのが現状です。

 ここでは、私が調べた内容や、これまで受けてきた治療経験から、歯科治療についてまとめてみました。何もわからずに歯科医院の門をくぐるのは、とても心細いものです。ここで知識をつけて、少しでも安心して歯科治療を受けられることをのぞみます。

 内容は、
標準的な虫歯治療のしかた
標準的な歯科材料
CS患者にとって、比較的安全といわれている歯科材料
マルガリータの経験
となっています。

 歯科治療の説明には、なるべく専門用語を使わず、わかりやすい表現に努めました。もっと詳しく知りたい方は、文中の「さらに詳しく」をクリックしてください。ここに専門用語と詳しい成分名を載せました。専門用語は、さらに文献で調べたい方にとって、必要となると思い、載せました。歯科事典を引くときなどにご活用ください。

 なお、ここに書いたことは、マルガリータが自分で調べたことを前提にしています。私は、歯科の専門家ではありません。実際の治療に際しては、歯科医師に相談し、よく確認してから治療を受けるようにしてください。もし、このサイトの内容と歯科医師の見解が異なるようであれば、歯科医の指示に従うようにしてください。

 また、歯科医院によって、どこまで対応してくれるかは、変わってきます。このサイトに出てきた内容をすべて満たしてくれるとは限らないので、よく歯科医師と相談してください。歯科材料は、歯科医院ごとに扱っているものが違います。もともとその歯科医院にない材料については、患者が望んだとしても、対応は難しいかもしれません。ケース・バイ・ケースなので、与えられた条件の中で最良の選択ができるように、がんばってください。

 文章中に出てくる商品名は、「こんな商品があります」という一例としてのせました。特にCS患者にお勧めのもの、というわけではありません。(歯科治療の本に載っているのを書き写しました。)CSは個人差の大きな病気なので、自分で自分に合う歯科材料を見つけて欲しいと思います。ここに載っていない歯科材料・商品名については、インターネット検索などで、自分で調べてみてください。

 

 a.歯科医院の設備

[待合室]
 歯科医院には独特のにおいがあります。消毒に使うアルコールのにおい、歯科材料のにおい…それだけで、CS患者はたじろいでしまいます。たいていの患者は、待合室で長時間待っているのは、とてもつらいと感じるはずです。

 他のCS患者さんで、次のように対応してもらっている方がいます。
「順番が来るまで歯科医院の外で待ち、順番が来たら、携帯電話に連絡を入れてもらい、診察を受ける」
このような方法をとれば、歯科医院の空気を長時間かぐことなく済みます。*1

[診察台]
 診察台に、前の人のにおいがついていることがあります。私が治療を受けたときは、香水のようなにおいがついていたことがありました。医院に備えつけのバスタオルを敷いてしのぎました。自分で持っていってもいいと思います。診察台は、消毒しているようですが、私は反応を起こしていません。消毒に反応する人にも、バスタオル作戦は有効だと思います。

 [エプロン
 診察を受けるとき、使い捨てタイプのエプロンを掛けます。これが苦手なCS患者もいるようです。(私は大丈夫です。) 私が使っているのは、表が紙、裏がビニールのものです。苦手な人は、自分が使えるビニールや布を持参して、代わりに使うといいと思います。

[水]
 口をすすぐ水は、少し薬くさいにおいがします。私は少し苦手なので、自分ですすぎ用の水を持参しています。浄水器の水やミネラルウォーターを持っていくといいでしょう。

[ゴム手袋]
 歯科治療の時に、歯科医はゴム手袋をはめます。これはゴムのにおいがしますが、治療時間は30分から1時間くらいなので、私はなんとか耐えられます。自分の手にはめて、長時間過ごさなければならないとしたら、とても耐えられないでしょうが…。

 ゴム手袋は、感染防止のために必要なものなので、治療時間中だけだと思って、がまんできるのなら、そうした方がいいです。どうしても耐えられない場合は、歯科医に相談してみてください。

 また、天然ゴム(ラテックス)にアレルギーがある人は、「ラテックスフリー」のゴム手袋があるので、それを使うようにお願いしてみてください。

 b.診断

 はじめにレントゲンを撮ります。私は特に反応しないです。電磁波過敏症の人で、レントゲンを心配する人は多いようですが、実際に反応する人は少ないようです。レントゲン撮影は、診断や治療方針を決める上でとても大切なものなので、できるだけ撮った方がいいと思います。レントゲンを撮らないと、歯科医は手探りで治療を進めていかなければならず、治療の成功率が下がります。そうすると、より大がかりな歯科治療を行わなければならなくなり、使用する歯科材料が増えます。そうすると、CSのリスクも高いものになってしまいます。レントゲンを撮ることのメリットは大きいので、ぜひ受けて欲しいと思います。

 c.軽い虫歯の治療

 治療の流れ
虫歯の部分を削って、そこを詰めます。



[ 麻酔]
 まず、麻酔を打ちます。この麻酔でぐあいが悪くなる人が多いのですが、その反応は、「アレルギー反応」と「それ以外の反応」とに分かれます。アレルギーを起こすと、じんましん・呼吸困難・のどの浮腫・血圧低下などの症状が現れ、とても危険です。歯科医院には、アレルギー性ショックを起こしたときの救急用対応キットがあります。

 麻酔でアレルギーを起こす人には、麻酔を使えません。麻酔薬が何種類かあるので、薬を変えれば使えるものが見つかるのかもしれません。歯科医師に相談してみてください。

 麻酔薬でぐあい悪くなる人の中で、アレルギーがある人の割合は、それほど高くないようです。*2 大部分は、アレルギー以外の反応です。麻酔薬には、効果を長持ちさせるために、血管収縮剤である「エピネフリン」(アドレナリン)が入っています。これは、副腎の髄質ホルモンで、もともと体内に存在する物質です。体内で「エピネフリン」の量が多くなると、交感神経が興奮し、心臓がドキドキしたり、 胸苦しさが出たりします。血圧が上がったり、過呼吸になる人もいるようです。*3 私の場合も、麻酔を打つと、手の震えが出ます。しかし、これは、それほどひどい症状ではないし、麻酔が切れれば治まる反応なので、私はかまわず麻酔を使ってもらっています。

 しかし、麻酔薬に反応して、強いCS症状が出てしまう場合は、麻酔の使用を考えなくてはなりません。症状としては、上記の「エピネフリン」による反応がひどくなる場合と、それ以外の症状とがあります。
 例えば、CS患者が経験した反応は次のようなものです。
「 ふらつく。足がこわばる。体が重い。耳がふさがった感じ。目がかすむ。息苦しい。」*4

 麻酔が大丈夫かどうかを判断する方法は、次のようなものです。

(1)麻酔薬で皮内テストをする。
歯科で麻酔の試薬をもらい、皮膚科で皮内テストをすると、アレルギーがあるかどうかがわかります。試薬を皮膚に注射して、反応を見る検査です。あるCS患者が、北里研究所病院のアドバイスを受けて、このテストを行った例があります。CS支援センターの会報「CS支援」19号に詳しく載っています。アレルギーが心配な方は、受けてみるといいと思います。*5

(2)麻酔薬を綿球にしみ込ませ、口の中に置いて反応を見る。
 歯科医院で行うテストです。口の中で揮発してきた麻酔薬を吸ったときに、どのような反応が出るか見ます。*6

 このようにテストしてみても、実際に麻酔を打ったときにどのような反応が出るかは予想できないものです。それでも、いきなり打つよりは、判断しやすいと思います。

 麻酔薬は何種類かあります。一番よく使われるのは、「歯科用キシロカイン」(デンツプライ三金)という麻酔薬です。私はこれを使っています。この麻酔薬には、先ほど述べたように、「エピネフリン」という血管収縮薬や、防腐剤、酸化防止剤が入っています。「エピネフリン」に反応する人は、「歯科用シタネスト−オクタプレシン」(デンツプライ三金)を使うといい場合もあるようです。この薬にも、血管収縮剤は入っていますが、「フェリプレシン」という成分です。「エピネフリン」がダメでも、こちらは大丈夫な場合があるそうです。*7

 また、「スキャンドネスト」(日本歯科薬品)という麻酔薬は、血管収縮剤も防腐剤も入っていません。CS患者対応の歯科医院だと「スキャンドネスト」を使うことが多いようです。私はこの「スキャンドネスト」でひどいCS症状を起こしてしまいました。主成分である「塩酸メピバカイン」に反応したようです。本当にCS患者の個人差は大きいものだと実感します。歯科医師とよく話し合って、麻酔薬を決めてください。

 麻酔薬にCS反応を起こしたときは、水を大量に飲むとよいです。麻酔薬は、体内で代謝され、尿とともに体外に排泄されます。

<麻酔薬一覧表>

成分 商品名 製造・販売 血管収縮薬 防腐剤(メチルパラベン) 酸化防止薬(亜硫酸塩)
塩酸リドカイン 「キシロカイン」など デンツプライ三金 エピネフリン

塩酸プロピトカイン 「シタネスト−オクタプレシン」 デンツプライ三金 フェリプレシン

塩酸メピバカイン 「スキャンドネスト」 日本歯科薬品

麻酔薬の商品名がわかっているときは、こちらのサイトで全成分名を調べることができます。

  
医薬品医療機器情報提供ホームページ 内 添付文書情報
http://www.info.pmda.go.jp/ 内 http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html

もし、使える麻酔薬がないとしたら、「麻酔なし」での治療となります。

※「塩酸リドカイン」製剤のうち「キシロカイン」は、2007年から防腐剤「メチルパラベン」が添加されなくなりました。(2008年1月追記)
 

[削る]
 
虫歯の部分を染め出して、削る場所をわかりやすくするために、「齲蝕検知液(うしょくけんちえき)」というものを使うことがあります。成分は、「アシッドレッド・プロピレングリコール液(1.0%)」です。
使う場合は、あらかじめ、齲蝕検知液のにおいを嗅がせてもらった方がいいでしょう。

[つめる]
 虫歯を削ったあと、あいた穴に「つめもの」をします。この時、よく使われるのは、次の2つです。

(1)グラスアイオノマーセメント
(2)コンポジットレジン

以下に説明します。

(1)グラスアイオノマーセメント
歯の色をしたセメントで、粉と液体を練り合わせて使います。時間がたつと固まります。

主成分
 粉:フルオロアルミノシリケートガラス
 液体:ポリアクリル酸、マレイン酸 *8,*9
この他にさまざまな添加剤が入っています。

 CS患者が虫歯のあとをつめるとしたら、この「グラスアイオノマーセメント」が最も害がないといわれており、第一選択肢となります。*10

 「グラスアイオノマーセメント」は硬さはあるのですが、少しもろくて崩れやすい性質があるので、それを補うためにプラスチックを添加したものがあります。「レジン添加型グラスアイオノマーセメント」です。

 歯科の分野で「レジン」といった場合、「プラスチック」と置き換えて考えれば問題ないと思います。歯科用の「レジン」は、ほとんどすべて、アクリル樹脂です。ガラスの代わりに使用する透明なアクリル板と、基本的には同じ素材です。正式名は、「ポリメタクリ酸メチル(ポリメチルメタクリレート)」。(セーターなどの「アクリル繊維」は、同じ「アクリル」という名前でも、別のものです。こちらは、「アクリロニトリル」という名前です。)*11 歯科用のレジンは、ポリメタクリル酸メチルにさまざまな添加剤を加えて、使っています。

 「レジン添加型グラスアイオノマーセメント」は、レジン無添加のものより優れた性質があるのですが、CS患者の場合、レジンに反応する可能性があります。まず、レジン無添加型のものを試してみた方がいいでしょう。
 
 「グラスアイオノマーセメント」商品名(例)
「Fuji Ionomer TypeII」(ジーシー)
「Fuji IX」(ジーシー)をはじめ、いくつもあります。*12

「レジン添加型グラスアイオノマーセメント」商品名(例)
「Fuji Ionomer TypeII LC」(ジーシー)
「Vitremer」(3M)をはじめ、いくつもあります。*13


 CS患者によいとされているグラスアイオノマーセメントですが、私は使えませんでした。ひどい刺激を感じます。メーカーが違うものを3種類ほど試してみましたが、いずれも反応しました。人によりけりです。しかし、たいていの患者さんは大丈夫なようですので、試してみてください。

→さらに詳しく〈1〉グラスアイオノマーセメントの組成(主成分)


(2)コンポジットレジン
 白いペースト状のものを削った穴につめ、光を当てて固めます。ピッピッという音がして光が照射されるものです。オレンジ色のプラスチック板がついている照射器から、青い光が発せられます。これは、光に反応して硬化しはじめるプラスチックです。

 主成分
  ガラスなどの粉末
  レジン(プラスチック)
  光に反応する成分
  プラスチックの重合開始剤(硬化をスタートさせる成分)
  硬化を促進する成分
  着色料
これに、さまざまな添加剤が入っています。*14

 「コンポジットレジン」は、砂利をアスファルトで固めた道路の舗装材のような構造をしています。ガラスをプラスチックで固めたような構造です。プラスチックだけだとすり減ってしまうので、ガラスの粉末を混ぜることで、硬さを出しています。

 「コンポジットレジン」とは、「コンポジット=複合」「レジン=プラスチック」という意味です。「コンポジット」は、ガラス粉末とプラスチックが混じり合っている様子を表しています。

 コンポジットレジンを使うときは、あらかじめ、歯の表面に処理剤を塗ります。「コンポジットレジン」が歯にくっつきやすくするためのものです。歯の表面を酸で溶かしてざらざらにし、接着力のあるペーストを塗ります。その上に「コンポジットレジン」をのせて、光で固めます。

 表面処理剤 主成分
  リン酸塩やクエン酸など+接着成分   *15,*16

「コンポジットレジン」を試す場合は、できれば表面処理剤もあらかじめ嗅がせてもらった方がよいです。

 「グラスアイオノマーセメント」が使えない私は、「コンポジットレジン」を使っています。いくつかのメーカーのものを試してみましたが、合うものと合わないものがありました。合うものは少なかったのですが、それを使い続けています。
 
 「コンポジットレジン」商品名
ここに書ききれないくらいたくさんの商品があります。上記の成分名は主成分で、商品によって、さまざまな添加剤が入っています。サンプルを試してみて選択することをおすすめします。

→さらに詳しく〈2〉コンポジットレジンの組成(主成分)
 

d.深い虫歯の治療

 治療の流れ
虫歯を削る
(図1)→型をとる→仮のつめものをする(図2)→金属の「つめもの」「かぶせもの」をつける(図3)

 もっと深い虫歯になると、深く削り、そこに金属の「つめもの」「かぶせもの」を入れることになります。金属のものを作るのに時間がかかるので、削ったところにいったん仮のつめものをしておき、次回の診療で金属のものを入れます。

[型をとる]
 虫歯を削ったあと、型を取ります。それをもとに、金属製の「つめもの」「かぶせもの」を作ります。プラスチック製か金属製の馬蹄形をしたプレートに、ゴムのようなペーストをたっぷり乗せ、それを歯に押し当てて型を取ります。

 これはけっこうにおいます。CS患者としては、ややビビってしまうのですが、使用する時間は、ほんの5分くらいです。この間、苦しくてもジーッと我慢していると終わります。口の中に残ったにおいは、歯科治療後すぐに歯磨きすると、薄まります。型を取るペーストのことを「印象材 」(いんしょうざい)といいます。

 いくつかの種類があります。

  アルジネート印象材   主成分:アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム(海草から抽出)
  寒天印象材       主成分:寒天 
  シリコンラバー印象材  主成分:シリコンゴム  *17,*18           

 私がいつも使っているのは、アルジネート+寒天印象材です。(組み合わせて使います。)主成分の他に、いろいろな添加剤が入っていて、けっこうにおいます。私はそれほど反応は起こさないのですが、このにおいが苦手な人は多いかもしれません。

 私はシリコンラバー印象材を、使ったことはないのですが、CS患者は苦手な方が多いはずだと思います。まずは、アルジネート+寒天印象材を試してみるのがいいと思います。

→さらに詳しく〈3〉印象材組成(主成分)

 
[かみ合わせの記録をとる]


 大きな注射器のようなものから、ピンク色や水色のゴム状のペーストが「うにゅ〜」と出てきます。これを歯の上にのせ、かみ合わせると、かみ合わせの記録がとれます。

 1分くらいで固まります。これは、シリコーンゴムが主成分です。におい・刺激がありますが、1分ほどなので、何とかがまんできます。これも、治療後、歯磨きすると、においが薄まります。


 かみ合わせの記録をとるのに、パラフィンワックスを使うこともあります。これは、長方形や馬蹄形をしたピンク色(歯茎の色)のプレートです。主成分は、石油から精製したロウです。

  これを歯の上にのせかみ合わせて記録をとります。口に入れる直前に、ガス火であぶって、プレートを溶かして柔らかくします。この時、ロウのにおいが出ます。これは、においが強いです。できれば、シリコンの方を使ってもらった方がいいでしょう。

[削ったところに仮のつめものをする]

 型をもとに、次回の診察までに、金属製の「つめもの」「かぶせもの」を作ります。その間、治療したところに仮のつめものをします。

 いろいろなつめものがあります。

テンポラリーストッピング
  植物から取ったゴム状の樹脂に酸化亜鉛などを加えたもの。火であぶって溶かして使う。
  溶かしたとき、ゴムのにおいがする。

酸化亜鉛ユージノールセメント
  チョウジ油(香辛料のクローブの実から取った油)と酸化亜鉛などをませたもの。独特のにおいがある。

レジン系仮封剤
  プラスチック素材のもの。筆で歯の上にのせて、口の中で固めるものなどがある。

ポリカルボキシレートセメント
  酸化亜鉛とポリアクリル酸を混ぜたもの。*19,*20,*21

虫歯を削ったあと、神経の炎症をおさめるために、消炎効果のあるものや、殺菌効果のあるものをつめることもあります。

 「酸化亜鉛ユージノールセメント」は、消炎効果のあるつめものです。ユージノールは、「チョウジ油」の成分です。チョウジの実は、香辛料のクローブのことです。*22  私の主治医は、「ユージノールはとてもにおいが強いので、CS患者が使うのは難しいのではないか」と言っています。私自身は、嗅いだことがないので、わかりませんが…。よく確かめてから使うようにしてください。

 仮のつめものを選ぶときは、サンプルをよくかいでから選ぶのがよいと思います。また、使用期間が1〜2週間と限られているので、少し反応を起こしたとしても、我慢する、という手もあります。

 私は、「ポリカルボキシレートセメント」を使っています。
  主成分 粉:酸化亜鉛
           
液体:ポリアクリル酸、イタコン酸 *23

粉と液体を混ぜ合わせ練って使用します。時間がたつと固まります。(5分くらい)
   
商品名 「ハイボンドテンポラリーセメント〈ハード〉」(松風)

      
粉と液                混ぜ合わせて練る          使用する直前

私にとっては大丈夫な材料ですが、CS患者の中には、このセメントが使えない方がいたようです。*24  個人差があるので、自分に合うものを見つけることが大切です。

→さらに詳しく〈4〉ポリカルボキシレートセメントの成分(主成分)

 

[仮の歯を作ることもある]
 場合によりけりですが、削った量が多いときなど、仮の歯を作ることがあります。これは、粉と液体を筆で混ぜ、それを口の中に入れ、筆で盛りながら固めていくものです。液体の方が強烈な刺激です。私は、自分がCSだと気づく前から、これがとても苦手で、これを使われるたびに体調を崩していました。これが口の中にあると、食事は当然のどを通らないし、ぐあいが悪くて寝込んだこともありました。「即時重合レジン」といいます。

 主成分  粉:ポリメチルメタクリレート(ポリマー)(アクリル樹脂)、硬化を開始させる成分、着色料
     液体:ポリメチルメタクリレート(モノマー)(アクリル樹脂)など *25


これを混ぜ合わせると固まり始めます。

  商品名(例)「ユニファストII」(ジーシー) *26

 私は本当に苦手なので、現在通っている歯科医院では、これを使う治療をする人と同じ診察時間にしないように配慮してくれています。他の人の治療で使っていても、同じ診察室にいればにおいがひどいからです。(CS対応の歯科医院でないと、この対応は難しいとは思います。)

 これが苦手な人は、歯科医師とよく相談して対応を決める必要があります。なるべく使わないようにするか、使うとしても使用期間を短くしてもらうなどの方法があります。

[つめもの・かぶせものを入れる]
 保険診療なら、金属製のものが普通です。「金銀パラジウム合金」です。

 成分 金 12%
    銀 55%
    銅 15%
    パラジウム 20%  が一般的 *27

金属のかぶせもの      

 金属アレルギーが心配な人は、皮膚科で検査してもらえます。私は、シール状のアレルゲンを腕に貼り、腫れぐあいで検査しました。検査したのは、10種類のアレルゲンでした。金・銀・銅・パラジウム・亜鉛・クロム・コバルト・ニッケル・水銀・ホルマリン。そのうち、陽性になったのは、「ニッケル」で、他のものは、陰性でした。

 金属アレルギーがある人は、アレルゲンとなる金属が入っていないものを使うことになります。この場合、保険診療できず、自費診療になることが多いようです。

 また、メタルフリーの材料もあります。セラミック(陶材)、硬質レジン歯などです。   
 セラミック材料は、陶土を炉で焼いて作ります。

商品名(例) 
「エンプレス」(イボクラールビバデント)
「プロセラ」(ノーベル・バイオケア・ホールティング )
「インセラム」(VITA)

などがあります。*28,*29,*30

 硬質レジンは、前に紹介した「コンポジットレジン」と同じつくりです。ガラスなどの粉末をプラスチックで固めたもので、光を照射して固めます。天然の歯と同じくらいの硬さを出すために、ガラス粉末の配分が高くなっています。

商品名(例)
「ソリデックス」(松風) 
「エステニア」(クラレ)
「アートグラス」(ヘレウスクルツァー)
「タルギス」(イボクラールビバデント)
「ベルグラス」(SDS Belle)
「グラディア」(ジーシー)
「セラマージュ」(松風) 
などがあります。*31,*32,*33


[セメント]
 「つめもの」・「かぶせもの」をくっつけるために、セメントが必要です。現在よく使われているものは、
1.グラスアイオノマーセメント
2.レジン添加型グラスアイオノマーセメント
3.接着性レジンセメント

この中でCS患者に最も安全だと考えられているのが、1.のグラスアイオノマーセメントです。グラスアイオノマーセメントについては、前に書きました。

 グラスアイオノマーセメントが使えない人は少ないとは思いますが、その場合は、接着性レジンセメントを試すことになります。何種類かあるので、サンプルをもらい、よくにおいを嗅いで決めてください。

 接着性レジンセメントは、「レジン=プラスチック」なので、プラスチック素材の接着剤ということになります。

 商品名(例) 「パナビアフルオロ」(クラレ)、「スーパーボンドC&B」(サンメディカル)
をはじめ、いくつかの商品があります。*34

→さらに詳しく〈5〉接着性レジンセメントの成分(主成分)

 接着性レジンセメントも「コンポジットレジン」と同じように、前もって、表面処理剤を塗るものがあります。表面処理剤の主成分は、「コンポジットレジン」のものとほぼ同じです。

 メタルフリーの「つめもの」「かぶせもの」をつけるときに、ものによっては、接着性レジンセメント以外のセメントは使えないことがあります。そのため、接着性レジンセメントにCS反応を起こす人は、その「つめもの」「かぶせもの」がつけられないことになってしまいます。あらかじめ、よく歯科医師と相談するようにしてください。

 私はグラスアイオノマーセメントが使えません。それで、どうしているかというと、「つめもの」が必要なところには、直接「コンポジットレジン」を入れて固めています。「かぶせもの」は、現在かみ合わせの調整中なので、仮どめ用のセメントを使っています。「ポリカルボキシレートセメント」です。このセメントについては、前に書きました。

→さらに詳しく〈6〉 深い虫歯の治療・専門用語

 

e.神経の治療

 虫歯が深くなって神経が炎症を起こすと、歯がとても痛みます。この時は、神経の治療をしなければなりません。神経の炎症が軽いときは、炎症をおさめて、神経を残す治療をします。炎症が重いときは、神経を抜かなければなりません。

→さらに詳しく〈7〉神経の治療・専門用語 1

[炎症をおさえる]
 虫歯を削ったところに、殺菌作用や消炎効果のある薬品をつめます。虫歯というのは、要するに細菌感染です。神経が痛むのは、細菌感染のために炎症を起こしているからです。そのため、殺菌作用の強い薬を患部に塗って、炎症を鎮めます。このとき使う薬が、刺激の強いものばかりです。CS患者にとっては、要注意の薬品です。さまざまな配合がありますが、次のようなものが原料となっています。フェノール系薬剤や揮発油類などです。

フェノール 
  殺菌・防腐剤の原料となる成分。特有の臭気を持ち、有毒。

カンフル 
  樟脳の成分。防腐・防臭剤・防虫剤に使われる。

チモール 
  タチジャコウソウ(ティムス)という植物からとれる結晶。独特の香りがある。寄生虫の駆除剤。

メントール 
  ハッカ油の成分。

パラモノクロロフェノール 
  フェノールよりさらに殺菌力の強い成分。

ユージノール 
  チョウジ油(クローブの実からとれる油)。独特のにおいがある。

パラホルムアルデヒド 
  ホルムアルデヒドの重合体。体温により徐々に分解して、ホルムアルデヒドを発生する。

硝酸銀

アンモニア


など。*35,*36,*37,*38,*39

 私の場合は、削ったあとに、何の薬品も使わず、ただ「コンポジットレジン」でふさいだだけでした。「このような刺激の強い薬品は使えない」と、歯科医師が判断したのだろうと思います。

さらに詳しく〈8〉歯髄鎮痛消炎剤

[ラバーダム]
 治療中、神経のところに外から雑菌が入らないように、ゴムのシートをかぶせます。これは、天然ゴムのものと合成ゴムのものとがあります。「ラバーダム」といいます。このゴムシートは、とてもにおいます。CS患者の中には、使えない人もいると思います。私は最初にこのシートを使ったとき、その刺激のためにCS反応を起こしてしまい、もう二度と使いたくないと思いました。しかし、これを使わなかったために、治療後に細菌感染がひどくなると厄介なので、二度目もあえて使ってもらうことにしました。使用中は、ゴムのにおいが口中に充満します。何とか、がまんして使いました。

 神経の治療中に細菌感染を起こすと、痛みが治まらず、その先の治療にすすめなくなってしまいます。この時、一般の患者なら、強い殺菌剤を使って消毒することができますが、これらの薬は劇薬ばかりです。CS患者で使える人は少ないです。そのため、始めから細菌感染を起こさないように、ラバーダムシートを使うことは、とても大切なことなのです。細菌感染が治まらないときは、最悪の場合、抜歯となります。抜けばいいのかというと、その後、抜いたあとを埋めるために、新たにいろいろな歯科材料を使わなければならず、その点でも苦労します。そのようなことを考えて、私の場合は、苦しいCS症状を我慢して、ラバーダムを使用しました。

 しかし、どうしてもあのにおいに耐えられないというCS患者もいると思います。実際に、あらかじめにおいを嗅がせてもらって、慎重に判断するようにしてください。

 ラバーダムは、天然ゴムのものと、ラテックスアレルギーの人のための「ラテックスフリー」のものがあります。私は天然ゴムのものを使ってもらいました。ラテックスフリーのものは(メーカーにもよると思いますが)、私が試したものは、ゴムのにおいを消すために合成の香料がしみ込ませてあるようでした。このにおいのため、とても使えそうにありませんでした。

 なお、ラバーダムを使う際に、シートを消毒します。ヨード・グリセリンなどの消毒剤です。「イソジン」のにおいが苦手な人は要注意です。私が治療したときは、この消毒を省いてもらいました。

 また、鼻の通りが悪い人は、ラバーダムを使うときに注意が必要です。口全体を覆うような形で装着するので、口呼吸の人は、息がしにくくなってしまいます。私も鼻の通りが悪いことがあるので、治療に際して、あらかじめ歯科医に相談しました。ラバーダムシートをとめる枠のつけ方を工夫してもらい、口を完全に覆わず、息が通るようにしてもらいました。CS患者の場合、「息ができない」ということは、強い不安に直結していくので、あらかじめ、歯科医に相談した方がいいです。

[隔壁]
 ラバーダムシートをとめるために、歯に金具をつけます。虫歯を削ったために、自分の歯(歯質)があまり残っていないと金具がうまくとまらないので、この時「隔壁」というものをつくります。 金具をとめるために、歯のまわりにぐるっと壁のようなものをつくって囲みます。さまざまな材料が使われますが、CS患者には、グラスアイオノマーセメントを使う場合があるようです。*40 グラスアイオノマーセメントが使える方は、これでやってもらうといいでしょう。グラスアイオノマーセメントが使えない人の場合は、歯科医師と相談して決めることになります。私はグラスアイオノマーセメントが使えなかったので、「コンポジットレジン」で隔壁をつくりました。しかし、私が使える「コンポジットレジン」は素材が強くないので、うまく金具がとまらず、治療中に追加でグラスアイオノマーセメントを使ったようです。隔壁は、治療後はずしてしまうので、一時的な使用では、少しぐあい悪くなっただけで済みました。

 他に、歯にプラスチックやアルミのカバーをかぶせて隔壁にすることもあります。*41
 

神経を抜く
 
神経の炎症が治まらなかったら、神経を抜くしかありません。これは大がかりな治療となります。

  治療の流れ
神経を抜く
(図1)抜いたあとの空洞を洗う消毒する(殺菌)つめる(図2)土台をつくる(図3)かぶせる(図3)

 まず麻酔をします。麻酔が使えない人は要注意です。麻酔を使わずに神経を抜くのは痛みを伴うため、代わりに特別な治療法が行われます。それは、神経のところに薬を入れて、神経を殺す治療です。神経が死んでしまえば、痛みを感じなくなるので、麻酔なしでも神経を抜くことができます。このとき使われるのは、有害な薬です。

1.ヒ素製剤
2.ホルムアルデヒド製剤  

さらに詳しく〈9〉歯髄失活剤

  ヒ素は毒性のある薬で、体に大変な害があります。歯科治療でヒ素を使うのは、この治療の時だけです。麻酔を使えない患者のために、特別に許可されている、といった薬です。このヒ素製剤が原因でCSを発症した方もいます。*42 決してこの治療をされないように気をつけてください。

 また、2.のホルムアルデヒド製剤の怖さはCS患者なら、誰でもご存じだと思います。シックハウス問題で、あれだけ有害だと言われている化学物質を口の中に入れるのです。従来、「入れたあと完全に封をしてしまえば、外にもれないから大丈夫だ」と考えられていましたが、実際には全身に広がることが確認されています。*43  研究によると、この薬品を使った人の尿中と呼気中に、ホルムアルデヒドが検出されています。口の中に使った場合、シックハウスとは比べものにならないくらい高い濃度で揮発するようです。

 患者が「麻酔を使えない」というと、歯科医の方で勝手にこの治療を行ってしまう場合があるので、よくよく注意して欲しいと思います。

 麻酔をどうしても使えない人は、痛みを我慢して無麻酔で神経を抜いてもらうしかありません。

  神経を抜くときには、まず、ヤスリで歯を削っていき、歯の天井を開けて神経を露出させます(図1)。ここに小さな棒状のヤスリを入れて、削り取るように神経を抜いていきます。このとき使うのは、とても小さなヤスリです(図2)。刃先は1.6cmです。神経を抜き終わったら、中は空洞になりま(図3)。

 

 

 

 

洗浄
 この空洞をよく洗います。目的は、中に残っている細菌や、神経を抜いたときの削りカスを溶かして洗い流すためです。このとき使われる洗浄剤は、

  過酸化水素水+次亜塩素酸ナトリウム

 過酸化水素水は、オキシドールのことで、髪を脱色させるほどの強い薬です。次亜塩素酸ナトリウムは、家庭用塩素系漂白剤と同じ成分です。これを口に入れたらどうなるか。CS患者の場合は、ひどい反応が起きる方が多いはずです。それほどの 強い薬をなぜ使うのかというと、空洞に残っている細菌を殺すためです。

 CS患者は、歯科医とよく相談して、治療方法を決めていく必要があります。私の場合は、薬品による洗浄を行わず、水で洗い流すだけにしてもらいました。歯科医によっては、水だけの洗浄に抵抗を示す場合があるかもしれません。その時は、話し合いで方針を決めていかなければなりません。

さらに詳しく〈10〉根管洗浄薬

 

薬を入れる
 空洞を洗ったあと、ここに薬を入れます。その目的は、空洞内の細菌を殺し、炎症をおさめることです。薬を入れて、その上を仮のつめものでふさぎます。

 このときも刺激の強い薬が多く使われます。薬によって配合が異なりますが、原料となるのは、次のような薬剤です。

フェノール 
 殺菌・防腐剤の原料となる。特有の臭気を持ち、有害。

グアヤコール 
 グアヤク樹脂やブナの木タールから精製した成分。特異臭のある結晶。クレオソートの主成分。

カンフル 
 樟脳の成分。防腐・防臭・防虫剤に使われる。

ホルムアルデヒド 
 シックハウスの原因物質。刺激臭のある無色の気体。水に溶かすと、ホルマリンになる。

パラホルムアルデヒド 
 ホルムアルデヒドの重合体。体温により徐々に分解して、ホルムアルデヒドを発生する。

クレゾール 
 コールタール・木タール中に含まれる成分。消毒薬・防腐剤に使用。

ヨードホルム 
 黄色の結晶。特異の臭気を持つ。防腐剤・殺菌剤に使われる。

水酸化カルシウム 
 石灰の成分。肥料・消毒に用いる。

など。*44,*45

 この中で、CS患者でも使えそうなのが、水酸化カルシウムです。水酸化カルシウムといえば、石灰の成分です。これは、アルカリ性が強いので、神経を抜いたあとの空洞に入れると、細菌が死にます。私が通うCS対応の歯科医院では、これを使用しています。

 注意して欲しい点は、水酸化カルシウム製剤と呼ばれているものの中には、刺激の強い成分を配合したものがあるということです。*46 水酸化カルシウムに、ヨードホルムを配合し、殺菌力を強めたものもあります。CS患者は、とても使えないと思います。

 商品名()「ビタペックス」(ネオ製薬工業)
      「カルビタール」(ネオ製薬工業)

 もし、歯科医に水酸化カルシウムの使用をお願いするのなら、ヨードホルムなど、CS患者にとって有害な成分が入っていないかよく確認する必要があります。私の主治医は、水酸化カルシウムの粉を水でといて使っています。

 他に、あらかじめ水酸化カルシウムが液体でといてある製品もあります。これは、水酸化カルシウムの他に添加剤が含まれています。よくにおいを嗅いで確認するようにしてください。

商品名()「カルシペックス」(日本歯科薬品) 主成分:水酸化カルシウム
     「カルシペックスプレーンII(日本歯科薬品) 主成分:水酸化カルシウム
*47

 神経を抜いたあとの空洞に薬を入れるとき、その薬の商品名がわかれば、次のサイトで成分を調べることができます。ここで調べれば、有害な成分が入っているかどうか、を知ることができます。

 「医薬品医療機器情報提供ホームページ」 内 「添付文書情報」
http://www.info.pmda.go.jp/ 内 http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html

  また、歯科治療で使われるもので、毒・劇薬、毒・劇物に指定されているものは、次のサイトにリストが載っています。
http://homepage2.nifty.com/isesaki-shikaishikai/shika-dokuyaku-gekiyaku.htm

 私の場合は、水酸化カルシウムを使うことにも不安があったので、別の治療方法をとってもらいました。水酸化カルシウムは、石灰と同じ成分ですが、私は重症だったとき、園芸用の石灰に刺激を感じました。そのため、水酸化カルシウムを使わず、他の薬も使わず、神経を抜いたその日に充填 材をつめてもらうことにしました。この方法は、神経の炎症や細菌感染が弱い場合にのみ使える方法です。炎症が強かったり、化膿して膿が出ている場合は、難しいと思います。歯科医師とよく相談して決めてください。

 水酸化カルシウムも使えない患者で、すぐに充填材をつめられない場合は、困ったことになります。この場合、薬を何も入れずに封だけして、様子を見るという方法もあります。しかし、この場合、うまく細菌感染が治まるのかどうか…場合によりけりですが、難しい事態ではあります。細菌感染や炎症が治まらない場合は、次のステップに進めないので、何週間も何ヶ月も様子を見続けることもあります。場合によっては、抜歯しなければならないこともあります。

さらに詳しく〈11〉根管消毒剤

 
つめる
 神経を抜いたあとの空洞に、薬を入れて、何日かたつと、痛みや腫れがとれてきます。そして、空洞の中に細菌がいなくなったら、次のステップに進みます。空洞の中に隙間なく充填 材をつめてふさぎます。

棒状の固形物を空洞の中に差し込み、その隙間をペースト状のもので埋めていきます。一番最初に太い棒を差し込み、さらに隙間に細い棒を差し込みます。その隙間をペーストで埋めて固めます(イラスト左)。隙間なく充填したら、上にはみ出た余分な部分を焼き切ります(イラスト右)

 この棒状のものを「ガッタパーチャポイント」といいます。
     
主成分 ガッタパーチャ 山ラン科植物の分泌物を精製したゴム質の材料
       酸化亜鉛 
       ワックスやレジン(プラスチック)
       造影剤(レントゲンに映るようにするため)
 *48 

さらに詳しく〈12〉根管充填

 棒のまわりを埋めるペーストは、さまざまな配合のものがありますが、CS的に問題のあるものが多いです。このペーストは、神経を抜いたあとの空洞を埋めるためのものなので、殺菌作用のある成分が配合されていることが多いのです。次のような成分です。

ユージノール
 チョウジ油(クローブの実からとれる油)。独特のにおいがある。 

ヨードホルム
 黄色の結晶。特異の臭気を持つ。防腐剤・殺菌剤に使われる。

チモール
 タチジャコウソウ(ティムス)という植物からとれる結晶。独特の香りがある。寄生虫の駆除剤。

クロロホルム
 揮発性の液体で、窒息製の臭気がある。麻酔薬・溶剤に使う。発ガン性あり。
*49,*50,*51

このような成分が配合されたものがあります。そのため、歯科医師によく成分を確かめ、サンプルのにおいを嗅がせてもらって選ぶべきです。   

さらに詳しく13〉根管用シーラー

 上記の方法が標準的な治療法ですが、私が受けた治療は、少し違っていました。私の場合は、「ガッタパーチャ」を加熱してとかし、空洞の中につめる方法でした。注射器のような器具の先から、溶かした充填 材を流し込みます。この方法だと、溶けた「ガッタパーチャ」が隙間なく充填されるため、においの強いペーストを使わなくてもいいのです。これは、CS患者には比較的安全な方法ですが、この方法を行っている歯科医院は、あまり数は多くないようです。そのため、一般の歯科医院に行った場合、上記の「棒を差し込み、ペーストで埋める方法」で治療されることがほとんどです。

 溶かしてつめる方法ですが、実際に体験してどうだったかを書きます。ガッタパーチャは天然の樹脂ですが、溶かすとゴムのようなにおいが立ちのぼりました。溶かすときにライターの炎であぶっていたのも、CS患者としては、少しビビりました。歯の中につめている間は、ガッタパーチャのにおいが気になりました。しかし、時間とともに冷えてくると、においは収まってきました。この材料にCS反応を起こしたら…と思うと心配だったのですが、この素材がだめだった場合、他に代わりとなるものがありません。覚悟を決めて治療を受けました。ガッタパーチャをつめた上に、さらにセメントなどをつめ、その上に「かぶせもの」をつけるので、口の中に揮発してくることは少ないのではないかと思います。 治療は無事に終わりました。

 私の口の中には、過去に神経の治療をした歯がたくさんありますが、「かぶせもの」を取ると、中の成分が揮発して、かなりの刺激です。しかし、普段は「かぶせもの」をつけているので、その成分の揮発はおさえられているようです。少しずつ揮発してきているのかもしれませんが…。

 一般の歯科医院で行う「棒を差し込み、ペーストで埋める方法」では、ガッタパーチャを加熱して溶かすことがないので、ゴムのにおいはさほど感じなくてすむのではないかと思います。問題となるのは、ペーストのにおいの方です。

土台をつくる
 ガッタパーチャをつめた上の部分に、「かぶせもの」をつけるための土台をつくります。通りの方法があります。

1.金属を鋳造して土台をつくる。
2.金属の棒を差し込み、まわりをレジン(プラスチック)で固める。
3.専用のセメントをつめる *52

         

自分の歯(歯質)がどれだけ残っているかによって、選択します。

.歯質があまり残っていないときは、この方法です。金属を鋳造するときは、銀合金がよく使われるようです。

  組成  銀 6575
      スズ 1522
      亜鉛 1020
     (銅 1025%添加したものあり)
*53

これは、金属で「つめもの」・「かぶせもの」をつくったときのように、型を取って、それに合わせて鋳造します。この鋳造体を接着するために、セメントを使います。セメントについては、前に書きました。

.歯質がある程度残っているときは、この方法です。金属の芯を差し込み、まわりを土台専用のプラスチックで固めます。このとき使われるプラスチックは、基本的に「コンポジットレジン」と同じつくりのものです。

.歯質がたくさん残っているときや、一時的に仮の土台をつくるときは、この方法です。神経を抜いてから、土台作りまでひととおり進んできたけれども、もしかして、もう一度治療をやり直さなければいけないかもしれない、などというときに、この方法でやります。

 私は、歯質がたくさん残っているということで、3.の方法を行ってもらいました。中につめるのは、土台専用のプラスチックです。これは、少しツーンとするにおいがありましたが、「かぶせもの」をつけたら気にならなくなりました。あらかじめ、サンプルをかがせてもらって判断できたのでよかったです。

 もし、土台専用のプラスチックのにおいが苦手なら、代わりの材料で治療してもらうという方法もあります。CS患者で、ここの部分をグラスアイオノマーセメントで作ってもらったという例もあります。*54

 メタルフリーの材料もあります。.の金属の棒の代わりに、グラスファイバーやカーボンファイバーを使った製品があります。歯科医師に相談してみてください。

さらに詳しく〈14〉神経の治療・専門用語2

かぶせものをつける
 
これは、前に書きました。


 


 以上で、ひととおり虫歯治療の解説を終わりました。このように見てくると、虫歯が深くなればなるほど、大がかりな治療が必要になることがわかります。特に、虫歯が神経に達すると、より複雑な治療になり、使う歯科材料の数も増えます。殺菌のために、強い薬剤を使うリスクが高まります。

 だから、虫歯が軽いうちに早めに歯科治療を受けて欲しいのです。CS患者が歯科治療を受けるのは、とても勇気のいることです。さまざまな困難が伴います。それでも、思い切って、治療を受けてみてください。

 全国のCS患者が、歯科医師にCSのことを説明すれば、それだけ、CSを理解してくれる歯科医が増えていきます。後に続くCS患者のためにも、勇気を出して、歯科治療を受けましょう!!

 

*** 謝辞 ******************************

日頃、私の治療をしてくださっている歯科医の先生に、感謝の気持ちを捧げます。

*************************************

 

 

まとめ

 治療に使う歯科材料の試し方

アレルギー・テスト
パッチテストをしてみる。
歯科金属のアレルギーを調べるには、皮膚科で、試薬を皮膚に貼り、腫れぐあいで調べる。
化学物質のアレルギーを調べるには、歯科医院で治療に使う材料のサンプルをもらい、皮膚科でパッチテストする。

◇ CS反応のテスト
歯科医院で、治療に使う材料のサンプルをもらい、においを嗅いでみる。
 

 軽い虫歯の治療

◇ 麻酔
アレルギーが心配な人は、病院で麻酔の皮内テストをしてみる。(歯医者さんで試薬をもらい、皮膚科に行って検査する。) CS反応を調べるには、歯科医院で、綿球にしみ込ませた麻酔薬を口の中に入れて、様子を見てみる。CS患者によいとされている麻酔薬は、「スキャンドネスト」。血管収縮薬や防腐剤が含まれていない。

◇ つめる
CS患者によいとされているものは、「グラスアイオノマーセメント(レジン無添加)」。これが一番害がないといわれている。「グラスアイオノマーセメント」が使えない人は、「コンポジットレジン」を使う。いろいろあるので、サンプルをもらって、嗅いでみる。「コンポジットレジン」は、表面処理剤(歯にくっつけるための材料)を使うので、こちらも嗅いでみること。


 深い虫歯の治療

◇ 型を取る(印象採得)
アルジネート+寒天印象材を使うとよい。シリコーン印象材は避けた方がよい。印象材はにおうが、短時間なので、できるならがまんする。

◇ かみ合わせの記録を取る(咬合採得)
シリコーンのものとパラフィンワックスのものがあるが、シリコーンの方がにおいはまし。パラフィンワックスは避けた方が無難。

◇ 仮のつめもの(仮封)
いろいろあるので、サンプルをかいで決めるとよい。ユージノールが入っているものは、においが強いので、避けた方がよい。

◇ 仮の歯
「即時重合レジン」を使う。粉・液を混ぜ合わせて固める。強烈な刺激があるので、できれば避けた方がよい。使うのなら、なるべく少量を短時間で。

◇ つめもの・かぶせもの(インレー・アンレー・クラウンなど)
金銀パラジウム合金が一般的。皮膚科で検査すると、金属アレルギーがあるかどうかわかる。金属アレルギーがある人は、代わりの金属を使う。メルフリーの材料もある。セラミック・硬質レジン。

◇ セメント
つめもの・かぶせものをつけるのに使う。CS患者は、「グラスアイオノマーセメント」を使うとよい。「グラスアイオノマーセメント」がだめな人は、接着性レジンセメントを使う。サンプルをもらい、においを嗅いで大丈夫かどうか、判断する。接着性レジンセメントは、表面処理剤のサンプルも嗅いで判断する。

 

 神経の治療

◇ 炎症を抑える
刺激の強い薬が多いので、なるべく避けた方がよい。成分を確認し、においをよく嗅いで、検討する。

◇ ラバーダム
ゴムのにおいが強いが、感染防止のために、なるべく使った方がよい。天然ゴムのものと合成ゴムのものがある。嗅いでみて、ましな方を選ぶ。どうしてもにおいに耐えられない場合は、歯科医に相談。

◇ 隔壁
歯にラバーダムシートを金具でとめるための壁をつくる。CS患者は、「グラスアイオノマーセメント」を使ってもらうとよい。後は相談。

◇ 神経を抜く(抜髄)
麻酔が使えない人は、ヒ素製剤・ホルムアルデヒド製剤で神経を殺す治療をされることがあるので、要注意。有害性が高いので、この治療は受けないこと。麻酔が使えない人は、麻酔なしで神経を抜くことになる。

◇ 洗浄(根管洗浄)
神経を抜いた後の空洞を洗う。過酸化水素水・次亜塩素酸ナトリウムを使う治療となる。どちらも刺激が強いので、CS患者は使わない方がよい。水だけで流すという方法もある。歯科医とよく相談して、方法を決める。

◇ 薬を入れる(根管貼薬)
大変刺激の強い有害なものが多い。CS患者には、水酸化カルシウムが一番まし。水酸化カルシウム製剤の中に殺菌成分が添加されているものがあるので、要注意(「カルビタール」「ビタペックス」など)。よく確認する。水酸化カルシウムのみのものを使ってもらう。(水酸化カルシウムの粉を水でとく。もしくは、「カルシペックス」「カルシペックスプレーンII」。) CS患者の中には、水酸化カルシウムでぐあい悪くなる人もいる。その時は、歯科医に相談。

◇ つめる(根管充填)
(ガッタパーチャポイント)の隙間を埋めるペースト(根管用シーラー)に有害なものが多い。成分をよく確認する。サンプルをよく嗅ぐ。クロロホルムが含まれているものは避ける。

◇ 土台をつくる(支台築造)
(コア)を接着するときや隙間を埋めるときに、セメントを使うので、サンプルをもらって検討する。

 

 

※出典一覧・資料一覧      
 

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